第五十話
人目を忍んで侵入するつもりだったが
大佐ぁどういう事だ。
誰も居ないぞ。(ねっとりと)
村人達は既に熟睡モードで灯りもまばらだ。
先程まで喧噪とはえらい違いだ。
やはりベレンは都会になるのだ。
結局、人目に触れる事無く村長の家まで
いく事が出来た。
預かっていた合鍵でそーっとドアを開ける。
村長夫妻はもう寝ているだろうから
騒ぐのは悪いからだ。
そーっと開けたにも関わらず
人の気遣いを無駄にする勢いで
数人、玄関までバタバタとやってくる。
灯りは持ち運び用の小さな燭台。
いわゆるロウソク立てだ。
それを持って先頭でやって来たのは
ハンスだった。
「アモンさん。戻って来てくれたのですね」
バカ、声がでかい。
「だから言うたじゃろ。心配いらぬと」
腕を組んで言うヴィータをプリプラが
からかう。
「その割には落ち着きが無かったよね」
「騒ぐな。村長夫妻はもう寝てんだろ」
皆を静かにさせ、事情を聞くと
どうも、ハンスは俺がそのまま悪魔側に
行ってしまうつもりなんじゃないかと
想像していたらしい。
「戻ると言ったろ」
「ハハそうですよね」
「・・・で、外に居るのは誰なんじゃ
まーた単独行動で何か拾ってきおったな」
流石は女神だ。
太郎の存在を既に感知している。
しかし、言われてみれば
単独行動で何か拾ってくるクセ
返す言葉が無い、
その通りの行動をしているな。
お持ち帰りするなら太郎より
ババァルの方が良かった。
ああ、もう一度あの揺れを
いや、今は考えるな。
「ずーっと探していた人物なんだ
今回は許してくれ」
「・・・え?」
俺の言葉に敏感に反応するプリプラ。
何、今のカワイイ「え」って声
普段からそういう声で俺とも
話してくれないものだろうか。
「太郎を連れてきた。」
俺がそう言うと、太郎は扉を開けて
玄関の中に入って来た。
打ち合わせてもいないのに
うまいタイミングだ。
「何そのアバターださーい、
たけしじゃないんだから
やっだー笑っちゃう」
ぶっ殺すぞこのアマ
「例の言語!?ではお話にあった
異世界の人なんですね」
ハンスは日本語の発音や
口調を判別出来るように
なっていた。
やぱり頭はイイのだろうな
「そうなんだ、それでちょっと頼みがある」
少し三人だけで話がしたいという事を
二人に頼み込み快諾してもらった。
男子部屋と女子部屋という事で
二部屋あてがわれていたのだ。
その内の女子部屋に俺たちは集まった。
ハンスとヴィータは男子部屋で
待っていてもらう事になった。
「みんな無事でよかったよー
あ、もう翼を出してもイイよね
窮屈なんだよねコレ」
そう言うと許可を待たず服の外に翼を出す。
「あー背中がこる。肩こりが背中で起きてる
感触だよコレ」
バサバサと腕を回すかのように
翼をワキワキ動かす太郎。
その度に羽が舞うわ風が結構吹くわ
うわ、室内の天使って邪魔だな。
飼うなら外だな
「羽ばたくな。後、無事じゃねーから」
「そーよ。メニュー画面が開かないの
なんなのーこのバグ」
太郎はすました顔でベッドに腰掛けると
慌てる事無く、普通の調子で言った。
「・・・やっぱり開かないか。」
「お前も開かないのか」
俺の問いに太郎は即答する。
「うん。そしてこれはバグじゃない」
「え?」
「えー」
太郎は語り始めた。
「最初は俺もバグじゃないかと
あれこれ試したんだけどね・・・
これだけ時間が経過してしまっていたら
これはバグじゃないもう一つの可能性の方だ」
現実の異世界に転移。
俺はずっと考えていた事だ
しかし、太郎の口から出た言葉は想定外の内容だった。
「僕等はもうNPCだ」
時間が立った?
NPC?
予想外の言葉に俺は混乱した
一つづつ聞いていこう。
「時間の経過で判断できるのか」
加速時間。
こちらで何日経っても現実では数分
その可能性で考える事をしないでいた。
「うん、プレイは社の方でモニターしてるからね
最大でも3倍速、それ以上だと何言ってるか
分からないからね」
もう何日経ったっけ
「だからこんなに時間が経つハズ無いんだ
飲まず食わずで寝っ転がってる本体が
飢え死にしちゃうからね」
そうだ。
心電図などを取る為に体にセンサーは
貼り付けた。
しかし栄養を供給するような点滴は無い。
糞尿だって大変な事になる。
「ええええいいいいいやいや待って
じゃ、なんでログアウト出来てないの」
俺もプリプラも今まさにプレイ中じゃないか
「とっくにログアウトしてるんだよ
ここでのプレイの記憶を持って
人間本体はもう現実世界で生きてるよ」
唖然とする俺
意味が分かってなさそうなプリプラ
「あー面白かったって言ってさ
アンンケート記入して記念品もらって
早く製品版プレイしたいなーって
家でビール飲みながら言ってるよ、きっと
ここにいる自分のコピーの事なんて
想像すら出来ていない」
「自分のコピー?」
「うん。このゲームのNPCには
人工知能が奢ってあってさ。
今までのゲームと違って各々個性が
設定されているんだ。いつ何時でも
村の入り口に突っ立ていて、話しかけられたら
【ここは○○の村だ】としか言えないキャラじゃない
雨が降れば濡れない様に引っ込むし、バカにすれば
怒ったりもする」
周りくどくも
分かりやすい様に太郎は
話してくれている。
「今回の僕等は、いわゆる冒険者みたいに
突然、現れたり消えたり出来ないNPCで
ログインしてしまった。」
ゆっくりと話す太郎。
この辺りは上手だと思う
俺なら凄い早口で説明しそう
「NPCは消えるワケにはいかない
死亡する以外はね。操作した僕等が
ログアウトした後も存在して
ゲームの時間と共に生きている。
そこでプレイした人の個性をそのまま
プログラムとして残し
人工知能としてプレイを続行させる。
前後の行動に齟齬が出ない様にする為
いや、実際には実験だね。
もう一つの・・・もしかしたら社の
こっちが本命かもしれない」
俺は
今ここにいる俺は
「NPCだから痛みを与える方がリアルになる
本人は知らないワケだから苦情も来ない」
誰なんだ
「NPCだからメニュー画面が開かないのは
当たり前だよね。ログアウトしないんだから」