第三十一話
目を開ける。
幽体離脱の状態という感じだ。
砂になった悪魔の体の上に
半透明の宮本たけしが浮いていて
見下ろしている。
プリプラは泣きながら砂を
砂を・・・・すっげー
海外の浜辺とかで砂芸術っていうの
砂でお城とか作っちゃうアレ
プリプラは悪魔状態の俺を
砂芸術でほぼ完璧に再現している。
小梅、お前は本当に役に立たない
凄い才能を持っているんだな。
ふと傍らを見やると、ハンスは
木に、もたれ掛かって足を投げ出している。
呼吸が荒く、時折咳き込み血を吐いている。
大方、ヴィータを守ろうと立ちふさがり
ベネットに跳ね除けられたって所だろう。
重症だ。
つかアレ長く持たないぞ。
ヴィータとベネットは居ない。
急いで蘇るか。
どうやってやるのか
シンアモンの言葉通りだろう。
というか、それまでもそうしてきた。
そう思って
そうする。
思ったらそうなるのだ。
腕を動かすのにいちいち考えてはいない。
神経に信号を送り、上腕部筋肉30%伸縮とか
誰もやってない。
鳥が空力を考慮して飛ぶか?飛ばない。
そういう体に生まれ、そう生きているだけだ。
人が奇跡と呼ぶ技を神や悪魔は
普通に、それこそ俺たちが手や足を動かすように
考えも気合も無しに出来るのだ。
そう生まれた、そういうモノなのだ。
だから出来る。
俺はプリプラが形を作ってくれた
砂の悪魔と同じ姿勢で体に戻る。
割れた魔核に力を込める。
「いくぜ再起動だ」
蘇る俺、体を起こす。
「キャー」
後ずさるプリプラ。
「おはよう」
「・・・たけし?」
「ログアウトできんかった」
「ハンスさんが・・・ヴィータちゃんが」
泣きじゃくるプリプラ。
「おぅ、まずはハンスだ」
大分、悪魔の体以外の砂や土が混じっていた様だ
動く度に皮膚からボロボロ出ていく、
同時に髪の毛程の触手が伸び
集めきれなかった部品を自動で回収する。
「・・・キモーイ」
そんなプリプラを無視して俺は半人化して
ハンスの所に駆け寄る。
「ゴホッ・・・ア・モゴホ!」
震える手で何かを差し出そうとするハンス。
教会の紋章の首飾りだった。
ヨハンの大司教の証というアレか
「これを・・・私の代わりに・・・ゴホッ」
「お断りだ。それはお前がヨハンから頼まれた
事だ。お前が果たせ」
力無く首を横に振るハンス。
「私はもう長くは・・・ゴホッ」
「大丈夫だ。今、治す」
横に来たプリプラは心配そう
というか
なんか熱い情熱の篭った目で
俺達を見ている
なんだ
まぁいいいか
デビルアイでハンスを診断する。
折れた肋骨が肺に刺さっている。
聖属性は悪魔には生成出来ない。
仮に生成したとしても、作った所から
崩壊していってしまう。
だが俺には聖刻がある。
砂になっても消えていない。
当然だ。これは女神の一部だったのだ。
魔核にまとわりつき全身に神経の様に
伸びていた。
腕に表れている刻印は言ってみれば
湖面に写る月で、その場所に
投影されているだけなのだ。
早まって腕を切断しなくて良かった。
そうしても消えないのだ。
俺は全身に蔓延る聖刻を人間の部品で
コーティングするとヴィータから聖刻を
使って聖属性の力を引き込む。
後はヴィータがしていたように、
プリプラの足を治療した時
負傷したエルフ達を治療していた時
デビルアイでじっくり観察させてもらった
その時のヴィータ同じように力を行使する。
俺だから出来る事だ。
悪魔の力で人間の肉体を使用し
女神の力を借りる。
まずはハンスの神経を麻痺させ
痛みの緩和、女神の力を込めていない
右手で肋骨を元の位置に動かしてやり
左手で骨を仮接合する。
大き目の血管から接合していき
治せる組織は復元し、破損の酷い組織は
強制代謝させ、血液を通していく。
流石に体外に出て乾燥してしまっている
血液などまでは戻せない。
ヴィータはやっていたが、デビルアイでも
解析しきれなかった。
「こんなモンかな」
まだ細かい破損が大量にあるが
このぐらいは自然治癒に任せて大丈夫な
レベルだろう。
神経の麻痺を解除する。
「・・・なんという」
驚きを隠せないハンス
「弟子だからな、このぐらい当然だ」
そう言いつつも
実は俺も驚いている。
「まぁ失敗しても、どうせハンスだし」
やべ
声に出た。
「いいえ、アモンさんは失敗なんかしません」
「そうでも無い。ベネディクト相手には完全に
してやられた」
笑顔から落ち込む表情になるハンス
「申し訳ありません。護れませんでした」
「あたしも・・・逃げちゃった」
横からプリプラも神妙な顔で言ってきた。
「いや、プリプラはケガ無しで上出来だよ」
頭を撫でてやる。
正直、蘇生は多分出来ない。
見た事が無いから完成をイメージ出来ない。
その機会がある時は見逃さない様にしないとな。
「各自、担当の仕事をこなすように
祈り担当、笑顔担当それぞれヨロシク」
俺は腰を上げながら告げる。
「そして戦闘担当は、これから行ってきますよ」
「ヴィータ様は渓谷の方角に連れ去られて
しまいました。どこまで行ったのかは・・・。」
そう言うハンスに悪魔化した俺は
聖刻をちらつかせる。
「あ、コレで分かるから大丈夫」
翼を起動させ舞い上がる。
二人は口々に応援の言葉を俺に掛けてくれた。
「他にも悪魔がいるかもしれないから
一応隠れておけよー」
俺は飛び去りながらそう言った。