第三十七話
「動く・・・のですか」
槍を構えるハンス。
治療の時と違い聖属性の輝きが弱い
根本的に攻撃には向いていない性格なのだろう
「この剣は悪魔の体の一部から作られてはいるが
皮膚を変化させたもので単独では動かないが
力の根源たる魔核をセットしたら勝手に動ける
かも知れない」
翼ほどではないが他の部位でも重力の
制御はある程度可能な事は体感で知っている。
「動く素振りを見せて破壊して頂くのも
一つの手ですかね」
創業祭、ベネットが喋った。
俺のイメージで声帯を作ったので元より
喉太い声になってしまった。
柄の部分に加工した口がパカパカと
魔核の光の点滅に合わせて動く。
槍に力を込めるハンス。
緊張が伝わる。
「インテリジェンスソード!」
雰囲気をぶち壊しにしながらプリプラが
狂喜する。
小梅、お前なら分かってくれると信じていた。
ファンタジーはこうでなくっちゃあな。
俺はハンスを手で制して創業祭に話しかけた。
「さっきの続きだ。魔王はどこだ」
ヴィータが西の端、聖都を目指すように
魔王は反対側の東に魔都とでも呼ばれる
拠点でもあるのだろうか。
そもそも降臨はいつ、どこだったのだろう。
創業祭は淡々と疑問に答えてくれた。
降臨はなんとヴィータの洞窟と同じ場所だった。
魔王ババァルは降臨すると直ぐに転移を発動
した。ヨハンが聖属性の秘術を使っていたせいで
本能的に、ほぼ反射で使用したのではとの
創業祭の予想だ。
この時に壁を含む球状の転移のせいで
洞窟内の構造が急変し崩落に至ったのだろう
遠ざけたいと魔王が願望したせいでヨハンは
森の中、単独で転がされたワケだ。
そこにエルフが通りがかったという流れだ。
神と聖騎士団に偽装し、あの廃墟の城で
魔王と護衛で東に向かうグループと分かれたそうだ。
あのコントは現地で再現されたのか。
「つまり魔王はもう東に到着してる感じか」
悪魔の飛行能力なら一日で大陸を横断出来る。
こちらと違って人の移動速度を気にする
必要は無い。
「私は魔王の憂いを晴らすべく単独で
女神討伐に動いた次第です」
「で、その有様か。大勢で来れば良かったのに」
そうは言ったが、事実ベネット一人で事足りた。
あの時、連れ去らずにヴィータを亡き者にしておけば
良かったのだから。
「警戒され発見が困難になる事と聖騎士の
集団が偽装だと人間共にバレてしまう
この二つの理由から大群という選択は
ありませんでした」
魔王に会いたかったが、今の段階で
PTを抜けられるはずもない。
ヴィータの話を信じるなら俺は
聖都には入らないで良いので
近くの街まで護衛して引き渡してからだな。
「うーん、一回ババァルに会いたかったな」
俺の一言に皆、驚愕する
「ババァルじゃと?!」
「ババァル?それは本当なのですか」
「やっだーババァルって最強じゃない」
「様をつけて呼んでください」
俺はベネット以外の三人に「そうらしい」と
返事をした。
「よりにもよって暗黒魔王じゃとは、我とは
相性が最悪じゃ・・・。」
なんでも豊穣の効果は全て打ち消されるらしい
俺に言わせればヴィータの格が低いから
輝きが足りないだけじゃないかと思ったが
黙っていよう。
降臨のカラクリを知っていない者達には
かなり残念なお知らせになってしまった。
ハンスは落ち込むヴィータを勇気づける
「神だけに頼るのではなく皆の力で勝利しましょう」
ハンス君、それってヴィータにダメ出し
しているのと同意だぞ。
でも、これが言い方ぁって奴か
勉強になるな。
「えー」
こいつはいつも通り「えー」しか言わないので
これまで通り放置しよう。
俺は余裕だ。
降臨のカラクリを知っている事と
魔神13将の1・2位がここにいるのだ
2位がこの程度なら3位以下も問題にならない
もう相手は飛車角落ちの状態だ。
問題はババァルだけだ。
アモンサイクロペディアには
「苦手」と一言だけしか書いてない。
シンアモンさんは筆不精だ。
これでどう戦えと言うのだろう。