第四十話
「ただいまー」
なんだかんだで時間が掛かり
戻ったのは夕刻になってしまった。
ほんの数日なのに懐かしさや
深い親交を感じたのは色々濃い出来事が
多かったせいだろう。
何年も勤めた工場の連中より
エルフ達の方が愛おしく感じる。
時間よりも密度なのか
逆に言えばリアルの俺は
本気で向き合っていないのだろう
元の世界に戻ったら、ちょっと
付き合い方を変えてみようかと思った。
「戻ったか」
「お帰りなさい」
「おかー」
背中のリュックを下ろし、依頼されていた
品物を女子二人に渡す。
二人は早速フルーツ蜂蜜和え作成に
取り掛かる。
どんだけ好きなんだ。
ヨハンからの返信をハンスに渡すと
俺はそのまま、ヨハンと話した事を
ハンスに説明する事にした。
「聖都には偽聖騎士団は入れない・・・ですか」
俺の言葉を繰り返すハンスに俺は
力強くうなずく。
「ああ、なんでも・・・」
ここからが大事だ。
「大司教クラスの目を誤魔化す程の
変化は悪魔には出来ない、と俺の
目の前で断言してたぞ。俺の目の前でな
そりゃあもう自信たっぷりのドヤ顔で」
「その辺で許してあげて下さい」
こめかみを押えるハンス君。
元気そうだったのは事実だ。
威厳に満ち満ちていた。
あれが普段のヨハンなのだろう
俺が見たヨハンは普段とは違う
例外的な状況ばかりだった。
「・・・同様の事が書いてありますね。」
ヨハンの手紙に目を通すハンス君。
「いや、ヨハンの言う通りではないか
こやつの変化は特別じゃぞ」
横からヴィータだ。
どうでもいいが、食いながら喋るな。
「いえ、見破れないと思いますよ」
今度は背中からだ。
復活したベネット、インテリジェンスソードと
なった創業祭が喋った。
俺は背中から創業祭を壁に立てかけてやり
皆に良く聞こえる様にしてやった。
「かたじけない」
「お前、悪魔のクセに丁寧だよな」
「いえいえ、下級悪魔のほうが
見かける頻度が多いせいで下品な
イメージが先行しているようですが
本来、悪魔は親切丁寧、信用第一です」
「そうなのか」
「ですです。考えてもみてください。
願いを叶えて魂を頂く。これは契約です。
信用してもらわねば始まりません」
「だな。」
「しかも飛び込み営業です。
友人のように長い年月を共に過ごして
得た信頼とかありませんので」
「欲に目の眩んだ人間が呼び出すんじゃ
ないのか」
「そう言う儀式を行える知識の
ある方も、もちろん居られますが
少数ですな。こちらから探して
営業を仕掛ける方が多いのです」
いわゆる、魔が差す・悪魔が囁く
そう表現される現象なのだろう。
人間の方も怪しいと分かっていながらも
託すワケだから、信頼を得る話術・交渉術に
長けるのも頷ける。
「私に言わせれば、神の方がよっぽど
いい加減で適当で感情的な俗物ですよ」
「なんじゃとー貴っ様ぁー」
早速、感情的になってるヴィータ。
俺はいい加減で適当な俗物の口を塞ぐと
話を戻す事にした。
「話を戻そう。見破れない確信の根拠を
教えてくれ」
くそ、口の周り蜂蜜だらけじゃ無ぇか
手がベタついて不快だ。
俺はすかさず、もう一方の手で
ポケットからハンカチを取り出すと
悪魔光線とは反対の力を込める。
悪魔光線は熱線だ。
物体を構成している原子。
中心の原子核の周りを周回している
電子の回転速度の速さ温度だ。
これが停止する速度が低温の限界
良く言われる「絶対零度」アブソリュート・ゼロだ。
どっちも厨二心をくすぐる言い方なので
好きな方で呼ぶといい。
現実問題として絶対零度は理論上の存在で
電子の動きが停止する事は無い。
そのまえに崩壊してしまうのだ。
限りなく近づく事は出来ても決して到達しない。
悪魔光線は逆で電子を加速させる。
電子の質量をゼロと考えるならば
高温には物理上限界点は無い事になる。
しかし、これも物体がプラズマ化を経て
崩壊に至る。低温と違い原子の種類で崩壊の
温度はまちまちだ。
悪魔の体を構成している金属粒子、これを
加熱しプラズマ化させ光線として打ち出す。
これが悪魔光線だ。
色々試してみたが最低でも6000度
これ以下だと光線になってくれない。
もっと低温で発動する金属があれば
出せるかもしれない。見つけたら是非
体に取り込みストックしておきたい。
悪魔光線は便利だが、威力が強すぎて
使いどころが難しい。
それとは逆の力。
つまり電子速度を落として低温を
生み出す技だ。
これが実は苦手。
というか加速させる方が簡単なのだ。
元の世界でも暖は太古から人類は取っていたが
冷房は科学技術が発達してからだ。
俺は出来なくは無いのだが
攻撃力に至る程の低温は出せない
出せるまで時間もかかる上、労力に見合わない
威力になってだろう。
それでも生活程度ならば便利なので
今回は手の平を低温化させ結露させ
空気中の水分を集める。
氷を入れたグラスの周りが濡れる
あの現象だ。
そうやってハンカチを濡らすと
ヴィータの口の回りを拭いてやる。
ヴィータは抵抗せず、どちらかというと
気持ちよさげに、されるがままになっている。
もちろん、その後自分の手も拭う。
「聖都に向かった部隊。その中にいるのが
魔神13将序列3位・幻のダッソと4位
磔のジュノ、この二人なのです」
力強く、ドヤ顔で・・・顔は付いていないが
ベネットは言い切った。
どうだと言わんばかりだが
俺達はポカーンだ。
「誰じゃ。」
「魔神13将序列3位・幻の」
繰り返そうとするベネットに俺は
能力の説明を要求した。
「どんな力を使うんだ、その二人は」