第十三話
もはや立っている事もできないのか
肩で息をしている伝令は座り込み、見張り役が近くまで駆け寄る。
俺はその隙に「蒸着」を応用して細かいスリットを水平方向に
いくつも刻んだ手の平程の大きさの金属板を生成、
両端を丸めて耳に引っ掛ける部分を作り、顔の湾曲に合う様に
曲げ、鼻骨が当たる部分を調整する。
目元だけを隠す眼鏡形状のマスクだ。
サングラスが最適なのだろがガラスの作り方が分からない。
その間にも床を突き破り、武装したエルフ達が何人も
軟着陸してくる。
あの床は手抜き工事では無く、緊急の時に一度に大勢が
出撃出来る為のギミックだったワケだ。
螺旋状の蔦を一列で下りてくるよりよっぽど早い。
「客人は早く上へ」
そう言って素早く俺の横をプラプリが駆け抜けていく
「プリプラも上へ、客人の護衛を」
別のエルフはそう声を掛けて通り過ぎる。
伝令の内容を聞く為に皆、見張りの周りに集まる。
俺とプリプラは言われるまま急いで蔦を登った。
上ではハンスとヴィータが入り口すぐの所で待っていた。
階上は蜂の巣をつついた様な騒ぎになって
今も武装を装着し終えた者が次々と降下していく。
バルコニーには大きな弓を装備したエルフ達が
二列に並んで広がっていた。
間欠無く射るように撃ったら交代するのであろう。
「認めたく無いモノだな自分自身の若さゆえの過ちというやつを」
マスクを付けた俺は、お約束を言っておくが
誰も相手にしてくれなかった。
ただマスクをした意味は分かってくれたようだ。
俺は弓兵の邪魔にならない程度の後ろからデビルアイで
戦況を確認する。
やばい
エルフ弱すぎ。
攻撃にも回避にも防御にも各精霊が全力でサポートしているが
いかんせん元々の体格が小柄なエルフは非力もイイ所だ
魔法が無いのでは話にならない。
担当しているエルフが死亡すると精霊は頭上から離れ
村の中央の一番大きい樹木まで戻ってくるようだ。
それが次々と絶え間なく戻って着ている。
その様子に非戦闘員は驚愕の声も漏らしている。
子供は当然、大人まで泣き出している。
芳しくない状況を伝えに上ってきたエルフは
自身のケガの治療を求めもせず
「お・・・長だけでも反対側から」
おいおい、もう壊滅確定なのかよ。
「やめとけ!正面は囮だ。三方に正面以上の数の
兵がいるぞ脱出する連中は餌食になる」
俺はデビルアイで得た情報をたまらず叫んで伝えた。
場の混乱が増したが、出ました殺されましたとなるよりは
いいだろうとの判断だ。
うまいタイミングで斥候が戻り、俺の意見を肯定する。
そんな時、俺の上着をつまんで引っ張る者がいた。
そいつは言ってきた。
「アモン。行ってくれるか」
ヴィータだ。
真面目な表情の彼女は神秘的なまで美しい。
普段のだらけきった顔とは別人のようだった。
元々美形なのだから普段から真面目にしていて欲しい。
「悪魔状態なら余裕で勝てるけど、姿を晒す訳には」
「そこは我の秘策がある」
俺の言葉を遮るようにヴィータは強く言った。
そんな折、なんか装飾が凝りに凝った服を着た
偉そうなエルフ、その両脇に、これもまた凝った装飾の鎧を
着た二人のエルフが中央の樹木の穴から出てきた。
長と護衛だろう。
「皆の者、静まれぃ」
「静まれぇい!」
二人の護衛が声を荒げる。
なんか印籠だしそう
それを見ると長の前に駆け寄るヴィータ。
すかさず護衛に阻まれる。
ヴィータは護衛の手前で止まると周囲にも
言って聞かせるように大声で話し出す。
「兵を引かせるのだ。後は我に任せよ」
「・・・人族の客人か。一体どうやってベアーマンの
軍勢を相手するおつもりだ」
懐疑的だ。
それはそうだろう。どうみても強者には見えない
まだ子供だ。
「我が弟子に聖獣を降臨させる。聖獣の力を持ってすれば
あの程度の軍勢、相手にもならんわ」
「・・・・。」
何を言ってるんだ、この子は
そんな感じで護衛達と顔を見合わせる長。
「見ておれ。そして驚愕するがよい」
ヴィータは後ろに控える俺に振り返り。
瞬く間に黄金の輝きを放ちだす。
「ふんたらかんたら・・・・出でよ聖獣」
俺は両手を広げ自分の体を確認する。
何の変化も無い。
周りの観衆も固唾を飲んで見守るが
変化する気配は一向に無い。
どうした?失敗したのか
俺はヴィータ見る。
そこには顔を真っ赤にしたヴィータが
口をパクパクさせている。
手をブンブン振っている。
あ
聖獣って嘘なのね。
そんな術ないのね。
俺は普通に悪魔化すればいいのね
聖獣というキーワードで先に印象づけして
怖い外見だけど悪魔じゃないよー
ちゃーんと管理下にあるよーって
周囲を安心させつつ
手柄も自分のモノに出来るって寸法か
ごめん
本当に何か降臨してくるのかと勘違いしてた。
「ぅうおおおぉ来てます!!来まくりやがってます!おおおおおぉ!!」
間が空きすぎたので胡麻化そう
多少大袈裟に俺は叫び声を上げ
体をのけ反らせる。右手が何かを掴むかの様な
仕草で天にかざす。
悪魔化するタイミングでデビルフラッシュを発動させる。
全方向にカメラのフラッシュ程度の閃光を発する技だ。
コレと言った使い道が無く、
夜、用を足すのに暗いからと女性陣から
頼まれ後ろ向きで使った程度という情けない用途しか無かったが
ここで陽の目を見たな。
「「「おおっ!!」」」
悪魔化した俺の姿に周囲が歓声上げた。
嬉しい!!!!
この姿に変化したリアクションで
初めて悲鳴以外を聞いたよ。