第五十一話
帰る体など無い、メモリー上に展開された
プログラム、コピーされた人格。
それが今の俺だというのか。
しかし何か引っかかる。
果たして本当にそうなのか
今のはあくまで太郎の推論であって
その事実確認の方法は無い。
キリト軍団。
あいつらもメニューが開かないと言っていた。
あれはNPCでは無い。
それに死んだ時も死体が残らなかった。
光の粒子になって消えたのだ。
あれが死亡ログアクトではないのだろうか。
俺はその時の事を太郎に言ってみた。
「あ、じゃあベネットのイベントやったんだね
仲間になってる?」
キリト軍団はプレイヤーの振りをした
NPCだったって事か
ややこしい
「えーと・・・ベネットってどういうキャラなの」
太郎の話だと、事前のプレイヤーバランスが
神側に偏っていたため、運営の太郎は悪魔側に
行ってバランスを取る手筈だったらしい。
アモンも神・四大天使などと同じで
通常ならプレイヤーは操作出来ないキャラだ。
まぁデタラメに強いからなぁ・・・・
それで、ベネットはアモンのガイドする役に
なるカラクリだったそうだ。
そうかー
知らなかったんだから
しょうがない。
俺は悪くない。
「どこ?ここにいないの」
正直に言う事にする。
「それがさ・・・さっき捨てちゃったんだよね」
「捨てた?倒したんじゃなくて?」
「魔核を破壊すると他の悪魔が強化されそうな
気がしてさ」
「おぉ流石、分かってるねー各個撃破で
どの順番で倒しても後の魔神の方が
強くなってるカラクリなんだ」
「そうか。だから魔核だけ捨てた」
「じゃあ復活して戻って来る・・・ね
周囲の物質を取り込んで体を再生させるから」
こんな予想ばかり当たるな。
「そんな気がしたんでな。周囲に物質の無い
宇宙空間に捨てた。お前に会ったのは
その帰りなんだ。」
「・・・。」
おい、なんか言え
「この場合どうなる」
「分かんないよー」
「ていうか宇宙空間の設定でどーなってるんだ
距離無限大か?」
大抵の場合、どんなゲームでもそれ以上、
キャラが上昇出来ないフィールドの天井を
設定している。
「いや、担当外だし。そんな上方向に
行くイベントも無いし、分からないよ」
「・・・・ガイド無しか」
「そうなちゃうね」
しばらく沈黙が続く。
これから、どうするべきなのか
これから、どうなるのか。
その沈黙をプリプラが破った。
「あたし記念品もらってなーい」
そこですか。
うらやましい。
こいつのバカが羨ましく感じる日が来るなんて
「小梅ちゃん、あのね」
太郎が更に噛砕いて現状の説明をした。
やっと事態を理解たプリプラは激怒した。
「人の個性を勝手に使うなんて違法じゃない」
そんな法律はまだ出来て無い。
「その了承の下りも事前に記入して
もらった誓約書に書いてある・・・んだよね」
太郎は申し訳なさそうに言った。
「あのゲーム内におけるプレイデーターは
当社に帰属しますって項目か」
俺は誓約書の内容を出来る限り思い出そうと
するが、ちゃんと読んで無かった。
大量に何か書いてあったが読むのが
面倒くさかったのだ。
保険の契約書と同じで
サインさせるのが目的で
理解してもらうのが目的では無い作りなのだろう
後々トラブルの際に
ちゃんと読んで無かったそっちが悪いって事だ。
「俺が書いた誓約書じゃないけど社は
多分そういう意味にする気だと思う」
「ずるくない」
ただで遊ばせてくれるハズも無い。
会社の方にも目的や利益があっての事だ。
「もうやだ。こんなの家に帰りたいよ」
それが、もう出来ないって話だったんだよ。
プリプラは泣き始めてしまい
俺たちは、またしばらく沈黙した。
「これから、どうするのぉどぉなるのぉ」
泣きながら言ってる。
こっちが聞きたいトコロだ。
「自由・・・としか言えないかな。」
太郎自身どうしたらいいのか分からないのだろう
「自由って言ったって電源が切れたら
全部消えちゃうんでしょ!!」
プリプラは更に捲し立てる。
「いつ切れるの!いつまで生きていられるの!
いつ死ぬか分からないのに何をしろっていうの」
あれ
「プリプラ・・・それは現実でも同じだ」
そうだ。
あの無理ゲー「現実」だって同じだ。