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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
1章:木の刀と獣人村の用心棒
2/24

美しくない出会いと連行

本日2話目です。

 瓦葺の家屋が整然と並ぶ難攻不落の都、名京(メイキョウ)。枝垂れた柳が均等に配置されている。設計者の几帳面さがよく表れていた。五目に区画整理された街並みや道もさることながら、外の堀から中洲に至るまで徹底した直角に次ぐ直角。中央通りを真ん中まで進めば、道は四方に寸分違わず綺麗に分かれる。


 男は迷うことなくその道を東へ真っ直ぐに進む。都の中では比較的大きな屋敷まで足を速めると、門の前で急停止した。大きく息を吸う。


「たのもう!」

「あぁ、よう来なすったぁ、__さん、どうぞどうぞ」


 人懐こい笑みを見せて、男を歓迎したのはこの屋敷の小間使いである少女。箒を刀に見立てて振り回していたが、男をみて手を止めた。


「毎日続けてるのかぃ?」

「だって、上には上げてもらえないもん」


 上と表現した道場を箒で指すという暴挙にでた少女を苦笑交じりに見やった男は彼女の頭を撫でて、もうじき上げてくれるさ、と当たり障りのない返事を返す。少女は膨れ面を見せていたが、男の物言いに反論を諦めて目の前の客を中に入れた。


「今日はどなたと試合かな?」

「うーん、師範の気まぐれで決まるゆえなぁ」


 門には「斎藤流剣術道場」と記されている。




――――――




 京之助は刀を抱え込みながら必死に走っていた。見たこともない怪物が群れをなして自身を追いかけようとしているのだから無理もない。しかし地の利は向こうにある。京之助にとって全く知らない土地なのだ。そうして彼の天命は尽きたのか、走ってきた森が抜けたかと思うほど見通しが良くなった。なり過ぎた。実際には森を抜けたわけではないようだが。広がっていたのは草原、しかし囲むようにびっしりと木々がある。


「ハァ……ハァ……もはや、これまでか……」


 走っていた速度をやや落とし、歩く歩幅を縮めて京之助はついにその場で足を止める。切らせていた息も徐々に整いだしてきている。二本の刀は左に、もう一本は右に差す。ゆっくりゆっくりと振り返り、後続を待つことしばし。十五の生き物が囲むように展開しようとしているのを捕捉する。


 京之助は少しだけ腰を落とし、左手親指で(ツバ)を少しだけ押した。キンという金属音を奏でたその刀はしかし抜かれることはなかった。


 豚とも猪とも判別のつかない顔をした醜悪な二足歩行の生き物が一人だけ前に出てきて槍を地面に刺したからだ。戦闘の意思の無いことは如何にここがどこだかわからなくても、京之助にも理解できた。低く、くぐもった声は京之助の恐怖を煽ったため、耳に届いたその言葉を理解するのにしばし時間を要する。


「人族がなんでこの森にいる?お前どこから来た?」

「......わからん、ここはどこだ。というより、近づくな! 顔怖いぞ、お化け」

「お化け言うなっ! 顔は生まれつきだ、馬鹿にすんな!」


 話の進まない展開となんだか馬鹿にされている様子にいら立った豚顔の男を少し観察した京之助は自分の境遇を分析しつつ呟いた。


「そうか……ここは死後の世界か。さしずめ地獄の一歩手前……」


 なにせこんな醜悪な生き物が跋扈しているのだ。ここが天国なはずがない、とアタリをつける。どうりで甲冑も無いはずだ。というものの、いまいち確信に至らない大きな勘違いを押し進める京之助であった。


「おい人族、ここはノースガレリアで緑の谷の王国だ。ここに何の用で立ち入った?ことと場合によっちゃ……」


 京之助の表現で言う豚男は話をとにかく進めることにした。今発せられた言葉を遮るように反芻して状況をもう一度考える。


「のーすがれりあの緑の谷の王国……?」


 聞いたこともない響きに首を傾げる京之助の頭の中は、無理矢理にノースガレリアを漢字にしようとして失敗していた。その変な様子に、豚顔の男も何やら様子がおかしいと察し始めた。後ろにいる仲間に、危険のないことを合図して近寄らせる。

 

「団長、こいつなんか様子がおかしいぞ。普通の人族の反応じゃねぇ」

「そのようだな」


 後ろから来ていたひときわ覇気のあるこれまた醜悪な生き物がくぐもった迫力のあるだみ声でそっけなく返事をした。そして前に出て京之助の視線を自身に向けると。


「われらは緑の谷のオーク騎士団、そしてわたしは団長ゾゴルガーグという。そちらは?」


 幾分威圧感があったものの、殺意を感じない物言いに緊張を緩めた京之助は、刀に添えていた手をゆっくりと腰に当てて言葉を返した。


「俺は常盤京之助、名京の都から来た」


 拙者は常盤京之助でござる、名京の都から参った、と言ったつもりが口からするっと出た言葉は相手が使った言葉と同じ表現のものだった。なぜか自然に出てきた自分の言葉にも首を傾げる。


「メイキョウ、聞いたこともないな。人族の領地にそんな都市があったか?」

「団長、そんな名前の街きいたことねぇぞ」


 うむ、と腕を組んで考え込むオークの騎士団長ゾゴルガーグと名乗った男に団員たちは続く。


「俺たちじゃ埒が明かないんじゃねぇですかね」

「俺たちオークを見てこの反応は明らかにおかしい」

「あの方に判断してもらった方が……」

「それもそうだな」


 会議が終わったのか、ゾゴルガーグは京之助を見やる。


「トキワキョウ、ノスケ殿、貴殿の出自がはっきりしないのと、会話が成り立たないのを判断するに、普通の人族とは違うのだろう。よって、総主のところに案内する故、ご同行願おう」

「……このまま見逃すという判断はないのか」

「残念ながら貴殿は不法侵入者だ。見逃すという選択肢はない。なに、手荒な真似はしないと誓おう。オーク騎士団長の名に懸けてな」


 名前の呼ばれ方に違和感を覚えて訂正したかったが、諦めて彼らの提案を思考する。目の前の醜悪な生き物が、容姿とは裏腹に士君子な態度を取ったことに驚いたのだ。偏見も甚だしいがお化け呼ばわりしている時点で今更のお話である。悩んでいる様子にゾゴルガーグは続けた。


「我々に付いて来るのは悪い話ではないと思うが。見るにトキワキョ殿は食べ物も持っていなければ、土地勘もない様子」

「うぐ……その通りだな。それとっ!呼び方がちょいちょい違う!言いにくいなら、京と呼んでくれ」

「ブハハ、それはかたじけないな。キョウ殿」


 ハァとため息を吐いて京之助はこれまでのことを考える。ついていけない事態に頭はまだ混乱したままだ。


 光に包まれるまでは確かに戦の直前だったはずだ。弓やら槍やら小太刀などを準備しては配り、忙しく働いていたはずだった。自身の装備も完璧だったはず。甲冑に身を包み、号令を今か今かと待っていたのだ。戦友たちと合流して駆け出すところにあの光がやってきた。


 瞼に少しの痛みが引いて、目を開けたそこは。


 見たこともない大自然の森と透き通るほどにきれいな水を頂いた湖。置いてきたはずの刀たちが手元に。身に着けていない甲冑。そして件のお化けたち。わけが分からなかった。


「貴殿は変わった剣をお持ちの様だが、剣士か」

「剣士……まぁ、そうだな」

「ん?含みがあるな。違うのか?」

「身分でいうと、侍という。まぁ、仕える主がいないから今は侍ではないが……分かるか?」


 いや、とゾゴルガーグ。サムライなんて聞いたことないな、と周りのオーク達の反応を見るに、自分のいる場所が元いた場所でないことを突き付けられる。やはり地獄手前なのだろうかとガックリ肩を落とした。


「まぁそうがっかりするな。緑の谷は敵には容赦せんが、客であれば悪いようにはせん。貴殿が何者かはわからんが、ノースガレリアの人族とは違うようなのでな、歓迎しよう」

「キョウもあのお方のところに行けば何か分かるだろうさ」

「……あのお方?」

「ま、行けば分かる」


 この醜悪な生き物が“あの方”と敬称する人物は如何なる者かと考えるも、会わなければ判らないことに気づいて思考を前の段階に戻す。自身に何が起きたのか、これにどんな意味があるのか。何を成すべきなのか。そして戦前を思い出しては思考の空転を繰り返す。


「キョウ殿、悪いが我々はこの辺りを巡回警備中でな。一つだけ村に寄ることになっている。総主のところへ行くまでついて来てもらおう」


 思考中を遮られた言葉に頷いてオーク達の足並みに合わせ、京之助は考えることを止めた。不意に生き物の気配を感じたからだ。


「何か来る」

「へぇ……あんた分かるのか、この気配」

「フォレストウルフあたりじゃねぇか……数が結構いるか?」

「団長……」

「ああ、三人で行け」


 隊列を組んでいたわけではなかったが、前にいる三人がゾゴルガーグの手の動きに合わせて駆け出した。


「ワオオオオオオォォォォン」


 三人が到着したのか、しばらくすると狼らしき生き物の遠吠えが森の前方から響いてきた。


お読みいただきありがとうございました。

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