第百三話
俺が創製したモノそれは
じょうろ
だった。
それも黄金に輝く・・・
ここまではまぁイイ許そう。
ただデザインが幼稚園などでお馴染みの
ぞうさん だ
ぞうさん の じょうろ 成金Ver だ。
なんだこりゃ・・・・。
趣味悪いにも程があるだろ
ヤバい殺される
あんなキラキラした目で期待してたのに
俺が作ったのがこれじゃ
悪ふざけもイイ所じゃないか
違うんだ
これは俺が作ったんだけど
俺じゃないんだ。
ダメだ
自分でも何言ってるのか分からない。
冷や汗を垂らし小刻みに震えながら
恐る恐る顔を上げ
見たくないんだけど
ヴィータを見る。
激怒に準備しなければ
しかし、俺の心配とは真逆に
ヴィータは黄金のぞうさんじょうろを
奪う様に俺から取り上げると
涙を流して抱きしめた。
その際に持っていた錫杖を
床に捨てる。
おいコラそれも大事に扱えよ。
取り合えず俺は錫杖を拾い上げるが
何と声を掛ければ良いのか
判断が付かない。
それは他のみんなも同じだったようで
ただ、涙を流すヴィータを
見守る恰好になった。
「なぜヌシがコレを知っておる」
ようやく落ち着いたヴィータは
上機嫌になって言って来た。
「すまん、知らない。ひらめき任せに作った」
俺は正直に言った。
ヴィータは嬉しそうなまま表情を崩し
じょうろの説明をしてくれた。
このじょうろは神器だ。
ヴィータ専用の神器で
今回のゲートの開き具合の狭さゆえに
持ち出しを諦め、天界に置いて来た物だ。
「アモンさんはそれを
そっくり同じもの作ったというのですか」
珍しく目を見開きハンスが言って来た。
「なんだハンスも欲しいのか」
俺の問いに「滅相も無い」と否定するハンス
・・・・似合いそうだけどな。
「我にも分からんがこれはオリジナルじゃ
置いてきたじょうろ、そのものじゃ
作ったのでは無く神界から取り寄せて
くれたのじゃ」
俺は創製した時の感覚を説明した。
解析不可能だった勇者シリーズの
データーに導かれるようなあの感覚。
「仕組みは分からんが・・・合点は
なんとなくいったの」
勇者の剣を見せてもらったヴィータは
推論を言ってくれた。
じょうろと勇者シリーズの製作者は
同一人物だった。
それも炎と鍛冶の神ハルバイストが
直に鍛え上げた逸品だ。
成程、俺より上位だ。
解析できないワケだ。
勇者の剣のバカげた切れ味を思い出す。
だとすると
この一見ふざけたじょうろは
一体どんな力を持っているんだ。
俺は素直にヴィータに聞いた。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれたの」
ヴィータの説明によると
ヴィータの豊穣の力を何倍にも
引き上げるブースターだそうだ。
「戦力にならねぇ・・。」
俺がそう漏らすと
ヴィータはキーキー怒った。
素直に謝る。
いや、でもこれは間接的に戦力だ。
食い物が足りなくてどれだけの命が
失われているのか。
逆に戦時・平常時関係無しに
強力な力といえる。
兵糧攻めという戦法だってあるのだ。
腹が減っては戦はできぬ
でもヴィータが味方なら
これで味方の腹が減る事は無いのだ。
「使い方は普通のじょうろと同じでいいのか」
全く同じで、入れる水もなんでもいいそうだ。
要は使用者がヴィータで有る事だ。
俺は車外、前方で御者の隣に座っている
バルタん爺さんの寂しくなった頭髪を
見つめて言った。
「なぁヴィータ。髪の毛にも効くのか」
「・・・・やってみるかの」
俺とヴィータは顔を見合わせ
いやらしい含み笑いをしながら
いそいそと準備を始める。
冷却で大気中の水分を集め
じょうろに注ぐと
窓を開けヴィータはそーっと
バルタん爺さんの頭に
「実りよ。」
と良い声でじょうろの中身を掛ける。
神の奇跡すげぇ
髪に奇跡が起きた。
ニョロンリョと艶の良いブロンドの
髪が死地だった頭皮から蘇る蘇る
俺達は小声で狂喜乱舞した。
「どうじゃー」
「すげぇ!すげぇぞヴィータ
文字通り不毛の大地に命が芽吹いた」
「お二人とも・・・」
ハンスが自重を促す。
なんか情けない顔になってるハンス君。
勇者と王子は
何か信じられないと言った顔だ。
奇跡が信じられないのか
魔勇者と女神がふざけて遊んでいるのが
信じられないのか
確認する勇気は無かった。
程なくして馬車は領主の館に到着した。
俺達は降りて、バルタん爺さんの
後に続く。
メイドや執事達にテキパキと指示を
出すバルタん爺さん。
いつもの光景のハズなのだが
一部いつもと違う。
指示を出された部下達は一様に
一瞬フリーズする。
俺とヴィータはそれが
可笑しくて仕方が無い。
おい、誰か何か言えよ
誰も突っ込まないまま
とうとう領主ローベルト・ベレン6世が
館の玄関から登場してしまった。
やはりバルタん爺さんを
一目見て一瞬、固まる。
が、そこは流石に雇い主
黙っては居なかった。
「・・・・バルタよ。」
「はい。旦那様」
「その髪の毛はどうした」
「はい?」
俺は気を使い鏡を生成すると
バルタん爺さんに向けてやる。
あの驚いた顔は
当分、俺の頭から離れそうも無い。
館の大広間で
例の錫杖の授与と
ハンスの「武」就任が
簡易的ではあるが執り行われた。
その後は昼食兼
重大会議だ。
パウルは近くで見ると
意外と若い、流石に若者とは
言えないが、まだ中年が始まったばかり
と言った印象だ。
額が広く、眼鏡を掛けている。
当然ながら頭脳派なのだろう
絵的にもドンピシャだ。
「情報が錯綜している千変万化だ。
精査が追いついていないのが
正直な現状です。」
パウルの声は
何か鼻から話してる様な声だ。
美しい=ふつくしい
と聞こえそうな。
壺に拘りを持っていそうな声だった。
一通り食事が終わり
茶や甘味が並べられた時点で
パウルが切り出す。
それに答えるようにハンスが
例の低い声で現状を説明した。
内容はパウルが持っていた情報と
一致する。
ベレンからバリエアまでの距離を考えると
早馬でも間に合わないハズ
通信技術があるとは思えないが
何か魔法的な手段でもあるのか
パウルの情報は早い。
「流」伊達じゃないな。
「信じがたい・・・。」
精査が追いつかないのではなく
パウル自身が現実を信じたくないのだろう
「うむ、そんなに酷い状況だとは」
領主も本気で心配している。
こちらとしては野心を起こして欲しいのだが
なんとか助けられないかと言い出した。
もし、腹に黒いモノがあって
こんな演技をしているなら
大した役者である。
取り込み甲斐がありそうだ。
「私は直ぐにバリエアに向かいます
話はみなさんで」
そう言ってガバガバは席を立つ
勇者がそう言うのを予想していたのだろう
バルタん爺さんがガバガを促す。
馬と旅支度、随行する騎士も準備済みだ。
相変わらず有能だ。
私も行くと逸るセドリックを
領主とパウルが諫める。
俺はさっきも言ったので黙っていた。
ハンスも勇者について行く事になった。
女神には信頼できる侍女、
これが同郷の知り合いだそうだ。
が付いているので任せると言っていた。
俺はこっそり夜にでも
領主に奇襲を掛けて釘を刺そうと
思っていたが、これはヴィータに
止められた。
領主に野心は無いとヴィータは言っていた。
もし、バリエアが首都・聖都として
機能しなくなるのなら
話はそれからで良い。
なので、俺は夜に単独で
捜索隊の捜索を行う事にした。
太郎ーお前ふざけんなよ
何やってんの