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最低学力者たちは学校を征服するようです?  作者: 雪原灯
第1章 格上ランクは弱いです?
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新入生歓迎作戦④

 いつもの場所…と言っても、ただの教室だが。


 床はギシギシ音を立て、教室の隅には蜘蛛の巣が張っている。おまけに冷暖房など付いている訳もなく、単純に言ってボロい。


 ランクCへの扱いはこんなものだ。至って普通。常識。当たり前。


 そんな生活も2年目を迎えた。


 今はこうして、ランクCの生徒からの厚い信頼を受け、学校に革命を起こすために活動をしている。


 我ながら思う。学校は最強の人材を最弱の敵と見なしてしまった、と。


 それが大きな誤算である、と。


 1年の時も散々な目を学校に味わいさせてきた。しかし、それはまだ序の口。


 今から始まるお祭りは、最高に最悪な最強による宴だ。


 祭囃子は、格上ランクの、叫び声。


 □ □ □ □ □


「さて、今日集まってもらったのは他でもない。先日から続く歓迎作戦の影響がそろそろ出始める頃だ。」


 さっきまで教室内で起こっていた喧嘩…いや、和と洋の戦争が嘘みたいだ。


 ゲンコツを食らわせた後の生徒のざわめきは、俺の開始の一言でサッと止み、刀を持ったアホと銃を持ったバカ以外は作戦の内容に耳を傾けている。


 ちなみにその2人だが、刀と銃を没収し、口をガムテープで塞いだ上、教室の隅に正座させている。


「作戦前の通達で流した通り、その画像の生徒を俺たちは取り入れなければならない。」


「でも、時間かかるよぉ?」


 口のガムテープを外し、寧々が横槍を入れてくる。


「いつ、喋って良いと言った?」


「うーん、幼馴染特権?」


「そんなもん、あるかっ!」


 寧々を相手にするのは疲れる。基本的にコイツには何を言っても無駄だ。


 特に今みたいな平常時のアホの子モードの時には。


「まぁ、アホは放っておいてだな。確かに時間はかかるし、そう簡単なもんじゃない。なんたって、相手の同意の元で参加してもらうのが征服委員会の鉄則だからな。」


 うんうん、とみんなが頷く。中には首を捻って、作戦を立てている者もいる。


「そうすると、一人一人攻略するのは面倒臭い。だから、今回の作戦は役割分担をせずに、征服委員会全体で情報共有をして、攻略をしようと思う。」


「それってつまり、どういうことすか?」


 いつも通りパソコンを弄りながら、久司が尋ねる。


「簡単に言うとだな…。自然体で接しにいく、って感じかな。つまり、新入生と普通に接して、友達感覚になった所で軽く誘いをかける、と。」


「なるほど。確かに、いきなり誘いをかけるのは驚かれるだろうな。」


 ガムテープを外した、今度はバカが横槍を入れてくる。


「さっきも言ったが、いつ喋って良いと言った?」


「いや、幼馴染特権というものが…。」


「お前は違うだろっ!」


「あー!!幼馴染は寧々だけだよぉ!」


「お前は峯崎に迷惑をかける、ダメ馴染みだろ。」


「幼馴染でもない軍オタには言われたくないね!」


「このヤロー!」


 また始まった。教室の隅であーだこーだと言い争いを始めた。


 真剣な作戦会議を邪魔され、俺はイライラしていた。そして、ついにそれは限界を迎える。


「……。」


「み、峯崎さん?」


 精一杯の笑顔で答える。


「ちょっと、片付けてくるから。少し待っててな。」


「ひっ…!」


 ゆっくりと歩みを進めながら、袖をまくる。そして、アホとバカの前で立ち止まる。


「ねぇ、君達。ちょっと邪魔だから、少しの間、いなくなってもらえるかな?」


「峯崎っ…ひっ…。」


「あゆく…ん…?」


 2人の襟を掴み、窓を開ける。


 ふぅ…とひと息つき、力をこめ、2人を順番に投げ飛ばす。


 学校の外まで飛ばされたのを確認して、即座に窓を閉めた。


「…さて、邪魔もいなくなった所で再開しようか。」


「(だから、峯崎さんやべぇっす…!)」


 また、心の声が一致した。


 □ □ □ □ □


 作戦の説明はあらかた終わった。


 要は「普通に接して、友達関係になったら、お誘いしよう!」ということだ。


「ってわけで、説明は以上だ。で、最後に紹介したい人がいるから待っててくれ。」


 ドアを開け、目の前に立っていたその少年を中に入れる。


 その容姿はやはり女の子に見えてしまうが、やめておこう。これ以上想像すると、また睨まれる。というか、もう既に睨まれている。


「えー…ゴホン。新入生の葵 ルイくんだ。今日の朝、入りたいと言ってくれた子だ。ちなみにあのリストに入ってる子でもあるな。」


「あ、葵 ルイです。征服委員会ってのを知って、入りたいと思いました。学校にギャフンと言わせたいので、よろしくお願いします。」


 一瞬の静寂の後、拍手が湧き上がる。歓迎の意思はみんな共通のようだ。


「(こういう所がいい所だよな。)」


そして、次々に質問を放っていく。


「女の子なの?」


「正真正銘の男ですっ!」


「冗談キツイなぁ、ははは。」


「本当ですから!!」


「またまた~、そのお話には乗らないよ~?」


 見てわかる通り、その質問の9割…いやほとんどが「男子か女子か」の質問だ。肝心の本人は、少し涙目になりながら必死に言い返している。


「…み、峯崎さん!!言ってやってください!」


 さすがに対処しきれなくなったのか、俺に助けを求めてきた。


「(仕方ないな…。)」


 遠目で見ていたが、ルイを囲む輪を突っ切って、真ん中に立ち、代弁する。


「おいおい、みんな質問しすぎだって。ルイは正真正銘の…、女だ。グホッ…。」


 ルイの拳が完全にみぞおちに入った。


「峯崎さん…?僕は男だと言いましたよね?」


「す、すまん…。見ての通り、ルイは男だ…グッ…。」


「峯崎ぃー!!」


 床に突っ伏しながら、遺言のように告げる。さっきまでルイを囲んでいた生徒たちが今度は倒れた俺を囲む。


「峯崎さんまで、悪ふざけをするんですから!もう、知りませんっ!」


 ふんっ、と顔を背けて、腕を組む。相当お怒りのようだ。確か、リストのプロフィールにはパフェが好きと書いてあった気がする。今度、それでも奢って機嫌を直してもらおう…。


「(でも、パフェって…。やっぱ女じゃね…。)」


「何か言いました?峯崎さん。」


「何も言っておりません、ルイ様。」


 ルイには振り回されそうだ…。

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