第百六話
夜にベレンに戻る。
教会にも俺の部屋が用意して
あるらしいのだが
ハッキリって休めない。
完全人化なら問題無いのだが
悪魔の力が使えないので
夜なべも出来ない。
更に戦闘力の低下から常に不安が
付きまとい落ち着かないのだ。
門の通過も面倒なので
夜の闇に紛れてベレンに侵入すると
繁華街に足を向けた。
適当に宿を取ろう。
どうせなら酒も飲みたい
元々飲む方では無かったが
最近の忙しさ
まるで休みが無い事で
人としての精神が参ってるのでは
無いのだろうか
堅苦しい事も多かったしな
今夜は一人で自堕落な人間で行こう
明日も一日休んでしまえ
夜に飛べば俺なら
ガバガバにも追いつける。
ベレンの北側の繁華街に足を運んだ。
噂では北側は冒険者が多く滞在している
らしい。
そういえばストレガの居た怪しい森も
ベレンから見て来たに位置する。
魔物が多く出るのだろうか
悪魔のアバターでINしてしまい
こんな事に巻き込まれてしまったが
通常の冒険者でINしていれば
お世話になる場所かもしれない。
もし
もし俺がNPCで無く
なんらかの理由でまだログインしていて
ログアウトして現実世界に帰還して
そしていつか製品版をプレイして
また、ここに来れるなら
先に知っておいても
良さそうだ。
そうでなくても興味はある。
噂などで情報もあるだろう
俺は冒険者のたまり場を探す事にした。
ご丁寧に町の地図が看板であったので
冒険者協会、冒険者の元締めの建物を
見つけたので、そこを目指す。
その周囲には宿屋や武器屋なども
集まっているハズだ。
すれ違う人の服装が中央とは
明らかに変わって来た。
鎧を着たままの奴も多い。
それぞれ装備はバラバラだ。
「尾行されてるな。」
半人化なので各種センサーは
生きている。
同じ人間がずっとついてきているのが分かる。
俺は念のため角を右折を繰り返した。
ぐっると一周回る形だ。
これでもついて来るなら間違い無い。
「気のせいか・・・。」
そいつは付けて来なかった。
それとも俺が気が付いたのを察知したのか
いや、考え過ぎだな。
自意識過剰だ。
バイオレンスな事が多すぎなのがいけない
「やっぱり息抜きが必要だな」
程なくして目的付近に到達した。
なんと協会の建物そのものが
酒場と宿屋だった。
入ると中はすごいバカ騒ぎだ。
何かあったのかと近くの人に聞くと
いつもこうらしい
通常の職業と違い
死亡率が高い仕事だ。
そのせいか金払いのイイ人が
多いそうで稼いだら使う
楽しめる時に大いに楽しむらしい。
空いている席を探したが見当たらない。
どうしたものかと思っていたら
近くの3人組が空いている席に
座れと言って来た。
気さくだな。
俺は礼を言うと。
何言ってんだと言われた。
「お前すごい剣背負ってるな」
3人組はパーティらしい
そのリーダーと思われる男が
なれなれしく言って来た。
そいつは腰からショートソードを
ぶら下げている。
移動や洞窟内での行動を考えたら
大剣より断然使い勝手が良い。
空いた片手に盾を持てるのも強みだ。
注文をしようとしたら
冒険者のプレートを出せと
ウェイトレスに言われ
無い、冒険者じゃないと言ったら
驚かれた。
「もしかして専用なのか」
そう言うワケでは無いらしいが
支払いはプレートで個別にツケで
基本現金でやり取りしていないそうだ。
クエスト報酬から引かれるらしい。
仕方が無いので取り合えず金貨を渡し
こういう時はアレだ。
「店自慢一人前、酒と宿も」
と言ったが「多すぎる」と
ウェイトレスが困ってしまった。
面倒なので俺は$袋ごと置いて
客全員分奢りでいいと言った。
金の力はすごい
どいつもこいつも皆、親切になって
聞いた事をなんでも答えてくれた。
お陰で大体の情報は集まった。
食事と酒を楽しみたかったので
人化した俺は久々のアルコールに
すっかりやられ、程なくして
ベッドに倒れ込んだ。
部屋までどうやって案内されたのか
覚えていない。
朝、日差しで俺は自然に目が覚めた。
元の世界でも会社の飲み会などで
潰れたことはあったが
不思議と二日酔い状態では無かった。
酒そのものが違うというのも
あるのかも知れない。
途中から全く覚えていない。
なので
なんでババァルが一緒に寝ているのか
分からない。
ババァルは素っ裸だが
俺は下着姿なので
間違いは起こしていない
と、思う。
なるたけ見ない様に
ベットを抜け出て
そのまま毛布をグルグル巻いておいた
でっかい春巻きみたいになった。
喉の渇きがハンパでは
無かったが備え付けの水差しは空だった。
使った後があるので
多分、自分で夜飲み切ったのだろう
俺は空の水差しを持つと
空いた手の方で冷却結露で
水を注ぐ、200cc位溜まっては
一気に飲む、それを数回繰り返して
喉の渇きを癒す。
だいぶ目が覚めてきた。
そこで気が付く
俺は完全人化状態だった。
それなのに冷却結露が出来た。
「お、生身でも魔法が使える様に
俺も成長したのか」
これは嬉しいぞ。
これなら教会内でも少しはマシになる。
小躍りして喜ぶ俺に
春巻きが否定してきた。
「残念ながら違いますわ」
起きたのか
俺は春巻きの上にのしかかり
あっちゃこっちゃ揉みしだく
「何が違うんだ」
しばらくキャッキャした後
着替えているババァルにそう聞いた。
見ない様に背を向けている。
「人化が衰えているのですわ
そのうち完全には出来なると
思われますわよ。」
「なんで・・・だ」
上位版デビルアイで見られているのを感じる。
「最初に比べると・・・適当ですわよ
意識と体が人間だった頃を忘れてきている
のではなくて」
今も視覚外からのデビルアイを
認識できた。
「確かに最近は人でいるより
悪魔でいる時間の方が圧倒的に長い」
疲れない、腹も減らない、などなど
圧倒的に便利なのだ。
最近では人でいるのは
教会内に居る時ぐらいだろう
「まぁ仕方が無いか・・。」
あまり人の身体に未練は無い。
「それよりいつ来たんだ」
着替え終わったババァルが横に来る。
俺はそっち向きながら
そう言って、ババァルの姿に声を失う程
驚いた。
ババァルはいつもの妖艶な魔王服ではなく
そこいらによくいる町娘の恰好だ。
化粧も夜用では無く控え目だった。
でも隠し切れないナイスバディ
アンバランスな柔和な顔。
ヤバいどストライクだ。
メチャクチャにしたい。
「まぁ酷いですわ。あんなに熱い夜を」
ババァルのセリフをカットするように
俺は否定する。
「過ごしてないから。俺は酔うと
ダメだから」
元の世界での話なので
多分だが、ババァルの様子は
完全に俺をからかうモードだので
間違いないだろう。
ババァルの話によると
来たのは完全に俺が酔っぱらって
騒いでいる最中だったそうだ。
昨夜の尾行も勘違いでは無く
ババァルの手配だった。
出来るだけ人目に付かず
更にハンスやヴィータの居ない時を
狙って転移してくる気だったようだ。
腹が減ったのでババァルを朝食に誘う。
ババァルは処刑未遂の時の事を懸念して
人前に出たくないと言ってきたが
その心配は要らないと説明した。
服装や化粧で、もう同一人物とは
知り合いしか分からないレベルだ。
本当に女は化ける。
夜にバカ騒ぎした一階は
別の場所の様に静かだった
人もまばらだ。
朝食は昨日の$袋のお陰で
二人分サービスしてくれた。
あまりうまくは無いが
暖かいパンとスープを
それぞれ頂きながら
俺は話しの続きを促した。
「ふふ、今日はおヒマでしょうか」
丁度、休むつもりだったので
俺は肯定した。
「で、では私をデートに誘っていただけませんか」