第三十五話
「何をするか」
俺はそう言って起きた。
「ふぁっ」
いきなり起きた俺に驚くヴィータ
両の掌からは黄金の輝きが保たれている。
「お起こしてしもたか。」
「・・・何をしている」
「疲労回復をしてやろうとだな
こうして診ておったのだ」
気持ちは嬉しい。
こいつなりに感謝はしてくれているのだ。
「どこも悪くない。大丈夫だ」
そう言う俺に首を横に振るヴィータ。
「・・・我に強がりはやめよ」
ん?
別に強がってないが
「部位欠損しておるではないか
今、元通りに治療してやるでな」
そう言ってヴィータは俺の股間の辺りに
手をかざして来た。
部位欠損って・・・・もしかして皮の事か
いかん!
「そっ・・・それはイイんだ」
慌てて体を動かし黄金の輝きから逃げる。
「良くはなかろう」
不思議そうな顔をするヴィータに
ソコの部位欠損はワザと行った事を
無理やり理解させる。
「変わった風習じゃのう」
そう言って治療は諦めてくれた。
ふぅ
危ない危ない
「それより診断でダメージが入ってるぞ」
「む、そんなハズは・・・」
聖刻でモニター出来る対象は
俺だけなのだろう。
他の魔核は絡まっているいるだけで
聖刻を掛けた対象ではない
モニター出来なくて当然だ。
俺はベネットの魔核の事を
ヴィータに説明した。
「なんと・・・・」
呆れるというか、驚くというか
ヴィータは信じられないと言った様子だ。
頭を抱えてウンウン言っている。
「なんか・・・マズいのか。それなら
すぐに体外に出して破壊するぞ」
「今、無事ならマズくは無かろうが
何と言うかヌシは妙な優しさがあるの」
「・・・。」
「・・・我にも優しゅうせい」
しなだれて甘えた声を出すヴィータ。
「バババッババカじゃねぇの」
自分でも顔が赤くなっているのが分かった。
そんな俺の様子を面白がって見ているヴィータ。
くそぅからかって遊んでいやがるな。
「いや、優しさとかじゃなくてな
情報が引き出せないかと」
「なるほど」
そんな時テントの外で短い悲鳴が聞こえた。
プリプラの声だ。
完全膝カックン耐性で何も反応していない
敵襲では無いはずだ。
「何事じゃ」
真顔になるヴィータに非常事態で無い事を
告げると俺はヤレヤレとテントの外に出る。
ヴィータもついて来る。
外はもう暗くなっていた。
二人は食事の準備をしていたのだろう
ハンスが心配そうにプリプラの腕を見ている。
「火傷か?」
俺は二人に近づきながら声を掛ける。
二人とも俺の方を見ると
ハンスが挨拶してくる。
「あぁアモンさん。おはようございます」
「はい、おはよう」
だから、おはようは変だと思うぞハンス君。
「焚火が爆ぜまして、破片が・・・」
「見してみ」
俺はプリプラの腕を取る。
うわ細い。
放って置いても問題無い
軽い火傷だ。
「丁度いい。ハンス君」
「はい。何ですか」
「君も奇跡を覚えたまえ。伝授してやる」
この世界に魔法は無い。
人がそれを行うには寿命を消費する。
なので門外不出の秘術として教会は
一部のみに伝えているのだろう。
ハンスも薄々その事に感ずいている
のだろう、珍しく糸目が開いて
ブラウンの瞳が覗いている。
真顔だ。
「アモン。それは人には・・・。」
ヴィータが止めに入って来るが
俺は制して説明を続けた。
「俺が教えるのは秘術じゃない魔法だ」
MP=寿命
これは厳密には違う。
本来、MPとするべきモノを
寿命で代用して奇跡を起こしているのだ。
「たけ・・アモン魔法使えるの?」
プリプラの発言にちょっとイラっと来る。
本来ならお前が真っ先に気づくべきだ。
俺はプリプラの頭上にいるであろう
精霊を、あの辺りを指で弾く仕草をする。
今は人化状態なので見えていないのだ。
「これだコレ」
パチン
あ
当たった?
「痛ーい、何すんの」
「あゴメン。てか痛いの?」
「痛いよ」
怒るプリプラ。
感覚の共有があったとは驚きだ。
しかし、それならなおの事
プリプラが真っ先に魔法を使える様に
なってないといけない。
「精霊ですか?」
見えてはいない精霊を
それでも見ようとハンスは目を凝らす。
「そうだ。エルフが【完全飛び降り自殺耐性】を
有しているのは承知しているな」
「はい。彼らは落下で死ぬ事は無さそうでしたね」
「で、それはエルフの力じゃなく個別に
付いている精霊の力のお陰だ」
「成程な」
ヴィータは気づいた様子だ。
「奇跡には力、仮に【存在の力】と呼称する
それぞれがその存在の力を使って奇跡を行使する。
神や悪魔はほぼ無限の存在だ。いくらでも使える
エルフは精霊の存在の力を精霊側が気を使って
エルフを助力している」
聞いているのを確認して俺は続けた。
「人の存在。僅か100年程度の寿命で
奇跡を起こそうとすれば、あっという間に
尽きる。なので他の力で行ってもらう
エルフに対する精霊と違ってお願いする形をとる」
これは出来るのだ。
現に昼間ハンスを治療したのは
聖刻を介したヴィータの力だ。
悪魔の俺の力では無い。
悪魔状態の俺でも出来たのだから
より聖属性の親和性の高い人なら
むしろもっと簡単に出来てもイイはずなのだ。
「理屈は分かりましたが、現実問題として
具体的にどうすれば良いのかサッパリです」
ハンスの言う事はもっともだ。
俺も言葉でこれを伝えられる自信は無い。
「体感的に理解してもらう。」
「体感・・・・ですか」
意味が分かってないようなハンス。
「そうだ。一時的に俺に体をよこせハンス」
プリプラの頬が上気し
眼差しが情熱的になった気がするが
これは放っておいた方が良い気がした。
「まずは支配権を俺に許可しろ」
この概念は無意識でも強力だ。
強引に奪うには一度仮死させるとか
催眠に掛けるとかしないと
割り込みは出来ない。
しかし、一度その概念を意識出来れば
任意の者を許可して体を貸す事は
十分に可能だ。
・・・。
と、思う。
今回のシンアモンさんとのやりとりで
体感した俺の推論だ。
「支配権の許可・・・・と言われましても」
困惑するハンス。
まぁそうだよな。
「俺を拒むな。信じろ」
俺は半人化するとハンスの後ろに回り込む。
ハンスからは見えない方がイイだろう。
「というワケで行くぞ」
「は・・・はい」
俺は髪の毛よりも細い触手を各関節から
伸ばすとハンスのおなじ位置に突き刺すと
神経接続を開始する。
「うぅ」
恐怖と拒絶が流れ込んで来る。
俺は強めにハンスを制する。
「拒むな。俺を信じろ」
強引にやろうとすれば物理的にも
精神的にも相手を破壊してしまう。
デリケートな作業だ。
「はい。信じていますアモンさん」
急に抵抗が無くなった。
予想以上に接続がうまくいったを確信する。
俺は自分の右手の指を動かし
拳を握ったり開いたりする。
ハンスの右手も同様の動作をするのが分かる。
「勝手に動いている。不思議ですね」
「拒むなよ。拒めばすぐに切れるほど
拙い接続だ」
動きは若干のタイムラグが生じる様だ。
俺は閃いた
このタイムラグを上手く利用すれば
ときめきを運べるかもしれない!
俺はハンスの前に出ると足を開き
腰を落とし膝に手を置き。
頭を大きな円を描くように回す。
プリプラの爆笑具合からすると
上手くいっているようだ
俺は達成感に満たされる。
「高度な技術を使って何を下らない事を
やっておるのじゃ。はよ治療にはいらんか」
「アモンさん。これ治療に関係無い動きなのですか」
あるワケないだろうハンス君
でも
楽しいだろ。