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最低学力者たちは学校を征服するようです?  作者: 雪原灯
第1章 格上ランクは弱いです?
2/9

新入生歓迎作戦①

 誰だって、クラス分けというのはドキドキするものだ。それはどんな学校でも、万国共通の感情だ。


 特に1ヶ月に1回クラス分けが発表されるクラス分けインフレが絶賛発生中のこの学校では、昇降口に貼り出された「通達ー今月のランク分けー」を不安そうな顔で覗き込むものが大半だ。


 その結果をみれば、外に漏れる表情は様々だ。項垂れるもの、歓喜のあまり飛び上がるもの。


 特に新入生でランクCと認定されたものは全員項垂れた。これからの自分たちの扱いに不安を覚えたからだろう。しかし、それは全くの嘘で、むしろ楽しいものになるとはこの時点では、ほとんどのものが知ることは出来なかった。


 □ □ □ □ □


 学校に入って1年。今年もまたランクCでスタートをきった。でも、もう慣れた。こうやって、廊下を歩くだけで他のランクの連中にヒソヒソと噂話をされることに。


 窓際で話していた女子たちは顔をひそめ、途端に声を小さくする。


「…峯崎、またCみたい。」


「例の劣等リーダーの?」


「そうそう。入学以来、テストを受けたことがないって話よ。」


「えぇ~…あり得ない!」


「シッ、声が大きい!聞こえたら何されるか分かんないよ!?」


 生まれつき耳は良いみたいで、小さい声もよく聞こえる。


 大したことはしていない。ただ少し学校に対抗して、ランクCを1年で纏め上げ、いろいろ仕掛けただけだ。


 おかげで、ランクCの上級生からも信頼されているし、通るたびに尾ひれのついた噂を耳にするようになった。テストを受けたことがないのは紛れも無い事実だが。


 基本的に仕掛ける時は同学年だけでなく、他の学年も巻き込んで行う。ランクCの凄さは俺たちだけの学年だけではないと証明するためだ。ただ、リーダーである俺の学年だけが注目されるようで思うようにいかない。


「噂されてんなぁ~。」


「寧々か、お前にしては早くないか?」


「えぇ~、いつもこの時間だよ?」


「ダウト。お前はいつも昼休み登校だろうが。」


「そんなことよりさぁ、新入生で使えそうな子をピックアップしといたよ。」


 そういって寧々は数枚の紙を渡した。紙には顔写真と名前、経歴や特殊技能などの情報が書かれている。


「サンキュー、今回もストーカーしたのか?」


「ストーカーとは聞こえが悪いなぁ。たまたま帰る方向が同じだけで、たまたまスマホを拾って、たまたまよく知ってるお友達がいただけだよ?」


 ペラペラ紙をめくりながら、生きてきて何度目かの同じ言い訳を聞き流す。玖有 寧々はランクCの探偵といったところだろうか。


 いろんな個人情報を掴み、証拠の裏付けまでしてしまう。ちなみに俺が部屋に隠している薄い冊子の場所まで熟知している。単純にいって、怖い。


 ミッションでは事前に情報収集してもらったり、確保した敵側の生徒や教師から情報を得るために取り調べ(物理)をしてもらっている。


 ピックアップされた新入生の情報に目を通し、スマホの中に入ってるアプリ「チャト」を開く。素早いフリックで今日のミッションを伝達する。


『通達

 今日は新入生歓迎ミッションを行う。

 添付した画像の該当生徒を取り込むことを目的とする。

 用事がないものは2学年の教室に集合。

 その後、作戦を開始する。』


 既読は一瞬で20を超えた。


「(どんだけ暇なんだよ…)」


 □ □ □ □ □


 アメリカから帰ってきて、帰国子女枠で入学した。僕のこの能力を評価してくれるはずだと思ったけど、実際は違った。


 入学前に受けた学力テストが全てだった。英語はほとんどトップの成績だったが、それ以外は無事死亡した。少しは能力を鑑みてくれると期待したが、全くの無駄だった。


 ランクCの欄に書かれた「葵 ルイ」という名前は紛れもなく僕の名前で、どこを探しても同姓同名の人なんていない。昇降口で靴を履き替えた辺りまであったワクワク感は全て失望感へと変わった。


 僕は学力至上主義のこの学校を辞めてやりたかった。


 その日のHRは何も頭に入ってこなかった。どうこの学校を辞めるかだけを考えていた。


 □ □ □ □ □


 HRが終わると、みんなのスマホが一斉に鳴り出した。どうやらメールのようだ。僕もポケットにしまっていたスマホを取り出し、確認する。


『通達

 2学年ランクC

 征服委員会リーダー峯崎


 この通達はランクCの生徒のみに送られている。


 さて、君たちはきっと落ちこぼれと認定され、さぞ落ち込んでいることだろう。

 確かにランクCは上位ランクから見下され、学校からまともな扱いを受けることはない。そこに不安を覚えるのも無理はない。


 しかし、我々、征服委員会は地位向上と能力認可を目的に学力至上主義のこの学校と日々闘っている。闘うといっても、小さなミッションを少しずつクリアしていくだけだ。一種のゲームだと思ってもらって構わない。


 君たちがこの先を楽しく過ごしたい、学校に自分を認めさせたいなら、積極的に活動に参加してほしい。我々は君たちの勇気ある行動を応援している。


 P.S.

 今日はとあるミッションが行われている。君たちは夜8時にグラウンド側の空を見て欲しい。』


「通達…?征服委員会?」


 教室内はざわつき始めた。言っていることがよく分からない。反学校の過激派組織ということだろうか?少し興味が出てきた。


 辞めるなら、楽しんでから辞めたい。それを実現してくれるのなら、入ってもいいかもしれない。


 とりあえず、メールに書いてあった「夜8時にグラウンド側の空を見る」ことを頭の片隅に入れておいた。


 □ □ □ □ □


 寮に戻ると、僕とは正反対のランクSと認められた野中 未唯がいた。


 未唯は本当はランクSの寮に入る予定だった。しかし、学校の手違いで僕と同じ部屋になってしまった。


 最初は「気まずくなりそうだな…」と感じていたが、実際はそうではなく出会った時から何かと気があっている。


「ただいま。」


「おー、お帰りー!モグモグ…。」


 ポテチを頬張りながら出迎えてくれる。未唯と真向かいの位置に腰を下ろし、お互いに今日あったことを話し始めた。


「HR終わったぐらいになんかメールが来たんだよ。」


 そう言って僕は未唯に例のメールを見せる。


「へぇ…征服委員会かぁ…。」


「なんか知らない?あ、あとこれ新作のポテチ。」


 バッグから「梅味噌味」の新作ポテチを引っ張り出し、机に置いた。それを見た未唯は目を輝かせた。


「おぉー、これが例の新作ポテチ!!いっただきまーす!…フムフム、なかなか…。」


「でさ、征服委員会とかについて何か聞いたことない?」


「うーん…あ、でも2学年の先輩がランクCは峯崎が纏め上げている、とか何とか言ってたよ。」


「このメールの送り主か…。なんか今日の夜8時にグラウンド側の空を見て欲しい、ってさ。なんかやるのかなぁ?」


「百聞は一見にしかず。見るっきゃない!ふぅ、ポテチ美味しかったぁ~!!」


 いつの間にか空になったポテチの袋をゴミ箱に捨てにいった未唯は、盛大に窓を開けた。


 まだ時間は早い。しかし、仕事で感じたようなワクワク感がどこからか湧き出ている気がした。


 □ □ □ □ □


「今日のミッションは通達した通り、新入生歓迎ミッションだ。ランクCになって落ち込んでいる新入生に楽しさを教え込むんだ!」


「承知した。では、私はリアルサバゲーを広めることにしよう。」


 そういって山上 ゆかりは腰につけたガンベルトから銃を取り出した。エアガンではない。本物の銃だ。あの、引き金を引くと金属の塊が発射される代物だ。


「それ死人が出るからやめてくれ…。普通のサバゲーでいいから!」


「峯崎が言うのならば仕方ない。」


 構えの姿勢をくずし、また銃を腰のガンベルトへとしまい込む。というか、どうやって手に入れたんだ…?


「いいか、お前ら。この2学年では俺らの地位は向上しつつある。しかし、より大規模なミッションが今後必要不可欠だ。その為にも、今日のこのミッションは俺らの1年を左右するものになる。慎重に迅速に、これを心がけて取り組むんだ!」


 みんなの顔を見回して頷くのを確認する。その顔は全てやる気に満ち溢れている。


「よしっ、それじゃあ作戦を話していく。まず、久司!お前はランクCの生徒に一斉通達を送れ。内容は…これだ!」


 机の上に置かれていた紙の束から一枚抜き取る。


『通達

 2学年ランクC

 征服委員会リーダー峯崎


 この通達はランクCの生徒のみに送られている。


 さて、君たちはきっと落ちこぼれと認定され、さぞ落ち込んでいることだろう。

 確かにランクCは上位ランクから見下され、学校からまともな扱いを受けることはない。そこに不安を覚えるのも無理はない。


 しかし、我々、征服委員会は地位向上と能力認可を目的に学力至上主義のこの学校と日々闘っている。闘うといっても、小さなミッションを少しずつクリアしていくだけだ。一種のゲームだと思ってもらって構わない。


 君たちがこの先を楽しく過ごしたい、学校に自分を認めさせたいなら、積極的に活動に参加してほしい。我々は君たちの勇気ある行動を応援している。


 P.S.

 今日はとあるミッションが行われている。君たちは夜8時にグラウンド側の空を見て欲しい。』


 野々宮 久司はその文を素早いタイピングで打ち込んでいく。そして、エンターキーを勢いよく押した。


「送信しました!」


「久司は掲示板と監視カメラの確認を続けてくれ。あぁ、そこのお前らも手伝ってやってくれ。」


 峯崎を囲む主要メンバーの周りに控えていた男子生徒たちに声をかける。彼らは基本的に主要メンバーの下でサポートをしている。また、時には武装して殴り込みにいくこともある。


 教室の隅にディスプレイを並べ、早速映し出していく。


「次に羽瀬!歓迎用のアレを8時までにセットしておいてくれ。セット場所は…えっと、この紙に書いてある。」


 学校周辺マップに赤丸の付けられた紙を羽瀬 凌に手渡す。赤丸は10箇所ほど付けられている。


「分かったよ!じゃあ火薬班集合!」


「山上と湊は8時から会場に誰も立ち入らないように警戒を。山上は遠くから監視して、変化があれば随時湊へ。湊は暇な人を連れて規制線を張ってくれ。」


「承知した。」


「あいよっ!」


「他は待機。とにかく何かあったらすぐ無線を入れてくれ。解散!」


 その声と同時に峯崎の周りで指示を聞いていた生徒達は一斉に動き始めた。主要メンバーについていったり、他の班と連携を取れるように無線のチャンネル合わせをしたり…。


 各々が楽しむために最善の手を尽くしている。普段味わえない非日常的な楽しさのために。


  伸ばしていた背筋を一気に緩め、背もたれに体重をかける。天井に顔を向け、失敗した時の別作戦を考える。そんなふうに集中をしていることもお構いなしに玖有 寧々は俺の顔を覗き込んでくる。


「お疲れのようだねぇ。私は何をすればいいのかなぁ?」


「まぁ他のランクが邪魔してきたら威圧するくらいか。」


「なるほどぉ、つまり私はあゆ君のトークパートナーというわけやね!」


「いや、その役はいらん。」


「ガァァァン!!ひどいっ、見捨てるんやね!!」


「めんどくせぇ…。」


 ザザッ…ピッ。


「羽瀬です。倉庫裏なんですが、部活動によって9時までに設置出来ません。代替候補を用意してもらえませんか?」


「峯崎だ。了解した。代替候補地は決まりしだいスマホに送る。羽瀬はそのまま他を設置してくれ。」


 無線連絡が終了するころには机に周辺マップが広げられていた。そして、設置予定の場所に赤丸を付けていく。


「いま連絡を受けたのは…えっと、ココの部活動器具庫だ。今日は部活が無いもんだと思ってたが、予想が外れた。」


「置く場所の注意点は?」


 寧々が尋ねる。確かに一見、無作為に選ばれた場所に置かれているようだが、これにはあるルールの下で選ばれている。


「まずはランクC学生寮がグラウンド側にのみ窓がある。だから、設置場所は全てグラウンド側になってる。ちなみに他のランクはオーシャンビューってわけで、グラウンド側には窓がないんだ。」


「へぇ…よく調べたねぇ。」


 感心した様子で寧々は頷く。感心するも何も、これに気づいたのは紛れもなく寧々本人なのだが、覚えてないのだろうか?


「次に人が来なさそうなところ。今回は昼飯をぼっちで食べている生徒に聞いた『学校の影になるところベスト15』から選んだ。」


「でもぉ、これを見る限り、後もう全部海側やね。どうするのぉ?」


「やるなら派手にやるのが征服委員会だからな…、中途半端な場所から打ち上げたくはないな…。」


 周辺マップを見ながら、代替候補を探す。しかし、そう良いところは見つからない。その時、8時まで待機予定の湊が呟いた。


「…もうグラウンドに設置すればいいじゃん。」


「採用!!設置は規制線張ったあとだな。その代わり、警備はもう少し固めよう。」


 スマホを操作し、羽瀬に新たに赤丸を付けたマップを写真で撮り、送る。


 ピッ。


「峯崎だ。羽瀬に連絡する。スマホに代替候補を送っておいた。規制線張ったあとにグラウンドに設置するから、手前まで準備をしていて欲しい。」


「確認しました。分かりました!」


「湊は警備要員を増員してくれ。あと8時から規制線張るんじゃなくて、7時半からに変更する。山上は8時からで変更はなし!」


「あいよー!」


 □ □ □ □ □


 時計は着々と通達した時刻に近づいてきている。羽瀬たちの火薬班は設置が終了し、湊は規制線を貼り終えて山上と警備にあたっている。


 着火時刻まであと数分だ。


「そういえば羽瀬、今回のアレは自作なのか?」


「文字のやつと火薬はさすがに中古で買いましたが、それ以外は自作ですよ。」


 相変わらず凄いやつだ。爆弾と同じようなものを手でヒョイッと作り上げてしまう。


「久司、通達を出すぞ。通達時刻は着火10秒前。あと1分だから、この紙に書いてある文章をそのまま書き込んでくれ。」


『通達

 2学年ランクC

 征服委員会リーダー峯崎


 そろそろ予定の時刻だ。新入生は窓を開けて、空を見ておいて欲しい。


 遅くなったが…新入生の諸君、入学』


「打ち込み完了です!」


「よし、タイミングを合わせるぞ。他のものはグラウンド側の窓を開けて鑑賞してもいいぞ。」


 ついにこの時がきた。今年最初のミッションの大トリだ。


「30秒前…。」


 窓の外を見ると新入生が窓を開けて空を見上げている様子が伺える。


「久司!送信だ。」


「…送信完了!」


 新入生たちはスマホを一斉に開いた。そして、それを見たあと、また空へと目を戻す。


「3…2…1…。」


 固唾を飲んで見守る。


「着火!」


 合図と同時に羽瀬はボタンを押した。すると、外からヒュ~という音が聞こえ、その数秒後にドォ~ン!!という大きな音が鳴り響いた。


 浮かび上がったのは「オメデトウ」の5文字。通達の最後と繋げると「入学オメデトウ」となる。これが俺らからの最初のプレゼントだ。


 窓から拍手と歓声を送っているメンバーをみながら、羽瀬は次々と着火していく。


 満天の夜空には、色鮮やかで大きな花火が次々と打ち上がっていった。


 □ □ □ □ □


 さっきまでの大きな音はいつも通りの静けさへと戻り、時刻は10時をまわっていた。


 片付けも無事に終わり、今日のこのミッションに携わったメンバーが教室に集結する。


「まずはお疲れ様。大トリの花火もちゃんと打ち上がったし、規制線内には誰も入っていなかった。ただ、これは印象操作のようなものだ。本当のミッションは明日から始まる。各自、十分に休憩を取って、明日からドンドン引き込んでいくぞ!!」


 ウォォォォ!!という大きな声があがる。新年一発目のミッションの大トリは大成功に終わった。


「うぅ…結局、私の出番なかった…。」


 ただ1人、寧々だけは落ち込んでいた。

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