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第十話


 エルフの村に近づくにつれ周囲の様子は

森と言うより樹海と言った方が近い感じになっていった。


 こちらのイメージの樹海と異なるのは樹木が大きい事だ。

段々と巨木に囲まれていく。直射日光に晒されないのは

有難かった。エルフが色白なのはこのせいか。


「痛っ!!」


咄嗟に声の方向に振り返る。

俺の後方でプリプラが足を抱えてうずくまっている。


「どうした。膝に矢でも受けたか?」


「・・・・。」


俺の冗談に答えられない様子だ。

これは本気だ。

押さえている手から見る見る血が溢れていく。


「ちょっとゴメンな」


木を削って作った背負式の椅子を下ろす。

乗っているのはヴィータだ。子供の足では

キツイだろうと思い作ったのだ。

小梅も乗りたがっていたが、人化状態では無理な話だ。


 駆け寄ると近くの根に絡まる蔦状の植物が

鋭い棘を持っているのが確認出来た。


「こいつに引っ掛けたのか。プリプラ見せて見ろ」


涙目になってブルブル震えているプリプラは

恐る恐る手をどける。

傷がちょい深い。

側面なのでスジはやられていない様だが結構な切り傷だ。

 

「ハンス回復呪文を!」


ハンスの返事は俺と小梅の耳を疑う内容だった。


「・・・回復呪文とは・・・なんでしょうか?」


「!?」


 通常の手当てをした。

清潔な布を押し当て血が止まるまで圧迫する。


しかし、ハンスの奴、本当に祈るだけだとは

陣形の話は冗談じゃ無かったのだ。


教会本部の偉い人なら奇跡を起こせるらしい。

他には魔女と呼ばれる邪法の使い手が

たまに捕まって処刑されているとか。

ハンス自身がお目にかかった事は無いそうだ。


 手当をしながらハンスと話した内容をまとめると


この世界には魔法は無い。

いわゆる俺たちが思っている様なヒーラーはいない。


「それが出来るならば素晴らしいでしょうね」


俺の回復呪文の説明を聞いたハンスが言った言葉だ。


 そのまま小休止となった。


俺はプリプラの手当てをしている最中に

そっと小声で聞いた。


「自分で回復呪文は唱えられないのか?エルフなら

レベル1でも初期回復呪文が使えそうなモンだが」


「それもメニュー画面が開かないんじゃ・・・」


 落ち込んでいる所に追い打ちを掛ける様で

心苦しいが、俺は小梅に自分の考えを打ち明ける事にした。

今後の行動に大きく関係する事だ。もしそうだったら

迂闊な行動は文字通り命取りになると思ったからだ。


「INする前に太郎とした話ではな・・・」


こちらを伺い俺の話の続きを待っている小梅。


「痛みの感覚はカットしてあるハズなんだ

なのに俺はこの世界に来てからというもの

色々な痛みを味わっている。」


「・・・・。」


「もしかしたこれはゲームじゃなくて

実際の異世界に転送さ」


「そんなワケないじゃん。ゲームだよ

きっとバグだよ。全部バグだよ」


俺の言葉を遮る様に小梅は言った。

しかし、その言葉は自分でも想像していた仮定で

それを信じたくない気もちで溢れている。

そんな感じを受けた。


「まぁ、あれだ。痛いの嫌なんで【命だいじに】作戦だ」


俺は努めて明るくした。


「ゾンビアタックとか禁止な。俺もお前も」


「私はか弱い女子だから・・・たけしはイイんじゃない」


やっぱりこいつ殺そう。


 しかし実はこの世界に魔法はある。

使用不可能なワケでは無い。

 俺は洞窟脱出時にヨハン大司教が何らかの魔法を

発動させ悪魔達の動きを封じたのを見ているのだ。

 一般には普及させず一部の特権階級が秘匿していると

想像できる。


 ヴィータはどうだろう。

仮にも女神なんだし

出来てもおかしくない

いや、むしろ出来ない方がおかしいだろう。


「・・・してやりたいのは山々なんじゃが」


言葉を濁す。ひどく言いにくそうにヴィータは続ける。


「保有出来ている力は少ない。命関わるケガならばともかく・・・」


珍しく申し訳なさそうだ。

俺は疑問をぶつけてみた。


「信者が近くにもっと大勢いればいいのか」


頷くヴィータ。

その為に聖地を目指すワケなのだが


「私、信者になります」


プリプラは申し出た。


「・・・良いのか?エルフには宗教は無いぞ

村に居られなくなったりせんかの」


自分の頭の上の方を見ながらプリプラは


「・・・この子も大丈夫だって言っていますし」


プリプラの視線の先を凝視するが当然何も無い。

やだ、この子ったら変なコト言いだしてる。


「おいプリプラしっかりしろ。出血が多すぎたのか」


「あっこれは、もしかして」


ハンスが何か言いだす。

俺は続きを促す。


「知っているのか?ライデ・・・・ハンス」


「聞いたことがあります。なんでもエルフには個別で精霊が

付いているとか・・・人間には見えません」


 小梅も先に教えておいてくれよ。

つか、デビルアイで見えなかった何故だ。


 早速、ハンスが入信の儀式を簡易的にだが行った。


「おっコレは?」


 ヴィータに早速変化が表れた様だ。声をだしている。

俺はヴィータを注意深く観察する。


 背が2~3cm伸びたぐらいか・・・

あまり変化が無い。


「ハンス君の時は赤子から10歳だったぞ

プリプラお前、信仰心低すぎなんじゃね」


「超ー祈ってるのにー」


手の平の皺と皺を合わせて祈るプリプラ。

うーん、この場合は指をクロスさせる西洋式の方が

いいんじゃあないのかな。


「俺も入信した方がいいんじゃないのか」


着てる服が服なだけに、今現在、詐欺師状態だ。

実は結構心苦しいモノがあったのだ。

しかし、ヴィータはそれを強く拒んだ。


なんでも聖刻だけでも俺の体には相当は負荷になっているらしい

入信などしようモノなら内部から崩壊するそうだ。


「へー」


あまり良く理解していない俺に

ヴィータはハンスに聖書を読んで聞かせてみる様に促す。

人化している状態なら問題は無いようなので

悪魔化して実験した。


 死ぬかと思った。

普段はなんでも無いハンスの声が

俺の脳をジリジリと焼いていく様な錯覚を覚える。

効果は抜群だ。


 俺は即座にギブアップした。

これは危険な感じだ。


面白がったプリプラがハンスから聖書を

強引に借りると、邪悪な笑みを浮かべる。


「うふふふふ。」


「おい、まさか」


「楽しい絵本の時間よ。」


「おい、やめろ」


「今日はどんなお話かなー良い子はちゃんと聞いてね」


「お前そう言うの本当はキライだろ。

〇のだりょうこおねえさんと同じ目をしているぞ」


 勢い良く聖書を読み上げ始めるプリプラだったが

以外になんでも無かった。

即座に人化しようと準備していたが、

ハッキリ言ってその必要は無い。

まるで痛く無い。


口笛を吹いてやる。


「何でよーーーー!!」


「ガッツが足りない」 


「サッカーじゃあないでしょーー」

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