第百一話
これまでの戦闘で最も難易度の高い
ミッションだ。
死なないように斬られる。
跳躍を含めた剣の軌道を完全解析
人間の反射速度内で致命傷を避けて
斬られる。
直前までは半人化で動きを補正
刃が体に入る、その時に完全人化
悪魔状態で受けたらヤバいが
悪魔状態で解析しなければ
致命傷間違いなしだ。
ズバー!!
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛」
上手くいったかな
人間状態だと良く分からんが
傷口が熱い
派手に血が噴き出す
きゃー
俺はもんどりうって倒れる。
「ガバガバ何て事を!その人は助けてくれた」
「騙されないで、こいつはあく・・・」
赤い血
勇者の剣を伝って
俺の血がポタリポタリと
地面に落ちる。
「・・・え????うそ!!」
ガバガバが俺を見ている。
例の勇者アイで再確認しているのだろう
人間状態なので判断できんが
そうしているハズだ。
俺は叫ぶ。
ここは練習の成果の発揮どころだ。
「俺゛ば助゛げだだげな゛の゛に゛
どう゛じでぞん゛な゛
酷゛い゛ごどずる゛ん゛だよ゛!」
もう苦しむ苦しむ
元気じゃねぇかって位、苦しむ。
カラーン
ガバガバは俺の血が自分の手まで伝わって来た
タイミングで剣を落とす。
眼球が凄い速度で上下左右に動く
いいですね
「うそ・・確かに悪魔だった悪魔だったのよ」
ワナワナと震え耳を塞ぐ様な仕草になる。
先程の勇ましさの欠片も無い
ようし
とどめだー
「ぞう゛言っで何人殺じだーぁ゛ぁ゛
ごの゛人殺じがーぁ゛ぁ゛」
どですか藤原先生
「いやぁあああああ!」
今だ!!
ここが試すチャンスだ
俺は今まで自分に施された聖刻を解析し続けてきた
解除は出来ないが仕組みは知りたかった
同様の術が俺にも使えないかと
密かに研究を続けていた。
解析の結果、これは複数は不可能だ
一対一の術だ。
使う相手は厳選しないといけない
それが勇者なら願ってもない
ヴィータが俺にしたように
自分を滅する事が可能な相手が望ましい
俺は半人化し
俺への警戒。敵意が完全に消え
贖罪も辞さない罪悪感に捕らわれた
弱り切った勇者の心に聖刻
この場合は魔刻になるのか
を、付着した血液を媒介して
打ち込む。
成功かどうかは知らない
気づかれる前に完全人化して
苦しむ演技を・・・
つか
ホントに苦しいや
ハンス速く助けて。
ハンスが倒れた俺の元へ駆け寄って来る。
「アモンさん!」
「早く治療して」
ここで小声になるハンス。
「大丈夫なんですか。崩壊しませんか」
「以前、ヴィータにもやってもらった事が
ある。人間状態ならOKだ。」
ハンスは素早く圧縮言語での治療呪文に入る。
効果はすぐさま現れ、見る見る痛みが引いて行く
おぉありがとうハンス君。
「やるな。ヴィータ並みだぞ」
治療が終了し、額の汗を拭うハンス。
「いえいえとんでもない」
さて勇者は
どうなったかなと
ふと見れば
何あれ
何かリア充カップルが抱き合ってんですけど
「あぁセドリック。私どうしよう」
「大丈夫だよガバガバ。私の家の力で
人一人の死体ぐらい隠密に片づける
君の経歴にキズなんてつけさせるものか」
「あぁセドリック」
「ガバガバ」
何コレ
昼の一時ですか
つか王子様更新セドリックくん
恩人を隠密に始末するとか
気に入ったぞ
「おいハンスあれ焼き払っていいか」
つかハンス君や。
ガバガバ恋人じゃなかったのか
片思いなのか
どっちにしても酷い光景になるな
焼き払いをお願いされたらどうしよう
「まぁまぁ」
予想外にハンス君はニコニコしてる。
なんか保護者の視点だな。
「セドリック!」
「ガバガバ!」
俺は落ちたガバガバの剣を拾い上げ
キレイに血を拭いてやる。
そのついでに解析だ。
横を向き、ガバガバ側は人間のまま
陰の方を半人化させて片目デビルアイで
解析を始めた。
刀身の解析は不完全だが
エッダちゃんの槍と同様の技術で
作成されている事は特定できた。
これも家に伝わる家宝とやらなのだろう。
「あ・・・これは大変失礼を・・・。」
正気に戻ったのか
セドリックがガバガバの抱擁を解き
俺に駆け寄って来る。
「恩人斬られたのに乳繰り合いか」
セドリックの顔に怒りの色が走る。
素直なイイ子だ。
「無礼に無礼を返した。これでお相子でいい」
俺はそう言うと剣をガバガバに渡す。
事情の説明はハンス君に任せた。
「アモンさんの説明はどうしましょう」
ベレンでの扱いと同じでと
頼んでおいた、ガバガバには
必要ならば後で個別に説明を入れよう。
久々に再開にハンスは嬉しそうな様子だった。
思えばずっとガバガバの身の安全を気に
かけていたしな。
元気そうでなによりだ。
護衛兼御者も復帰したので
ベレンに向かってもらう。
話の続きは馬車の中で行った。
「恩人に大変失礼をどうかお許しを
私は・・・」
金髪王子様は本当に王子だった。
王以外はバリエアを脱出したとのことだったが
目の前のセドリックもそうで
彼は第二継承権を持つ本物の
バルバリス帝国の王子だった。
「なんと謝罪すれば良いか・・・
もう言葉では・・・」
ガバガバはこちらの予想通り
勇者だった。
「大丈夫ですよ。アモンさんは
もうお許しですから。それに
秘術で悪魔の力を行使される
世界で唯一のお方、悪魔と見間違えても
これは責められません。」
俺はそんな設定なのか
なるほど、これなら半人化で過ごしても
問題なさそうだ。
よく考え着いたなハンス君。
それにしても
ハンスが甲斐甲斐しくガバガバをなだめる。
甘くないか。
「この力の件は内密に、ベレンでも上層部しか
知り得ないこの魔勇者たる存在。」
一同頷く
しかし
なんかハンス君はどうしても俺を
救世主に据えたいらしいな。
ま
やる事は変わらんのでいいけど
「勇者、カルエルには会ってないのか」
俺は一番気になる事を聞いた。
勇者いわく、なんと、会っていない
故郷の村の前まで送り届けてもらったのが
カルエルに会った最後で
彼女はそのまま
愛しい王子様の身の安全の為に
村には戻らず奔走していたそうだ。
爆破してやろうか
つか
太郎はどこで何をしてやがるんだ。
俺が打ち込んだ魔刻には
ガバガバは全く気が付いていない
まぁ、俺もヴィータが発動するまで
気が付かなかったので
このままスリープさせておこう
この「刻」なんだが
簡単にいうと呪いだ。
掛けらる対象が相手を認識しつつ
かつ警戒を解いていないと成功しない
警戒、さして強固ではない防壁だが
それだけでも弾かれてしまう。
初見で成功させるのは、ほぼ無理だろう。
俺の場合は相手が赤ん坊という事で
全く警戒していなかった。
ガバガバの場合は悪魔と確信して
攻撃したら人間だった。
この異常事態に自らの能力への自信喪失と
傷付けた相手への良心の呵責から
俺への警戒が消えたのだ。
千載一遇のチャンスを活かせた。
なにしろ相手は俺を屠ることが可能な相手だ
保険があるに越した事は無い。
「では、まだ聖都は危機の最中なのか」
若く熱い王子は祖国の危機に
立ち上がりたくて仕方が無い。
三人で説得するが
戻るの一点張りだ。
「何の為に脱出させたと思っているんだ
お前が死ねば、それこそバルバリスは終わり
なんだぞ。王の思いを無駄にする気か」
俺は怒った演技でセドリックを諭す。
拳を握りしめ悔しそうな表情ながらも
「分かった」
と言ってくれた。
うんうん、いいぞ
君はベレン領主への大事なお土産だからね。
「で、勇者には王子をベレンで保護した後
バリエアに向かって、向こうの悪魔討伐隊に
合流してもらいたい。」
力強く頷くガバガバ。
コイツの視線には何かの力が乗っかってるので
痛い。
あんまり見ないで
「チャッキーだけじゃ不安だろうし」
俺がそう言うとガバガバはマジで驚く。
「えーっあの子が・・・不安だ」
本気で不安そうだ
チャッキー君よ・・・ガンバレ。