第二十五話
思いっきり風呂上り状態で上気した俺は
タオルで頭をガシガシしながら里に戻った。
見張りエルフは、なんかスゴイ表情してた
もしかして風呂も禁忌なのか。
「アモンさん、まるで風呂上りの様ですね」
俺を見つけたハンスが不思議な事を言った。
「まるで、じゃなくて風呂上りだよ」
他にこんな状態になる方法は無いだろう。
「風呂があるのですか!?」
珍しく興奮気味だ。
落ち着けハンス君。
「今日作ったんだ。今は女子連に占拠され
俺は楽園を追われた」
「作った?今日?」
本当ならコーヒー牛乳が良かったんだが
どっちも存在していないので、今日の所は
柑橘系の果汁に蜂蜜を混ぜた飲料で
俺は喉を潤す。
「あぁ、俺に騙された事にしてハンス君
今乱入してきてもいいぞ」
殺されるがな。
「・・・いえ、女性が終わってから
是非あずかりたいです」
「今・・・ちょっと悩んだなハンス君」
修行が足りんようだな。
「いいえ。そのような事は」
しどろもどろだ。
面白い。
「それよりもヨハン様を入浴させて
あげてもよろしいでしょうか」
なんでも無類のテルマエ好きなんだそうだ
自分が入るよりも床に伏せっている者を
気遣うとは偉いじゃないか。
さすがハンス聖職者。
どうやってエッダちゃんの裸を覗こうか
考えていた俺とは大違いだ。
さすがオレは生殖者。
「そう言う事なら・・・。」
俺はそこいら辺の材料を勝手に使い。
担架をこしらえた。
本来なら布床になる部分は帯を網目上に
組んだ。風呂用D型装備と名付けよう。
「サンダルの時といい。アモンさんは
本当に器用だ」
やたら感心するハンス。
日曜大工はしないタイプだな
やる奴から見ればやっつけ仕事も
いい所の作品ばかりなので
あんまりじっくり見ないで欲しい。
「さてハンス君、ヨハン様を担ぎ上げようか」
まだ乗せていないのに担架を広げ
前衛オレ、後衛ハンスでヨハンの病室に
向かう俺達。
すれ違うどのエルフ達も不思議そう
に俺たちを見ていく。
「何事ですか」
ヨハン部屋前に詰めている護衛が
俺たちが何がしたいのか全く想像が
付かない様子だ。
事情を説明すると怪訝そうになった。
「里にテルマエはありませんよ」
「今日俺が作った」
「ハイ↑?」
「いいからそこをどけ、それともお前を
倒していけばいいのか」
信じていないのか、二人いた護衛の
内一人はその場を離れた。長に報告する
のであろう。
もう一人は俺達に着いてくるそうだ。
手伝えよな。
部屋に入るとハンスは興奮気味に
ヨハンに事情を説明する。
話を聞いたヨハンの顔は見る見る上気して
いき怪我人や病人の表情では無くなっていく。
「テルマエだと?!本当なのか」
「あぁ、お前が好きだとハンス君から
聞いてな、今日こしらえた」
嘘です。
自分の事しか考えてません。
怒られそうになった場合の保険的な
理由に活用させてもらうぞヨハン。
蔦ではなく、篭使ったクレーン式の
エレベータで下まで降りた。
長の知り合いだからなのか、単純に
病人に優しいのかエルフ達は快く
協力してくれた。
向かう途中でプリプラとすれ違う
「アモンー」
「どうしたプリプラ、ヘロヘロだぞ」
「エルフの体には風呂無理ー、あっというまに
のぼせちゃうよ」
やっぱり植物に近いからなのか、お湯はダメらしい
折角作った設備だが無駄に終わりそうだ。
「水は溜められないのですか」
護衛のエルフが聞いてきた。
水浴びはするらしい。
「出来ますよ。わざわざ沸かさない分、
むしろ、そっちの方が楽です」
悪魔光線で沸かしていたので
俺が去ると逆にお湯にする方が大変だ。
ボイラーは面倒だっので作らなかったのだが
反って良か・・・。
いや
想定通り
石垣前まで到着すると丁度残りの二人も
出てくるところだった。
くっ
エッダちゃんの裸は見れずじまいだった。
護衛のエルフは設備を見ると、驚くというか
呆れるというか微妙な反応だった。
水の給排水の仕組み・操作方法を説明すると
「これを一日で・・・これだから人族は」
自然に出来るだけ手を加えないのがエルフらしい
人の行う自然環境への介入は彼らにしてみれば
やはり悪行なのか。
問題なら退去する時、元通りにするからと
軽く言っておく。
そんな気分を軽く払しょくしたのはヨハンだった。
ヨハンは涙ながらに入浴を喜んでくれた。
介護職に就いている人はこういうのを
働く喜びにしているのだろうか。
大変だが、悪くないと感じた。
仕事は他の人の役に立っているかどうかだ
必要とされ役を果たしていれば、
どんな仕事でも立派な仕事だと思う。
そんなつもりは無かったのだが
俺は今日、仕事をしてしまった。