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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
2章:奇跡の刀と半エルフの記憶
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意義

 少年は忍者の隠れ里に来ていた。かつて村の襲撃の任務失敗で数を減らした里だ。タレ目の少年の目は此度は少しばかりつり上がっている。一軒目の家の裏に忍び寄る。忍者の家に忍び寄るのも不思議な話だと少年は目を瞑った。裏口の引き戸に手を掛けた瞬間、木戸の隙間から刃が突き出してくる。少年は後ずさった。すぐに戸から影が飛び出してくる。


「何奴だ」

「……」


 少し高めに発せられた声に、少年は答えない。膨れ上がる少年の殺気に、出てきた影は怯むことなく攻勢に出て、少年の後ろへ回り込む。すれ違いざま少年は右手に持った柄から強引に引き出した愛刀を影に向けて振り払う。自分の後ろでドサリと倒れた忍の者はくノ一だった。


(残り三人)


 次の家へと足を向ける。竹林を左手に真っ直ぐ進むと見えてくる水車小屋が次の目標地だ。下調べは入念に行っている。標的は鎖鎌を得意とする忍だ。少年が醸し出す隠そうともしない殺気に当てられた男が慌てて出てくるところだった。男は鎖分銅を回転させ、投擲して少年の刀に絡ませる。二人同時にニヤリと笑った。それを見て怪訝な表情になる鎖鎌の男。分はこちらにあるはずだ、なぜ笑う? ぐっと鎖を引き寄せたがそれはするりと返ってきた。分銅は無く、途中で切断された鎖を見せられる。


「馬鹿な!?」


 自分の武器が壊されることを想定していない男は驚愕に顔を染めたが、それが最後に見せた表情だ。


(残り二人)


 少年の蹂躙は続く。


 その日、佐倉衆という忍者の一派は滅んだ。


 連絡の取れない佐倉衆を不思議に思い、傘下の忍者の一派が調べに入ると、里は壊滅していた。屈強な四人の忍者は忍の世界でも名の通った者たちで、数を減らしても同族の中では彼らを襲うものはいないはずだった。そんな無謀なことをする者は忍の世界では皆無である。なぜなら四人は一国を相手取り滅ぼした英傑の忍として大名たちからも恐れられる者たちだったからだ。それらの者たちが里の銘入りのクナイをその背中に刺されて吊るされていたのである。


 忍の世界は激震した。




-----




 宮区の最奥の間でエリアファーリルは着物の男と対面していた。ハーフエルフの稽古の様子を尋ねる。


「シュレイアはどうですか?」

「恐ろしい才能ですね」


 京之介の返事に満足そうに頷く。総主は話題のハーフエルフの生い立ちから境遇、これまでの生活を着物の男に聞かせた。時折見せる彼女の不思議な聡明さをもハイエルフは気づいていた。生まれは確かにこちらだが、迷い人の“記憶持ち”というのが時々この世界に現れるという。はっきりとした記憶を覚醒させる者もいれば、それがわからない、違和感が少しあるという程度の者も過去にはいたらしい。シュレイアは恐らく“記憶持ち”だろうという事だ。


「時にキョウ殿」

「なんでしょうか?」

「貴方が着ている“キモノ”という服ですが」

「ええ」

「第二区の職人通りでね、作ってみたいという声が上がっているのですよ」

「ほほぅ……それは素晴らしい」


 勿体つけた出だしで何を言われるのかと構えていたタレ目の男はその目をさらに垂らした。返事に好機を見出したのか、エリアファーリルはここぞと畳み掛ける。


「そこで、キョウ殿に“キモノ”を貸していただけないかと思っているのです。もちろん対価は払いましょう。いかがです? もう一着必要ないかしら? それに今の服にも少しだけ手心を加えさせていただきますよ」


 神々の願いだ。すぐに快諾を告げる。何やら不穏な言葉も混じっていたが、悪いようにはされないだろうと結論を出した。もう一着という話もありがたい。


「裁縫師たちも喜ぶでしょう。借りている間はこちらを着てくださいな。それは貴方に贈りましょう」


 エルフのローブを手渡される。ちなみにこのローブ、エルフの里の最高峰の裁縫師が手掛けた一品で第一区域の精鋭たちでさえ持つことを制限される貴重品だ。付加されている加護が天井知らずの価値なのだとか。価値のまったくわかっていない男には分不相応な代物だが、着物のデザイン料だと言われて納得させられる。デザイン料なるものが如何なるものかも理解していないお侍さんだった。ありがたく、丁寧に恭しく、最上級の礼をとったことは間違いではない。この時ばかりは空気の読めたお侍さんだった。


 京之介はローブを着たまま後を辞すと、自分へ充てがわれた部屋へと戻る。夕餉が終わると決まって侍は自分の刀を手入れする。毎日毎日必ず一本は手がける。全てを手掛ける時もあればこの日のように一本だけの時もある。


 正座をして礼を執った。手入れの始めに行う習慣である。この度はローブの男が刀を手にしようとした時、来客の戸叩きで動きを止めた。


「キョウさん、いる?」

「シュレイアか、どうした?」

「刀を見せてもらおうと思って。さっきは木のやつだったでしょ? 本物見てみていな~なんて思ったわけ」

「ふむ。ちょうど手入れをするところだ。見ていくといい」

「へぇ、面白そう。いいタイミングだったね。やった」


 訪ねてきたのはいたずら王ことハーフエルフのシュレイアである。稽古の時に見せた彼女の異常な程の刀捌きを不思議に思っていた京之介は、この郷の長が言った“記憶持ち”に何かの手がかりがあるのだろうと感じていた。特に彼女の過去には興味はなかったが、刀についての興味には好感を持っている。


 今日の手入れは【夜桜虎月】。過去の襲撃で妖刀へと成り果てたそれは、侍から言わせると“暴れ馬”だ。斬るもの斬るものを真っ二つにしようとする習性がある。京之介は意志の強さで抑えているが、他人には決して触れさせられない代物だ。


 侍は先程の礼からし直した。雰囲気の変わったそれに、シュレイアも居住まいを正す。そしてコクリと唾を飲んだ。丁寧に丁寧に解かれていく刀を見た時、ハーフエルフは胸がトクンと鳴ったことに驚いた。


(ん? なんだろう、この感じ。懐かしい?)


 一人首を傾げてはタレ目の男の真剣な様子を観察し続けるシュレイア。


 柄に柄糸が巻かれ、終わりの響きが漂い出した時、ハーフエルフはやっと話ができるかと侍に水を向けた。


「随分と丁寧な手入れね」

「まぁね。自分の獲物の状態は自分でわかっておかないといざという時に役に立たなくなる時が来るからな。命には代えられないだろ?」

「それにしてもよ。手が込んでる」

「それだけ思い入れも愛着もあるってことだ」

「ふーん」


 ハーフエルフはこれ以降京之介を訪ねては手入れの様子を観察するようになる。


「わたしのことはレイでいいよ。簡単でしょ?」

「そうか、俺もキョウでいい」


 呼び方で少しだけ彼らの距離は縮まった。かに見えたが、次の言葉で瓦解する。


「それはそうと、あなたローブ似合わないわね」




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