第四十六話
俺はイヤな予感してハンスの方を見た。
案の定、今にも壁に立てかけたエッダちゃんの槍改に
飛びつき襲い掛かりそうな雰囲気だった。
こいつに武器を渡したのは失敗だったかもしれない。
「ちょっとトイレ」
俺はトイレに行く為、立ち上がるとハンスに
目くばせする。
「あ、では私も」
察しが良くて助かる。
店員にトイレの場所を聞くとハンスと入り
並んで小便の振りをする。
隣のハンスは勢い良く音を立てる。
なんだよ。本当にしたかったのか
「ふううううううう緊張いたしますねー」
緊張から解き放たれたハンスは下の蛇口も
豪快に解き放っている。
俺はハンスに釘を刺しておく事にした。
「変な気は起こすなよ」
「しかし、これは魔王を討つ千載一遇のチャンスでは」
ただの人間では気づかないのも仕方が無いが
想定出来ても良さそうな物だ。
「ババァルの影の中に何か居る。何位か知らんが
魔神だろうな。」
護衛も無しに一人でうろつける立場じゃない。
天然ババァルでは敵にもバレてしまうので
ババァルにも内緒で護衛が終始ついて守っている。
気を利かせて動くのはベネットだけ特別と
言うワケでは無いのだろう
それが逆に魔王自身の求心力の無さと
ババァルを落ち込ませている原因になっているのだが
部下共は気づいているのだろうか
いくらただの電池とは言え
王なんだから、もう少し持ち上げてやればいいのに
「な・・・・そうですか」
音が止まる。
「ベネットさんはそんな注意は」
「あのなぁアイツは俺と違って純粋な悪魔だ
ハンスがここで殺された方が面白くなりそうだ
位にしか思ってないぞ。味方じゃないからな」
俺がトイレに誘わなかった場合を
想像しているのだろうかハンスは冷や汗を
流していた。
「聞かれ無かったら言いませんでした。殺しますけど
殺さないで下さいなんて通りません」
俺は手を洗いながら続けた。
「お前が殺された後、奴がいかにも
そう言いそうじゃないか」
「ハハ・・・ですね」
ハンスも手を洗う。
「それにまだ聞く事があるしな」
部屋に戻ると俺は椅子に腰かけ話の続きを
始める事にした。
「俺へのエネルギー供給を止める事は出来ないのか」
出来ないのは想像がついている。
やれるならとっくにやっているのだ。
何故出来ないのかが知りたい。
キョトンとした顔のまま・・・もしかして
これが素の表情じゃないだろうな・・・。
とにかくキョトンとした表情で頬を赤らめ
ベネットに助け船を求めるべくベネットを見る魔王。
おいおい本当に何も分かって無いんじゃないのか
このポンコツ魔王。
「・・・それも私から」
えーと、これも纏めると個別のスイッチは無い
クリスマスツリーの電飾みたいなもので
全悪魔への供給か停止しか出来ないらしい。
「さて、そろそろ纏めようか」
悪魔がこの世をどうするつもりなのかは知った。
後は俺をどうする気なのかだ。
「俺をどうする気だ」
二位が返り討ちだ。
魔王は攻撃力無し。
力の供給も止められない。
ひとまず身の安全は確保できた。
少々強気でもいいだろう。
「こちらには強制的にどうこうする
手だてはありませんわ・・・あなたは
その・・・・どうなさるおつもりなんですの」
逆に聞かれた。
正直に言おう。
「もう少し考える。とにかく今は無事に
ハンスを帰したいな」
俺はババァルの足元の影を見ながら。
ちょっとだけ殺気を出して言った。
「・・・チッ」
悪魔耳でなければ聞こえない程小さく
ベネットが舌打ちした。
気づいていなければ俺をどうにかする算段が
どうやらあったようだ。
「ベネット君は魔王の所へ帰りたいよねー」
「その気持ちは山々なのですが、我が君
このままこの者について行く事を希望
いたします」
すかさず申し出るベネット。
生殺与奪はこっちにあるが
ここで破壊するのは騒ぎになる。
持って帰って壊す方がイイだろう。
「分かりましたわ。あのよろしいのでしょうか」
魔王ー
もう少し部下に愛着があってもいいんじゃないですかー
「はぁ、じゃあお借りしますね」
なんか魔王がモジモジしはじめた
揺れる揺れるすげぇ
「あの・・・私たちの味方になって
くれるのを待っておりますわ」
「・・・その時はヨロシク」
「はい」
いい笑顔だ。
もう悪魔だし悪魔サイドに加担でイイかな
この揺れをいつも堪能できるなら
もうそれ以外何もいらないんじゃないだろうか
「あの・・・」
まだモジモジしてやがる
他に何かあるのか
「どうしました」
「何か・・・その・・・・」
「どうしました」
「あ・・・甘いモノを頂きたいのですが」
頼んだ料理は食事やつまみなどだった
魔王も女子だ。
あの二匹の獣達と同じ女子か。
「メニューには甘味がありませんでしたね」
ハンスが思い起こしながら言う。
確かに無かったような気がする。
ざっと今日街を見て回った感想だが
この世界にはスィーツが少ない。
俺は出発の際に確保したドラ焼きもどきを
思い出し、荷物から包みを取り出すと
魔王の前に置いた。
「こんなんしか無いけど」
魔王は包みを開いてドラ焼きもどきを
取り出すと向きを色々変えながら
しげしげと眺める。
「これは・・・なんですの」
「俺のいた世界のお菓子です。ドラ焼きと言って
アンコを小麦の焼いた生地で挟んだものです」
「・・・アンコ?」
知らないのか・・・。
魔王は警戒する素振りも無く
ドラ焼きにパクつく
でかい口なのに可愛く小さく噛む
くそう可愛いじゃねーか
魔王が何かに覚醒した。
目を見開くと一心不乱に
ドラ焼きをむさぼり始める。
こいつも獣だった。
「これは・・・これは・・・」
すごいすごい
ブルンブルンさせながら
バクバク食っていく
「黒い塊なのに上品な甘み
私の理想に近いですわ」
×暗黒魔王
〇アンコ食う魔王
だった。