第百十二話
東に行った攻撃の副作用で
天気は大荒れだ。
途中まではすごい暴風雨だったが
ベレンは無風状態だった。
四大天使が一人
風を司るラハが
女神の為に気を利かせて
ベレンを守っているのだろう。
雨はどうにも出来ないようで
ただの大雨になっていた。
冒険者登録は恐ろしいほど簡単だった。
お尋ね者でない限り誰でもなれる。
まぁお尋ね者だった場合は
登録中に衛兵がやって来て
そのまま連行されるのだろう。
「宿なんですが、今このお天気のせいで・・・。」
登録を済ませた次に部屋を借りようとしたのだが
この大雨でほとんどの冒険者が
今日はお休みーとなってしまい
満杯だった。
一階の酒場ではすでに酒盛りが始まっている。
「来賓用のスィートしか空きがありません。
ですので近隣の宿を・・・・。」
替わりの宿屋を紹介しようとする受付嬢に
俺は話し途中で聞いた。
「そのスィートには入れてくれないのか」
俺の質問になんとも言いづらそうに
受付嬢は答えた。
「いえ、制度上の制限は御座いませんが
お値段のほうが・・・・。」
登録したばかりの冒険者。
金を持っているハズが無いと判断しているのだ。
まぁ普通そう思うわな。
俺はカウンターに金貨を一握り分置くと言った。
「これでは足りないか」
「・・・失礼いたします。」
受付嬢はルーペを取り出すと
一枚一枚鑑定を始めた。
無理無理、もう俺だってどれが本物か
見わけが付かないんだから。
「大変失礼を致しました。こちらが
料金表になっておりまして」
鑑定を終えた受付嬢はそう言って
皮張りのメニュー表みたいなのを
引っ張り出し説明してくれた。
お一人様一泊金貨一枚だ。
最安値、何名でもOK一部屋分の20倍だ。
取り合えず一週間二人分を払うと
部屋に案内された。
建物の最上階ですぐ下は
職員の仕事場になっている。
これはうるさい冒険者達の部屋と
静音の効果を期待して隔絶した感じだな。
スィートは四部屋しか無い。
学校の教室二つ分くらいの面積で
部屋が更にいくつかの部屋に
分かれていて、この世界では
珍しくトイレと風呂場が別だった。
案内される途中、案内係は雑談がてら
もう一組泊っているスィートがいる事を
教えてくれた。
かなり珍しい事らしい。
部屋に入ると俺は装備を外し
ソファに横になる。
部屋の内装は泊り損ねた
バルタん爺さんが手配してくれたホテルと
酷似している。
同じ職人の手によるものかもしれない。
ふとストレガを見ると
杖「余裕綽錫」を構え何やらやっている。
彼女には昨夜、伝授出来うる限り伝授した
基本スペック内で再現可能そうなのを
俺のオリジナルはもちろん
アモンサイクロペディアと魔王図鑑からもだ。
「お兄様、遮音完了です。」
「遮音?何それ」
そんな技あったか?
聞いて見ると魔王図鑑に
真空の層を作る術があったそうだ。
ストレガはそれを壁床天井に
展開したそうだ。
真空の層は温度だけでなく
音も遮断する。
言われてみれば確かにあった。
防御力で考えると紙みたいなモノで
保温以外に使い道が無いと思い
すっかり忘れていた。
というか魔王図鑑は多いばっかりで
再現の可能不可能の判別だけでも
嫌気MAXだ。
戦闘に有益そうなモノ以外は
しまいっぱなしだった。
「しかし、何で防音を」
そう言う俺にストレガは言った。
「聖刻を試すとおしゃっていたので
こうした方が良いかと・・・。」
そうだ。聖刻の用事
二つの内ひとつ
ガバガバの魔刻解除
これは昨日やった。
残りは昼の方がいいと
俺はそう言っていた。
もしかして余計な事をしてしまったのでは
無いかと考えているような様子のストレガに
良くやったと礼を言い。
もうひとつの用事に取り掛かる。
聖刻でヴィータと話す。
あのクソ女神
何が謀反はイカンだ
何が民が苦しむ様な事は避けたいだ
謀反はダメで大虐殺はOKですか
考え込んでいる俺を
心配そうにのぞき込むストレガに気が付いた。
「女神と話すおつもりですか」
「うん、あいつはどこまで知っていたのか
探りを入れたいトコロだ。」
全て知っていたとは思えない
思いたくない。
「でしたら、何も知らないと思いますよ」
顎に手を当て、自分の考えを言うストレガ。
「どうして、そう思う。あいつは天使より
上位の存在だぜ。命令を出す立場だ」
知らないなんて事があるのか
なんとも言いにくそうにストレガは
俺に返事をしてきた。
「同じように魔神に命令を下すハズだった
お方がなんともアレな方だったのでは・・・。」
ババァルー
そうだったああああああ
「お兄さまから伺った範囲での仮定ですが・・・。」
そう言ってストレガは推測を纏めてくれた。
どこで何をしているのじゃ発言は本当。
四大天使に命令を出したのは
天界でヴィータより更に上位の神。
その裏付けとして
人間界に介入後、神の確保そっちのけで
即チャージに入った事。
命令が出せる立場なら、まず自身の安全確保に
四大天使を使用するハズ。
これは、つまりもっと偉い神が
「ヴィータなんぞほっといてイイ」と
四大天使にチャージ攻撃を優先させたという事。
そしてもう一つ
決着が着いた今もなお
俺を生かし続けている事実。
「神側からすれば、お兄様の存命は
最も危険な事、チャージ攻撃が
終了し自由活動が可能になった
四大天使が手元に馳せ参じたのなら・・・・。
そんな冷酷な作戦を指示出来る
人柄の方だったら・・・。」
とっとと聖刻に神力を流し込み
俺を始末しているハズだ。
「そうか・・・そうだよな。
でも、そうしたらなんて言おうかな」
嫌味からスタートするつもりだった。
これでは可哀想で言えない。
「お兄様、多分、繋がらないと思います」
「なんで」
彼女には再現不可能だが
仕組みは教えてある。
刻の呪いは掛けた側に
完全に取捨選択があるのだ。
強制的に呼び出せるし
相手の呼びかけすらカットも出来る。
実際に呼び掛けて見て
彼女の言う通り反応は全く無かった。
ヴィータ側が完全にカットしている状態だ。
「どうして分かったんだ」
「私も一応女ですから」
分からない。
何で性別が理由なのか
なんかでもこれ以上の質問は
野暮すぎる気がして
それ以上は聞かなかった。
「よし、遮音を終了してくれストレガ
これから逆の事を始める。」
口の端をフニフニ動かして遮音を
解除するストレガ。
「逆の事ですか」
「盗聴だ。なので静かに休んでいてくれ」
そう言って俺は指を適当な柱に溶接する。
建物内の全ての音から、人の話声を拾い
知りたい情報を話している会話を見つける。
ストレガはその間、
重力制御で部屋の中で滞空し
三角錐の遮音壁を作って
その中で瞑想していた。
すごい
静かにしろとは言ったが
全く音を立てない気だ。
あの瞑想は伝授したデーターの
閲覧と習得だ。
少しでも多く会得したいと言っていたが
なんとも勤勉なやつだ。
冒険者達の会話は
無意味なバカ騒ぎが主だったが。
小声では東の大火、西の地震を
知っている者が噂を広め始めていた。
まぁ昨日の今日だし
ベレンは建物が崩壊するような被害は
無かったしな。
教会に飛来した四つの光を
目撃した者が複数いたが
既に女神が居るせいで
あまり注目はされていないようだ。
んー収穫はなさそうだな。
パウルの所に行ってみようかと
思った時、妙な会話に気が付いた。
その会話は女性同士で
話し方が偉い上品だ。
これは階下の酒場では無いな
同じ階のもう一つのスィート客か
会話の内容から
宿泊客の想像がついた。
セドリックの姉だ。
名前はグロリアと言う。
すごい
グロリアだ。
例え
どんな美人だったとしても
その肖像画は全て
グロ画像と言われてしまう。
注意だ。
もし他にも女性の兄弟がいる場合もあるが
いずれにせよセドッリクの兄弟であることは
間違いなさそうだ。
んー
パウル→セドリック→領主の順でまわるか。
そう考えた時
聞き覚えのある声を拾う。
咄嗟にその声に注目を合わせる。
声の主は酔っぱらいBだ
なんで公の衛兵が
私設の冒険者協会に・・・。
慎重に声を拾う。
その内容に
俺は驚き半分
やっぱりな半分だった。
アモンは指名手配された。
多額の懸賞金を掛けられたターゲットだ。
これで冒険者全員が敵に回った。
く
なんて事だ
これでは俺は
俺は
あ、大丈夫か
顔と名前変えて良かった。
雨風も治まって来た。
さて
ではパウルから行くか。
俺は出かける旨をストレガに告げると
彼女も一緒に行くと言い出した。
その方が後で説明しなくていいから楽か
パウルの居る建物は教会から
離れた場所にあり
宗教色のない役所みたいな建物だった。
デビルアイで走査した所
二階建ての中央の部屋に
パウロらしき人物を確認した
都合良く、一人だ。
俺達は人目の少ない脇道から
二階の窓まで浮遊して侵入
ストレガにはバイザーをつけてもらい
俺はアモン人型の顔に戻すと
ノックも無しにパウロの部屋に入る。
いきなり開いた扉に
大して驚く様子も無く
顔をゆっくり上げる。
驚いたのは俺の方だった。
領主の館で会った時に比べて
ものすごくやつれている。
俺が何か言い出す前に
パウルの方から口を開いた。
「手配が掛かっているのは御存じかな。」
「ああ、誰の差し金か知ってるか」
不意に俺の横でストレガが
右手人差し指でパウロを指さすと
雷撃が走る。
雷が大きなデスクの上の
火の灯っていない燭台に命中すると
金属音を出し弾かれ床に落ちて転がる。
音と光にビックリした
どうしたの
つか
短杖を右手内部に内蔵してるわこの子。
「秘術は止めなさい。通じないし
反撃であなたが死ぬだけよ」
ストレガは冷たくそう言って
更に続けた。
「次は心臓を焼きます。」
やだ怖い
ストレガちゃんマジキチわろえない。
大雑把な俺と違い、ストレガは慎重だ。
パウルが秘術を行使をするのを察知して
先手を打ってくれたのか
連れてきて良かった。
俺だけだったら怒りに任せて
ベアーマンとか蜂人とかと同じように
皆殺しで終了だ。
「流石だ。分かった言うとおりにしよう」
パウルは降参の意志を表明するように
両の手の平をこちらに向けてそう言った。
「ところで、そちらの方は
報告に無い人だ。今の術はどうやって」
やはりと言うか当然と言うか
俺の事も裏で色々調べていた様だ。
何も出て来なくて参ったろうに
「うーん、勝手に調べろ。こっちの質問にだけ
答えてくれるか。」
「・・・手配は女神様からだ。私や領主にも
どうにもできない。済まない」
パウルは言いづらそうに答えてくれた。
「そうか。」
「驚かない・・・のか」
俺の反応が予想外だったのか
パウルが意外そうに言った。
「あぁ、いずれこうなる関係なんだって
痛ってぇ!!
おっとっと、言ったソバから情報を
与えるトコロだった。」
ストレガに脇腹をやさしく
肘で小突かれた。
「痛くないでしょ。優しくやりました」
小声ながら必死さが窺える。
この辺はかわいいなぁ。
「私の手配で秘密裡に脱出できるが・・・。」
「必要ない。希望はその逆なんだ
逃げたいんじゃあ無いんだ。
決着をつけに来たんだよ。」
パウルの恐怖が流れ込んでくる
かゆうま
でも表情には一切表れていない。
これだよロディ。
弟子入りしろ。
「ただ、俺はベレンをデスデバレイズや
バリエアみたくしたく無いんだ。
それともその方が良いか
お前も神側の人間だもんな。」
しまった
オーラが漏れた。
パウルの額に汗が見て取れる。
かゆうま
でも表情はそのままだ。
すげぇな
もしかして仮面てオチか。
「そうか・・・報告は本当なんだな」
パウルは俯き、そう言った。
やはり情報が集まるのが速い。
しかも正確の様だ。
「何て聞いたか言え」
観念したのか、恐怖に負けたのか
パウルは受けた報告を全て話してくれた。
俺が知っている内容と合致する。
優秀なスパイがアチコチに潜伏しているんだな。
そして帝王の安否が不明のトコロで
俺が「生存者の中に居なかった」事を
告げるとパウルは泣き崩れた。
どうもパウルにとって恩ある人物だったらしい。
この「流」の職に就いたのも
侵攻を続けようと拡大しつづける教会から
今の王の立場を護る為になったらしい。
見かけによらない
冷酷なイメージしかなかったが
強く優しい人物だったのかも知れない。
俺はパウルの感情が落ち着くのを待つ。
「申し訳ない。お見苦しい所を」
「見苦しくなんか無い。で、続きいいか」
落ち着いた様なので、俺はパウルに
ぶっちゃけ聞いた。
○次期領主がグロリアを娶って王になる
○セドリックがガバガバを正妻に迎え王になる
●首都・聖都をそのまま復興を目指す
●首都・聖都をベレンに遷都する
●首都・聖都を分ける
この白丸と黒丸どの組み合わせがいいのかを
おまけ
「のぉアモンよ」
「おっと今は冒険者ゼータと呼んでくれ」
「ハルマゲンとは何じゃ」
「はぁ?それ言うならハルマゲドンだろ
最終戦争・黙示録だよな」
「この小説のあらすじを良く見てみぃ」
「・・・あああああ!」
「まぁこの世界ではそう言うと
強引に言い切るしかないのぅ」
「いやぁこれが本当のド忘れってやつだな」