第百七話
どうせ休むつもりだったので
俺はババァルの申し出を快諾した。
ただ
「ただ?」
「順番がおかしい。男のベッドに
裸で潜り込むのがデートより
先なのは変だ。」
ババァルはカワイイ笑顔で
時空系を使うので
通常の時系列は通用しないと
答えてきた。
ババァルに限っては
結果が先にあっても良いのか。
ゲイボルグみたいな女だ
恐ろしい。
「では、参りますわよ」
部屋をチェックアウトした後
ババァルはそう言って
転移を発動させた。
例の時の歯車が空転する感覚が
自分の周りで起こる。
目の前で何度か見ているが
自分が転移するのは初めてだ。
俺は本気で焦った
対処しようの無い現象だ。
視界は白一色に変わる。
歯車が空転を止め
それぞれギアが噛み合わさる。
転移が終了する様だ。
視界が戻ると
そこは
そこは
「ここはどこだ?」
見た事もも無い場所だ。
町の中なのだが
行き交う人々が多種多様の種族だ。
人型が多いが人間が居ない。
トカゲっぽかったり
犬っぽかたっり
虫っぽい奴もいれば
元ネタが何だか分からない
カンブリア紀の生き物みたいなのも居る。
ここの創造主は相当酔っていたな。
俺は葉巻があれば、咥えてそう言いたかった。
キョロキョロ見回す俺を
何やら嬉しそうに見ているババァルは
俺の質問に答えてくれた。
「魔都、デスデバレイズですわ」
建物は平屋が多い
というか建築技術が発達していないのだ
文明レベルはバリエアはもちろん
ベレンにも遠く及ばない。
「東の魔都・・・ここが」
来たかったので素直に嬉しかった。
「ご案内致しますわ」
その後、俺はババァルに案内されて
魔都をあちこち案内された。
転移を多用したので
もうホントあっちこっちだ。
山だったり、川だったり
海辺だったり、などなど
全部紹介する気か・・・。
転移酔いしそうだ。
「感想はいかがでしょうか」
牧場でいいんだよな
なんか牛サイズの羊みたいなのが
大量にいる草原で
昼メシを頂き、休憩中に
ババァルはそう聞いて来た。
「なんか思っていたのと違う
随分と平和なんだな・・・。」
魔都
その言葉の響きから
血で血を洗う修羅の国みたいなのを
勝手に想像していた。
「中央は平穏ですの、国境付近は・・・。」
人族の侵攻を食い止める
戦場だそうだ。
この大陸は降臨の有った山脈を中心に
東西で人族とそれ以外に分かれている。
人と仲良く出来ないのか
俺はそんな愚問がつい出そうになり
慌てて飲み込んだ。
人、彼等の信仰する神は
自らの姿を写した人全ての父であり
人以外の存在を許さない。
身体的に圧倒的に劣等な人族は
魔物の良い獲物だ。
手先の器用さで爪や牙の替わりに武器を持ち
鱗や頑丈な毛皮の替わりに鎧を着て
一人では敵わない相手に結束して
立ち向かい。
恐怖に飲まれない様に神の加護を信じ
祈ってきた。
魔都の文明レベルの低さは
逆に言うと彼等の身体能力の高さであり
人の文明は人の弱さを補なって来た
知恵がもたらしたものだ。
「・・・・アモン。」
しまった
デート中なのに考え込んでしまった。
慌ててババァルを見るが
ババァルも何やら考えに耽っていた様だ。
「・・・何」
俺はババァルにそう返事をした。
ババァルはテンション低目で言った。
「考えてしまいます。私は魔王などでは
無くただの女で、あなたが魔神でなく
ただの男で出会っていたら・・・なんて」
いやー
つまんねェぞ
サラリーマンの俺は
そう言いそうになったが
ここはロマンチックに行けと
脳内アラームが鳴った。
「そうだな、ババァルは魔王じゃ
無かったら何してた」
乳牛?
これも脳内アラームに止められた
優秀だな。
「うーん、そうですわねー
介護とか看護とか弱い人の
世話がしたいですわ」
俺は笑った。
ババァルは不満そうにふくれっ面になる。
「おかしいですか」
「だってそれじゃ今と変わらんよ」
意味が分からないと首を傾げるババァル。
「王は弱き民を全て守るためにある
規模は違えど出発点は同じじゃないかな」
ふくれっ面が治まるババァルは
今度は俺の番だと言って来た。
「俺か?そうだなー・・・。」
脳内アラームが鳴り響く
おい、まだ考えていないぞ
NG出し早くないですか
脳内アラームが鳴り響く
響き続ける。
え?
俺はふと上空を見上げる
脳内アラームが警告を発している
方角は西からだった。
平和な青空を切り裂いて
二つの光が急速に接近してくる
一つは炎のように赤く
一つは緑色で風を巻き上げるながら
それぞれが12枚の白き猛禽類の
翼をはためかせ
神を祝福する歌を歌いながら
猛禽類、もれなく狂暴な肉食だ。
四大天使
天と炎の天使長ミカと才と風のラハだ。
デビルアイで補足した二人は
ヤバイ
許容量以上の神力をギリギリで保っている。
まるで表面張力によって容量以上の
水を蓄えたコップの様だ。
あれ程の力を長く保持出来るハズが無い
彼等の身体が爆発してしまう。
一時的なオーバーブーストだ。
何に使う気だって
おいおいおいおいおいおいおい
「はい、お終い」
ミカがそう言っているのが
認識出来た。
放たれる狂暴な力の塊
赤い光と緑の光は
それぞれ炎と風になり
魔都・デスデバレイズに襲い掛かる。
「姫様ーーーー!」
影から飛び出した
ダークは自らの影に
俺達二人を強引に引きずり込み
一瞬で蒸発して消えた
ババァルは影に放り込まれながら
転移を発動させる。
俺はデビルバリアを展開する。
時の歯車が空転する感触と
俺の体表温度が瞬間で1000度に
達したのを感じた。
義体の俺
金属粒子の集合体である俺は
こんな温度くらいなんでも無い
俺はな
だけど
人の形をした
真っ黒な炭を俺は抱きかかえて
立っていた。
どことも分からない森の中だ。
東の空が赤く燃え上がる
急なコントラストの変化で山脈は
シルエットを黒く浮かび上がらせる。
暴風と合わさった炎は
山脈よりも高く
文字通り天を焦がす勢いだ。
でも
そんな事今はどうでも良かった。
デビルアイで走査する
魔核が崩壊を始めているのが確認できた。
俺は崩壊を阻止するために
ありたっけの魔力を注ぎ込もうと
気を高めるが
ババァルの制止する声が聞こえた。
「もう、間に合いませんわ」
抱えている炭では無く
正面に透けて見える影がそう言った。
魔核から漏れた魔王の本体だ。
以前ヴィータから教わった
振動数の違いから
体無しでは長時間存在できない本体。
「ババァル。」
「こうなる前にお返事するべきでしたわね
ごめんなさい。婚姻の申し出は
お断りさせて頂きます」
影は丁寧にお辞儀をした。
「そうか。」
俺はそう返事をした。
「こんな体ではもう殿方に
愛しては頂けませんもの」
影はさみしそうに言った。
「分かった。」
頷く影に俺は続けて言った。
「じゃあ改めて言うよ
二回目だ。
結婚してくれババァル」
返事は聞けなかった。
抱きかかえている炭は粉々に砕け
腕から零れ落ちた。
正面の影はゆっくり消えた。
出展
ここの創造主は相当酔っていたな。 コブラのセリフ