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最低学力者たちは学校を征服するようです?  作者: 雪原灯
第1章 格上ランクは弱いです?
6/9

番外編□甘々砂糖と峯崎くん

番外編です。

本編でも使用する設定がありますので、ぜひご覧ください。

 ただでさえ、ボロい部屋は掃除嫌いな俺のせいで余計汚く見える。


 ベッドの横には積み上がった参考書とプリントの束。あと反省文も少々。


 まぁ、マトモな文章を書いたことなんて無いが。


 カーテンはあるが開けっ放し。あいにく冷暖房は付いていないので、うちわでどうにか涼しさを確保。


 コンセントも一応あるが、マジで危険。溜まったほこりがショートを引き起こして、1年の時火事になりかけた。


 さすがに見下されるランクCとは言えど、学校を壊されては困るという判断なのか、それ以降、消火設備が整えられるようになった。


 朝6時。いまはその消火設備の一つ、天井につけられた煙感知器を見ながらベッドに横たわっている。


 休日とは言っても、基本的に早めに起きる。


 □ □ □ □ □


 寮母もいないし、食堂もない。だから朝ごはんは自炊だ。


 たまにみんなで食材を持ち寄って、一斉に作ることもあるが、作戦中は忙しく、なかなかその時間も取れない。


「(終わったら、盛大にパーティーをしようか。)」


 付箋に「パーティー」とメモをして、小さい冷蔵庫に貼り付ける。


 ついでに冷蔵庫から、ヨーグルトとお茶を出し、キッチン…とは言ってもコンロしか置かれていない所だが、そこの上に放置された食パンを取る。


「普通だな。」


 いつも通りのご飯。ただ作戦の疲れからか、少し眠い。ウトウトしながら、食べ終わり、身支度を済ませる。


 □ □ □ □ □


 学生寮から出て、学校を抜け出し、海沿いを歩くこと10分。大きな街にたどり着く。


 まだお店の開店時間よりは早いが、競りを終えた市場は静まり、漁港には静かな波が打ち寄せている。


 そんな光景を横目にしながら、休日はいつも来る喫茶店へと向かう。


 マスター以外に誰もいない。


 店内には静かな空気が流れ、薄く心が安らぐ曲がかかっている。


「マスター、カフェオレ。砂糖はいつも通り。」


 カウンター席に腰掛け、注文をする。マスターはまるで準備をしていたかのように、サッとテーブルにカフェオレの入ったカップと砂糖10個ほどが盛られた皿を置く。


「いつも通りでございます。」


「ありがとう。」


 そう言いながら俺は、角砂糖を一つ一つ丁寧にカフェオレの中に入れていった。全部入れ終わり、一口。


 今日もいい甘さだ。


 □ □ □ □ □


 イヤホンから流れる音楽とともに、パソコンで仕事をこなす。


 ブログの記事を作成して、平日は1日1本、今日みたいな休日は3本以上投稿する。


 アルバイトが非常にめんどくさかった俺がいま現在唯一稼ぎの手段として利用しているので、休むわけにはいかない。


 今日読んでくれた人が明日読んでくれるとは限らない。PV数はやはり気になってしまう。そのためにも、休まず投稿をしている。


 ブログのテーマは「静動」。スポーツから、様々な社会の動き。一転して、静かな雰囲気の場所の紹介。そんな事を諸々集約して記事を作る。


「タイトル…どうすっかな…。」


 周りに聞こえない程度の声で自問を繰り返す。プスプス…と頭から煙の出る音がする。


「(気分転換するか…!)」


 パソコンを横にずらし、目の前にスペースを作る。イヤホンを片耳だけ外してマスターが近くに来るまで少し待つ。


「マスター、角砂糖追加で。」


 空けたスペースにサッと角砂糖の山が載せられた皿が置かれる。


 その山から一つずつ角砂糖を摘んでは、口の中で溶けていくのを感じる。


 角砂糖の甘さに浸っていると、カランカランと喫茶店のドアが開いた。ふとドアへと視線を向けると、そこにはワンピースに身を包んだ少女がいた。


「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ。」


 マスターがそう言うと、その少女は何も言わず、俺の真後ろにあるテーブル席へと腰をかけた。


「(見かけたことないな…。)」


 記憶を辿っても、休日にこの少女が来たことはない…はずだ。しかし、いまは関係ない。早くタイトルを決めて、ブログをアップしなければ…!


 数分、考えたのちタイトルを決定した。


 それはとある喫茶店で出される角砂糖に関する話題だ。


『甘々砂糖は三角砂糖〜毎日通う店シリーズ〜』


 午前10時ジャスト。


 投稿ボタンを押した。


 □ □ □ □ □


「あっ…!」


 スマホでネットサーフィン中、お気に入りのブログの更新通知がやって来た。それまでボォーッとしていた私を叩き起こすかのような衝撃に思わず声が出てしまう。


 幸い、いまこの喫茶店にいるのは私とマスターらしき人とイヤホンをしてパソコンに何かを打ち込む男だけだ。


「(ふふっ…投稿された!)」


 半年前から読み始めたブログの更新に期待を寄せつつ、通知から記事を開く。


「(毎日通う店シリーズだ!私もこれを見て、この店に来たのよね〜。)」


 最近人気が出始めた「Motioner」というブログは私を魅了させた。他の単調なブログとは違い、このブログはちゃんと動と静があって、波があるから、飽きさせない。


 そして、おそらく私の通う学校のある街にこのブロガーが住んでいるはずだ。そこに共通点を感じ、このブログを発見した時から愛読者として毎日更新を楽しみにしている。


 ちなみに特に好きなシリーズはさっき投稿された「毎日通う店シリーズ」だ。


 大抵、この街にあるお店だが、俗に言う箱入り娘だった私には未知の世界だった。ブログをキッカケに自ら外に出るようになり、お店を回るようになった。


 相変わらず、外で会話をするのは苦手だけどね。


 □ □ □ □ □


 追加した角砂糖を頬張りながら、俺は次の記事を書き始める。


「(次の記事は…政治関係にするか。)」


 つい先日、ニュースで報道された「防衛相の事実隠蔽事件」。ネット上では様々な憶測が飛び交っている。その中で自分の考えを投げかけて、ネット上の反響を得られれば、今後のPV数アップにも繋がる。


「えっと…防衛省は…、なぜ隠すのか…と。」


 独り言のように小さな声で呟きながら、記事を作っていく。


 こういう政治関係の記事を作るときは細かく注意をしていかなければならない。一方に肩入れするような記事では、反感を食らう。


 だから、自分の考えは述べた上で、双方の意見も織りまぜる。


 ちなみに俺の元ブロガー仲間は、片方に肩入れして、無事炎上。それに心が折れたのか、ブログは閉鎖され、そいつとも連絡が取れていない。


 あれ以来、俺は記事作成に一層注意を払うようになった。


「(…よしっ。後はタイトルか…。)」


 毎回、記事より多くの時間をかかるタイトル作成。


 案外、記事内容を面白くまとめるのは難しい。


「(防衛省は悪いのか…、いや違うな…。隠れる防衛省…。防衛省隠れんぼ…とか。案外良いかもしれない…。」


 記事のタイトルを打ち込み、予約投稿を入れる。


 午後1時に設定した投稿を確認し、今日最後の記事制作へと取り掛かる。


 □ □ □ □ □


 コーヒーを頼み、角砂糖を貰う。


 確かにココの角砂糖は四面体の形をしている。


 記事と照らし合わせながら、私はその角砂糖をコーヒーへと溶かし込んでいく。甘いものは嫌いではないが、控えるようにしている。


 そんな私だから気になった。目の前の男が、さっきから角砂糖を頬張り続けている姿に。


「(なに、あの人!?角砂糖だけって、頭が壊れてるんじゃ…!?)」


 それを見ている私も、砂糖は食べていなくても、口の中が甘くなっていくように感じる。


「(あれ、絶対感覚麻痺するわよね!?)」


 目の前の男の体を案じながら、ふとその男が打ち込んでいるパソコンの画面を見る。


 画面には小さいものの、「管理画面」という文字と、ブログのタイトルが書かれていた。


「…あれ、モー…ショナー?」


 私の見ているブログも「Motioner」。


 その画面に映る文字も「Motioner」。


「…もしかして、あの人が…。」


 自然と私は席を立っていた。


 そして、数歩先の彼に、苦手だったはずの会話を投げかけた。


「ねぇ、あなた。このブログを書いているのはあなたであってるかしら?」


 □ □ □ □ □


 記事作成中にグングン上がるPV数とともに、通知がたくさん飛んでくる。


 コメント欄は「面白いですね!行ってみたいですっ!」という興味の声や「そこの喫茶店行けば会えますか?」「何時にいますか?」「あなたと甘い恋をしたいです。」という出会い目的のコメント…。


 ちなみに出会い目的のコメントは9割が男だ。そりゃ、ブロガー名が「甘党岬」で、喫茶店とかスイーツの話題も載せてたら、女だと思うのは至極当然だ。


 補足するが、俺は男だ。ただの甘党男子なだけだ。どっかのルイとは違う。


 □ □ □ □ □


「…くしゅんっ…!」


「ルイー?風邪でも引いたの?モグモグ…。」


 相変わらずポテチを貪り食う未唯が話しかける。


「いや、なんか誰かが僕のことを噂してるような気がするんだ。」


「なにそれー?ルイって変わってるね〜、モグモグ…。」


「う、うーん…気のせいなのかな…?」


 未唯が笑いながら、本日3袋目のポテチを開けた。


 □ □ □ □ □


 コメント返しをしながら、3つ目の記事を考える。


 2皿目の角砂糖もそろそろ無くなりかけている。


 おかわりを貰おうとした時、いつかと同じように後ろから声をかけられた。目の前にスマホの画面を差し出されて。


「ねぇ、あなた。このブログを書いているのはあなたであってるかしら?」


 何を言っているんだろう、この子は。後ろを振り返っても、その子はスマホを突き付けている。


「な、なんとか言いなさいよっ!」


「い、いやー…。」


 そうは言われても困る。だって、見せられているのはスマホの画面なんだから。


 何も表示されていない、真っ黒の画面だから…。


「それ、電源付いてる?」


 強気な姿勢に少し引くが、そっと聞いてみる。


 一瞬、画面を確認したその子は顔を赤く染め、すぐに電源を入れ、また画面を突きつけてきた。


「(なんだ、ブログか。…って、これ俺のブログじゃねーか!)」


 赤さが引いていないその顔をチラチラと見ながら、恐る恐る返答する。


「た、確かにそのブログは、俺が書いてる…ぞ?」


 すると、その子は顔をパァーッと明るくさせ、さっきまで後ろの席で飲んでいたコーヒーを俺の隣に置き、その席に腰掛けた。


 □ □ □ □ □


「城戸崎 ユナと申しますの。Motionerは愛読書ですのよ?」


「も、モーショナー?あぁ、これね、勘違いされるんだけど、モーショナーじゃなくて、餅を練るって読むんだ。」


「そっ、それは…失礼しましたわ…!ところで、甘党岬様はいつもこちらに?」


 甘党岬って、いざブロガー名で言われると少し恥ずかしい。なんたって、女だと思われているアカウント名なのだから。


「休日とかは大抵、ココにいるな。記事作ったり、いろいろ考えたりするには持ってこいの場所だし…。あ、俺は峯崎。よろしく。」


 そう言って、俺は立ち上がり荷物をまとめ出口へも向かった。


 そういえば、言い忘れていた…。


「最後にだけど、君がもしあの学校の劣等組でないなら、俺に近寄るのはやめた方がいい。君の箔に傷が付くよ。」


 □ □ □ □ □


 その名前にはすぐピンとくるものがあった。当の彼は颯爽と帰ってしまったため、何も聞けなかったが。


 ランクCの劣等リーダーと呼ばれている人だ。私の学年、1年の間でもすでに有名になっている。


 確か、学校を征服しようとする征服委員会なるものを立ち上げて、日々活動をしていると聞いた。


 大好きなブログの作者が、悪名高い劣等リーダーだとはさすがに知らなかった。彼が言っていたように、容易に近づくと私が損をするというのは十分理解している。


 それでも、私は長い間溜め込んできた、そのブロガーへの想いをランクに関係なく伝えたいと、そういう本心が、自制心をドンドン蝕んでいく。


 私の中の葛藤は、今までに経験したことのないほど、熱い闘いになりそうだ。


「(…峯崎…さ…。)」

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