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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
1章:木の刀と獣人村の用心棒
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少女の成長

このページを開いていただきありがとうございます。

 少年がそれを手にしたのはこの家へ養子に来てからのことだった。苗字をもらい、晴れて武士の一族入りした少年は、通っていた道場から免許皆伝を受けたことにより正式にこの家に迎えられることになったのである。

 道場と懇意にしていたこの屋敷の主には子供がなかった。この養子縁組は、家督を継ぐ者を欲していた当主と、少年の行く先を案じる師範代の思惑により成立する。しかし周囲を納得させるためには実績も必要であるのは確かなことだった。小さなときから実力を伸ばしに伸ばす少年に注目していたのは、師範だけでなくこの家の当主もである。彼は少年の強さがこの家を盛り立てていくことを疑っていなかった。ゆえに免許皆伝と一つの課題を出す。少年は見事に課題を成し遂げてここに至る。


「……すなわち家訓だ」


 長い長い家訓を言い終え、感慨にふける当主と、足の痺れを我慢して真面目に聞いているように見える少年の間には隔絶した認識の齟齬が生じていたが、とにかくその場はきれいに収まった。そして少年の両手には長い長い太刀がその白い鞘とともに添えられている。


 銘を【白烏シラガラス】という。刀鍛冶である名匠「正嗣マサツグ」が納めたとされる刀で、妖刀「八咫烏(ヤタガラス)」と対をなす真打・御神刀だ。「八咫烏」は剣豪、藤堂鎌恒(トウドウカマツネ)が使ったとされる伝説の名刀で、橋の上で二百人斬りを果たした後も切れ味が変わらなかったという。その刀は名京の城に納められている。


 神社に隠されていた御神刀【白烏】だが、この刀は神社が焼き討ちにあった後、その刃だけを残し静かに地中にその身を休めて日の目を見ることを今か今かと待っていた。当主が戦の戦功を立てて与えられた土地の開発の際に出土したのだ。火に晒されても、土の中に埋められていても、時が過ぎてもその形状は崩れることを許さず。鑑定士により名が明かされ、当主の命で新たに拵えが設えられ、刀として蘇るに至った。家宝とされた【白烏】はこうして少年の手元に苗字とともに活躍の機会を得る。





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 少女は焦っていた。訓練を申し出たのは自分のはずなのに、横からついでに申し込んだ英雄の息子が成果を出している。しかも獣人の固有技術を混ぜて独自成長を遂げていた。教えられる訓練を一所懸命にただひたすらに打ち込んでいた自分との違いを見せつけられた気分でいる。だが自分には新たに生み出す想像力も創意工夫も欠けていた。愚直にただひたすらに剣を振ることだけを意識して。


 竹細工師はそんな彼女の様子をじっと観察していた。焦りがあることも、自信が欠けていく様子も見続ける。ただ、リグラは剣筋を乱すことを良しとしなかった。教えられたことを教えられた通りに繰り返す。訓練が終わっても木刀を返すのをいつも渋っては個人で延長を申し出ていた。二人の少年が帰った後もその様子には鬼気迫るものがある。京之介は興味に負けてついに彼女に理由を尋ねた。


 彼女もまた魔物災害の被害者で、両親を無くしたという。自分に実力があれば今度は何も、誰も失わずに済むという暗示をかけて成長してきたのだ。その志は高潔なものだが、着物の男にとってそれは胸の痛む考えだ。一種の呪いとも思える。殺伐とした世界を垣間見た。そしてこの子が生き急ぐことが無いよう守りの力を与えることにする。


「斎藤流【トラフグツ】」、突き返しの技術。あらゆる攻撃をいなし、逸し、反撃する脅威の剣技である。またの名を【技殺し】。京之介は狐耳のこの少女が決して諦めないことを見て取った。フグツ少年の成長を見て乱されても悔しくても教えられたことを曲げなかった。工夫を凝らして成長したフグツも立派だが、この子の、型が自分に根付くまで繰り返すことの方を高く評価した。そして若かりし頃の自分の焦りを思い出す。そして「今まで教えてきたことは全て強くなるための技だ。実感がないからといって今の素振りの価値を見下げるのではない」と言ったかつての師範の言葉が過る。もう時間がない。自分が教えられるのはあと僅かだ。ここを出るのも騎士団が次の目的地に行く二日後に迫っている。また彼はかつての女の子の影をリグラに見た。諦めて刀を置いたあの子の影を。


「リグラ、一人で訓練するときに続けなさい」


 いつか教えられた口調そのままに、京之介は彼女の目を真っ直ぐに見た。狐の少女はこれから受けるであろう授業にわくわくする心を抑えられなかったのか、自分の師匠にありったけの笑顔を向ける。


「自分より強い者との戦いではまず、逃げる事を考えるんだ」

「ええ~? 逃げるの? せっかく強くなるために訓練してるのに……」

「じゃあ聞くが。その強い相手に負けて、守りたい人たちも守れなかったらどんな言い訳をするんだ?」


 リグラは答えに窮する。自分が負けるなんて考えたくない類の想像だ。強くなる訓練をしているのに負ける事を想定しろと言われても普通はできないのかもしれない。しかし、強くなっているという自覚は、自分が負けるという現実からあっという間に逃避してしまいかねない陶酔した気持ちを育む事がある。それゆえに京之介はそういった感覚を早いうちから捨てさせることが大事だと考える。もちろん自信を持つことは成長に欠かせない要素ではあるのだが、まだ始まったばかりの訓練では大人には誰にも勝てないだろう。


 それにリグラの親は今現在この子を守ることができない。すでにいないからだ。同じ運命を辿ったとして、残されたものをどうやって守るのか。リグラはじっと師を見て「逃げる事」が決して悪い選択ではないということを思い至った。


「そういうわけで、強い相手に一瞬でやられたりしないよう反撃してスキを作る技術を教えよう。それから逃げる」

「はい!」

「うん、いい返事だな。リグラに一つ大事なことを付け加えておくけれども……」


 訓練の仕方を教えるだけで、技を教えるつもりがなかった男だが、ついに化け狐に絆されるに至ったかと苦笑を漏らす。いい加減ここが地獄の手前じゃないことを悟ってもいいところかもしれないが、この男にそれを説明する者はここにはいない。


 こうして少女は防衛において恐ろしいまでに成長を遂げることになる。

お読みいただきありがとうございました。

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