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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
2章:奇跡の刀と半エルフの記憶
20/24

手紙 壱

前略 常盤京之助様。このたびは私との結婚を受けてくださり誠にありがとうございます。おかげさまで私はとても幸せな時を過ごしております。


 私は果報者ですね。貴方様との出会いはそれはそれは長いものですが、こうして夫婦の契りを結べることになろうことなど誰が想像できたことでしょう。気付いておられないかもしれませんが、私は貴方様のことを心からお慕い申しております。


 さて、ここからの乱文、乱筆をどうぞお許しください。未来の旦那様ならきっと笑って許してくださることでしょう。まぁ、このお手紙はお見せすることはないと存じますので、好きに書かせていただきます。正直、堅苦しい文章はこれで限界です。見ることがもしあるなら幻滅しないでね。


 京、貴方はきっと私があの日、刀を置いたのは自分のせいだと思っていることでしょうね。でもそれは半分正解で、半分は別の理由です。記すのは私の心の整理のためで、死ぬまでこの胸に秘めておこうと思ったのだけれど、いつかは知ってもらいたいと思いなおしました。


 あの日は本当に悔しかった。絶対に負けるわけないと思っていたから。薄々だけれどね、剣戟が当たらなくなってきていたのはわかってはいたんだよ。でも認めたくなかった。日に日に強くなっていく京に対して焦っていたんだと思う。ただひたすらに打ち込んでいった私の剣技に、防御一辺倒になっているんだと勘違い、いえ、そうだと思いたかったんだと気づいた。気づいてしまったんだよ。私を傷つけないための立ち回りだったなんて。私は貴方に負ける前から自分にすでに負けていた。悔しかった。


 でもね、京。本当は刀、置いてないんだよ。お父上に大反対されたけれど、西の千堂流に通ってるんだ。道場の娘が他所の道場に通うんだからお怒りは当然かもだけれど。弓を習ってるって言ったのは方便もあるけれど、嘘ではないよ。千堂流は弓も教えてくれるから。弓は嗜み程度にやっています。ここは独特の剣技で面白いよ。いつか再戦申し込んだら驚いてくれるかな。その時が楽しみで仕方ありません。勝ったら鬼嫁なんて思われるのかな。それはそれで嫌だけれど、諦めてなかったことをその時に証明するつもりです。


 そうだ、京。初めて貴方に「京さん」て呼んだ時の事覚えていますか。私はこの目に焼き付けています。他人行儀で距離を感じると言いながらもそっぽを向いて、正面に向いた右のお耳は真っ赤に染まっていましたね。殿方には伝わらない方が良いのでしょうが、とても愛しく可愛く思いました。真面目なあなたのことだから、あまり見ることのない情景になるのでしょうか。でも私はそんなあなたの事をずっと見ていたいのです。


 とりとめのない文になってしまいましたが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。 愛刀、(クレナイ)に想いを託して

かしこ


斎藤琴乃


追伸 今から、貴方が育った村へ行ってきます。貴方が愛した人々と、貴方を愛した人々を私も愛せるでしょうか。楽しみです。道場から四人も護衛が付くのですって。お父上の心配性はどこまでなのでしょうね。では帰りを待っていてください。




―――――



 シュレイアは今日も今日とて京之助の部屋へとやってきた。彼女は眼の前にいるローブの男の、刀の手入れの様子を見ることを好んでいる。鍔止めを外し、鍔を取るところから刀装、拵えを分解してまた戻すところまで。丁寧に丁寧に扱うその姿勢が美しく見えるのだ。冒険者であった父から母へと伝えられた武器のメンテナンスの重要性をシュレイアもある程度理解しているつもりでいた。命に直結する行為である。しかしこれほどの入れ込み具合を見たことはない。


 ハーフエルフである彼女にはしかし、一部の記憶がある。おそらく目の前の男と共通する土地で生きてきたであろう記憶。そして、刀も。


 彼女は男の手捌きを見ながら自分の手と心をうずうずさせていた。


「これ、やりたいのか?」


 肩をすぼめてから手入れを指さす京之助。

 

 少しだけ頬を染めながらもこくりと頷くシュレイア。


 一本目の妖刀の手入れを終え二本目を手掛けようとした京之助は、あまりにもワクワクしているハーフエルフを見やってから一瞬だけ苦い顔をした。そして首を横に振って想いを切り替えて言う。


「やってみる?」

「いいのっ!?」


 まさかそんな提案が京之助から出るとは全く考えていなかった彼女の声色は裏返っていた。武器を預けるは信頼の証。その実、何度も何度も作業を見ては感嘆し、うっとりした視線を向けられていては聞かざるを得ないではないかとも思う。しかしそれは心の声として臓にしまう。大人になった男の矜持として声には出さない。


 手渡してから後悔の顔が浮かんでいる京之介。


 それをどの様に解釈したのか、シュレイアは返すまいとしっかりと胸の前で刀を抱きかかえた。


「やっていいって、いったよね!?……ダメなの?」


 まずかったかなと思いつつも心と頭と手はもう手入れ脳になっていた。返事がないことに不安を抱いたシュレイアは今日一番の悲しい目を演出した。


「ダメじゃない……ダメじゃないけど、その刀を手渡すつもりはなかった」


 本当はこっちをやってもらいたい、ともう一本を差し出す。とっさに受け取りかけたハーフエルフはしかし手を引っ込める。


「どうして……って聞いちゃダメなのかな……」

「それ……遺品だから」

「っ!? ごめんなさいっ」


 聞いた途端に後悔がやってくる。しかし手放す気は無いようで、しっかりと握りしめられている刀を見て男はそっと息を吐いた。しばらく気まずい空気が流れたが場を動かしたのは男の方だった。


「抱きかかえたままだけど、そっちでいいのか?」

「うん……なんか懐かしい感じがするんだ。なんでだろう?」


 さあ、と傾げたのが同時だった。しばらく見つめあった後、二人はお互いに笑った。


「ずいぶん手際がいいな?」

「うん? うん。不思議。昔、やったことあるのかも。何度も見せてもらってたのもあるけど」

「いや、明らかに初めて触れた感じじゃないな……」


 うん、なんでかな、と返事をしながらも拵えを外す。柄から柄糸を解くと、和紙がまかれていた。シュレイアは何とも不思議な感覚に襲われている。そんな彼女の手元を京之助はじっと見つめていた。まかれている和紙をそっと取り除いては大事に、そして綺麗に並べていく。一つ一つの工程を真剣に、愛おしそうに、手指の先まで神経を集中させて。並べられた和紙を目にしたとき、京之助は胸を襲う痛みを堪えた。しかし同時に彼女の動きのおかしさに気を取られ、目が離せないでいた。自分の作業が一つとして進んでいないことにも気づかずに。


 作業の音がしないことを不審に思ったシュレイアはやっと京之助の視線に気づいて手を止めた。



「そんなに不安そうに見ないでほしいなぁ、手荒な真似はしないよ」


 フフ、とシュレイアはほほ笑んだ。


「あ、いや……その、すまない」


 なんとも歯切れの悪い京之助の返答に首を傾げながらもハーフエルフは作業を進めようとした。しかし京之助の視線は固定されたままだ。全てがバラされたところでシュレイアは一度姿勢を整えて深呼吸をする。そしておもむろにお辞儀をした。綺麗な所作だった。姿勢を正した後、目を細めたところではっとする。


「わたし、やっとことあるよ、コレ。はっきり思い出せないけど。この郷では絶対習わないし、刀?もキョウと出会って初めて見るから、たぶんあっちの世界で」

「そうか……」

「うん……それにすごく楽しい。いい思い出でもあったのかな? 思い出せないのが残念だよ」


「刃はどうするの?」

「俺がやる。紙がないからな……布で軽く拭き取ってから新しいのを差すよ」

「わかった」


 小さな油の瓶を脇に置いて丸裸になった刃を取り上げ、査定するかのように状態を見始めた京之助を他所に、シュレイアは各刀装を一つ一つ両手で丁寧に取り上げる。顔はほころんでいた。シュレイアが柄からそっと外した和紙は刀を抜いた後のままの状態を保っている。それも掌に載せて自身の顔の前まで持ってきた。


「ねぇ、キョウ。この紙、畳んでるね」

「ああ、それは字が書いていて、虫よけだな。だいたいどの刀にも紙には何か書いてあるもんだよ。墨が虫を防ぐらしい」

「どうして紙を挟むの?」

「そのままだと硬いだろ? 長時間持ってると痛くなる。この紙は弾力性があるから、握りが良くなるんだ。コイツに関しては折りたたんでそのまま柄に巻いてあったから、元の持ち主が手紙にして仕込んでたってわけ」


「へぇ……あちらの文字か……」


 一瞬躊躇ったが興味に負けたハーフエルフは開いてもいいか尋ねる。


「……読んでもいいけど、きっと後悔するよ。最初の方で」


 しばらく考えた後京之助はため息交じりにそう告げた。シュレイアがあちらの世界の文字を見るのも、ここで生を受けて初めての事だろう。書かれた内容は決して口外しないように約束させてから京之助は仕方なさそうに許可を出すと、シュレイアに背を向けた。


 丁寧に扱われているものの、カサリカサリと小さな音を立てて開かれていく紙。文字の内容を思い、京之助の拳は胸に当てられていた。


「なになに、前略……」


 おいおい、声に出して読むなよ! と叫びそうになった京之助だが、ハーフエルフの様子が普段と違うことにも気が付いた。恐る恐る振り返ったそこにはシュレイアの驚愕に染まる顔があった。


「……ときわ……きょうのすけ……さ、ま」


 シュレイアの頭には雷撃のようなしびれる痛みが走っていた。



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