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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
2章:奇跡の刀と半エルフの記憶
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すれ違い

 仲間の一人が倒れてから暫く経つ。心が折れるほど軟に育てられてはいないが、物理的に身体の限界は近づいていた。自分を除いた三人に意識を向けると、肩で息をする様子が目に入る。まずい、と思った。このままでは押し切られてしまうと。後頭部に髪を括り付けた長髪の二刀の少女は戦況が好ましくないことを肌で感じている最中だ。襲ってくる賊の一人ひとりは実力ではこちらが勝っている。しかし、相手も素人ではない。投擲されるクナイから、どこかの忍者であることはわかっているのだが。先程から自分たちが斬り伏せている者たちの人数の多さが、強襲の本気度を推し量るのに一役買っていた。ただの村にこれほどの人数を充てるのは明らかにおかしい。十人や二十人で済まない人区のかけ方に背筋が凍る思いだ。


「くっ……」


 斬り伏せたつもりの倒れた男が後ろから最後の力を振り払うかのごとく投げた小さな刃物が少女の左肩をめがけて回転して進む。幸か不幸か柄の部分が肩に当たった。少しの痛みに顔を歪める。僅かなスキが新たな敵を招いた。痛めた左側からわざわざ狙いをすまして投げられるクナイを目にし、少女は歯噛みした。しかし痛みはない。膝をついた視界が一瞬塞がれたのは仲間が自分の前に身体を滑らせて入ってきたからだ。その小さな刃を胸に受け、もうひとりの仲間が膝をつく。襲い来る者たちは、倒れかけた仲間を無視して少女を仕留めるために加速した。


「まだだ!」


 執念の男は立ち上がると同時に刀を振り払う。よろける足に構わず歩を進め、二人を倒した後呟く。


「すまない……」


 何に対しての謝罪かはその後すぐに判明する。もはやこれまでということだ。彼らの使命は護衛である。二刀の少女の。守りきれずに先に行くことへの無念の言葉。残される家族への言葉でもあるのだろう。やりきれない思いが頭を掠める余裕もないままに後続は次々にやってくる。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 少女は刀を振りながら、涙を堪えながらも謝り続ける。たくさんの意味を持つその謝罪の言葉は、伝えたい相手にはもはや届かない。




-----




 竹林に囲まれた獣人達の楽園を後にしたオーク一行と蒼の着物の侍、常磐京之介は長い森を抜け、岩肌がそびえる谷の入口に足を踏み入れた。到着は夕刻。西陽が岩肌を撫でるように照らしている。反射する七色の光が幻想的な世界を演出していた。この度は最後尾にいる京之介の目の前のオーク達が彼にとっては目障り極まりない景色の一部となっている。背の低い着物の男は掻き分けるように前に進み出ると感嘆のため息を吐いた。


「ほぅ……」


 押しのけられたオーク達は怪訝な素振りを見せたがそれも一時のことだった。この景色を見て感動しないものなど、住み慣れているものしかいない。京之介の感動具合を見て即座に機嫌を治す。


「見事なものだろう?」

「ああ、すごいな」


 まるで自分たちの住処を自慢する物言いではあるがそうではない。彼らの言う“総主”

なる者の住まいである。荘厳な雰囲気のある谷はまさに絶景と言えた。


「ここはエルフの郷だ。我々が入れるのはここの最初の第三区域のみ。騎士団長であるわたしは無論宮区もはいれるがな」


 この郷には四つの区域が分けられている。


 第三区は宿舎区で公開された小さな区画で規模もそれと等しい。


 第二区は一般区で住民が住まう区域だ。


 第一区は自衛団と名付けられた郷を守る精鋭達とその家族がいる。


 宮区はハイエルフと呼ばれる最古のエルフと世話役の住まいだ。


 ロストアースに存在するハイエルフはその数を減らし、今では五指にも満たない。この国の王と、この郷の長がいるここノースガレリアの緑の谷の国はそれだけで尊崇される国となっていた。かつて世界を支配していたハイエルフの一族が二人もいるのだ。


 騎士団がこの地に入ることができるのは、四騎士団長にのみ与えられている護符が原因である。この護符を持つ一団は結界を抜けることができるのだ。かくして京之介はこの谷へと足を踏み入れることがかなったのである。三区から二区に行くにも専用の護符が必要で、住民以外は騎士団長しか持ち合わせていないため、この地へ入れるものは本当に少ない。言わずもがな、全ての区画で専用の護符がいる。


「キョウ殿はとりあえず第三区で待機だな。報告を総主に上げてから、判断を仰ぐことになる。よろしいか? 結果次第では人族の街の方向へ放免となるかもしれぬし、面会が叶うやもしれん」

「わかった、もちろんそれで構わない。ここまで来られたのもあんた達のおかげだ。ありがとう」


 素直な返答に困惑するオーク達である。これまでの非礼が嘘のような態度だが、着物の男は何かとオーク達に感謝していた。最初の出会いからこの方、親切にされたことはあるが不利益を被った覚えが一つとして無かったのだから頷けることなのだが、オーク達にとっては面映い。


「では、行くとするか。キョウ殿、案内しよう」

「かたじけない」


 オーク達に見せる初めての礼儀。首を縦に振っただけの行為だが、そこには確かな敬意が見て取れた。彼らは着物の男を茶化すのを戸惑った。


 第三区の門に近づくと、門番が彼らを出迎える。


「これはゾゴルガーグ騎士団長、ようこそいらっしゃいました。我らが総主がお待ちです、どうぞ」

「ああ、ご苦労」


 見目秀麗な長い尖った耳を持つ門番を目にした時、京之介は衝撃を受けた。この世にこれほどの美しい生き物がいるとは、と。しかしこの者が門番で、目の前のお化けに敬意を捧げている様子を見て、不思議に思う。


「む? 人族がなぜここに?」


 もっともな質問に騎士団長は苦笑を漏らす。


「その報告も総主にすることになっている。今は通してもらおう。何、危険はないし騎士団が周りに付いている。問題は起こさせんよ」

「はは、失礼しました」


 彼らが入郷を果たした時、侍はどこからかの視線を感じていた。悪意のない関心の視線を。進展のない様子を見て取って京之介はオーク達の滞在予定の宿へと入った。部屋に入る京之介がまずすることは変わらない。刀の手入れだ。はじめに手がけるのは最近作った木刀で樫に似た木から削った傑作である。腰に下げていた二本の竹の水筒のうち、油を入れた方に手を伸ばす。鼻歌でもまじりそうなご機嫌さだ。


 一方、入郷の一部始終を見ていた少女然とした者は、人族を見て驚く。自分の父親以外には人族を見たことがなかったからだ。興味をそそられたが、宿に入られては手の施しようがない。接触を図るのは今ではないと判断し、宮区へと帰っていく。


 運命の出会いを世界は承認した。


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