第四十二話
とりあえず情報が欲しい。
170cm級悪魔になった俺は背中に創業祭
腕でハンスの脇を抱え飛行中だ。
ヴィータとプリプラは貧しい村
バロードに留守番という名の女子会を
行っている。
余り過ぎた蜂蜜の使い道に
俺は餡子、まぁアンパンの中身だ
どうも小豆っぽい豆がエルフの里に
あったので、砂糖の代替品に蜂蜜で
作ってみた。
これがエルフの里に中々高評価だったので
壺一つ分、持って来ていた。
しかし、壺からアンコだけをひたすら
すくって食うのは絵面的どうも
なんか妖怪みたいなので
もち米っぽい物も頂いて帰り
あんころ餅を作り、ついでに小麦粉を
コネて焼いてドラ焼きも作ってみたのだ。
これが女子二人を獣に変えてしまった。
情報の為の偵察を理由に
自分達の分を確保し脱出した。
あそこに居るのは危険な気がしたのだ。
バロードから中間地点の街ベレンまで
一日の距離なので、ハンスを抱えて低速飛行でも
小一時間で到着する。
人目に付きにくい林に着陸すると
俺は人化しハンスと二人で徒歩で
ベレンに入る。
ベレンは大きな街だ。
もう都市と表現したほうが適切だろう
天然の川、二股に分かれた川を
そのまま堀の代わりに利用し
城壁で市街地は囲まれている。
その川がそのまま舟での流通経路に
なっていて、西の聖都、北と南の
大きな都市の流通が集まる場所に
なっている。
日が暮れて間もないが
貧しい村のバロードはもう睡眠タイムだ。
夜明けと共に目覚め、働き
日暮れと共に眠る生活だ。
しかしベレンは違う。
眠らない街っていうの
通りは光る鉱石や苔を利用した街灯に
照らされ、様々な店が絶賛開店中だ。
もう、なんでもある。
宿屋はもちろんメシ屋、酒場、武器屋、防具屋。
遊興も力が入っていてカジノも色街もある。
ここを治める貴族が商才にも溢れた人との評判で
どこかの国のように法律上はいけないと
言いつつ、実質的には見逃されている状態だ。
もちろん裏では情報やら金銭やら天下りが
横行している。
そんな所まで、どっかの国とソックリだ。
ファンタジー世界の街のイメージそのままだ。
ここで洋食屋とか居酒屋やってれば
もう、それでイイような気がする。
街には、拍子抜けするほどあっさり入れた。
人の出入りの多さから検閲にあまり時間を
掛けていられないのだろう。
その代わり街中の警備はしっかりしている。
軽装ながらも揃いの鎧を着た衛兵が
どこでも目に入る。
来るもの拒まず、犯罪者逃がさず。
そんなスタンスなのだろう。
ベレンで真っ先に向かったのは教会だ。
来る途中の様子、聞こえてくる会話などから
聖騎士団はまだ到着していないようだ。
そんなハズは無いので確認の為に
ハンスは教会に行った。
流石に教会をスルーするはずは無い
来ているのかいないのかハッキリさせる。
俺も教会に誘われたのだが遠慮した
完全人化は不安なので半人化だ。
この状態で教会は色々よろしくない。
俺は教会近くの飲み屋で時間を潰す事にした。
「ここには立ち寄っていませんね」
背中の創業祭が喋った。
こんな大勢人がいる場所でなんて事をと
思ったのだが注目が集まる事は無かった。
人が多すぎるのだ。
「そういう予定だったのか」
「いいえ、予定はお任せなので
細かい日程は知らないのですが」
俺も常にデビルアイを起動させ
周囲を観察しているが、変わった様子は無い。
「滞在しているなら、こんなに美味しそうな
餌を放っては置かないでしょうからね」
最もだ。
栄えている街
人生を謳歌している人々ばかりだ
そんな幸せそうな彼らが恐怖に怯えるとしたら
かなり美味いだろう。
「居なくて残念だな。オレから逃れる
チャンスはまた先の機会だな」
「それなんですが」
皮肉を言ったつもりだったのだが
ベネットの反応は予想とは違った。
「剣のままでよろしいので、連れて行って
頂けないでしょうか」
「なんでだ。魔界に帰りたいんじゃなかったのか」
「はい。いずれは、しかしこのまま
今回の成り行きを見届けたい気持ちが
私の中で大きくなりました」
嘘はついていないようだ。
ただ「技」のベネットなので
話術や交渉も技術に含まれるならば
俺には見抜けないかもしれない
「酔狂なんだろ」
「今ならアモンの気持ちが少し理解
出来ます。あなたは面白い」
嫌な気はしないが
いい気もしない。
もっとこう
カッコイイとか言えないものか
適当に店を見て回ってから
打合せの待合場所である飲み屋向かうと
なんと、すでにハンスが来ていた。
「アモンさんこっちです」
入り口の俺を見て、ハンス君はさわやかに
大声を出す。はずかしいからやめろ。
「悪い。時間潰しに色々見て回っていた
待たせちまったか」
「いいえ、丁度私も今来たばかりです」
んー
こういうのは女の子とやりたいぞ。
首尾を聞くと、なんと聖騎士団が
立ち寄っていないのは本当らしい
それどころか「神を保護した」という情報すら
教会にはいってなかったのだ。
「これは・・・もう聖都に行ってますね」
背中の創業祭は断言した。
この街に時間を掛けるより
戦略的価値の高い聖都陥落が優先されたのだ。
聖都さえ手に入れば、後はどうとでもなるのだ。
「でも時間的に不自然にならないか」
距離に対して馬車の移動速度が
異常な速さになってしまう。
「神の奇跡とでも言えば良いでしょう」
疑うな。
この命令は常識的な不自然さをも凌駕するのか
いやー無理があるだろう。
「あんた、アモンていうのかい?」
隣のテーブルの酔っぱらいが話しかけてきた。
「・・・あぁそうだが。何か?」
ひと目見て酔っぱらい。
良く観察しても酔っぱらい。
念のためデビルアイで走査しても酔っぱらい。
怪しい所は無い。
「ヒック・・・あんたを探している人が居たぜ」
そいつの隣の連れも思い出した様に言った。
「ああ、アモンって言ってたっけなぁ」
・・・・誰だ?!