1ー3 どうやら俺には戦士の才能があるらしい
どうもシア・ヨネクです
前回の1ー2において『どこぞのアクション漫画の主人公のように独特のセンスを持つポーズをしながら』と書きましたが一体何のポーズだったのか分かりましたか?
分からなかった人にはヒントを与えます。
ヒント:吸血鬼
では、本編に入りたいと思います
気のせいだろうか?
元々閻魔大王というのは顎髭がもじゃもじゃしてていかつい顔をした大男のイメージを持つ。
でも、俺の目の前にいる閻魔大王、もとい閻魔王は黒い長髪の女性だった。
「おい、これどういうことなんだ」
ある意味困惑しながら、二人の鬼に問いかける。
「あー…なんていうかその…閻魔王って言うだけじゃまずかったわね」
「安心して下さい。ああ見えて正真正銘の閻魔王ですから」
「あの子が!?あの子が閻魔王なの!?女なんだけど!?」
あの女性が閻魔王なんて信じられなかった。だが二人は揃って首を縦に振る。そう答えるならやはりこの女性は本当に閻魔王なのか?
「失礼ね、閻魔王の継承者に性別は問わないわ。継承者にふさわしい人間こそが閻魔王になれるのだから」
「つまり頭さえ良けりゃ誰でも良いってわけか」
「ざっくり言っちゃえばそうなるね。でも基本的に継承者になれるのは閻魔一族の人間だから。そして私はその一族の1人にして閻魔王21代目当主 閻魔 成子。ちなみに私、君より上の立場の人間だけどタメ口で良いから」
「…真無…現だ。真無と呼んでくれ」
「じゃあよろしくねっ☆真無君」
閻魔 成子と名乗る女性から握手を求められ、お互いに交わした。
自分が閻魔王であることを認めた成子の目に偽りは無い、そう思い俺はこの人が正真正銘の閻魔王であることを確信した。
「さて、君はいろいろと知りたがっているけど重要な事を話す前にまずはこの世界の事を教えなくてはならないわね真無君」
「第二世界の事か?」
「そう」
本当は何も無い、無と同化しているようなこの俺にどうして戦士として選ばれたのか。そもそも『選ばれし者』とは何なのか聞きたい、だが俺はまだこの世界の事を知らない、まずはこの世界を知ってから核心を聞いた方が良さそうだな
「わかった、じゃあ教えてくれ、この世界は一体何なのかを」
「そうね…実は言うとねこの第二世界と第一世界は元々1つの世界だったの」
「…え?『元々1つだった』?」
その時途中で藜がこの話に割り込んだ。
「およそ5億4200年前、カンブリア爆発が起きたと同時に人類は誕生していた。その人類には超能力を持っていて様々な文明を創り出した。その人類こそあらゆる神話の神々の祖先なのよ」
「いやちょっと待て、一体どういう事なんだ?それじゃ恐竜が誕生する以前に人類はいたって事になる。そもそもその人類が神々の祖先というのは」
壮大過ぎて頭がおかしくなりそうな時に今度は紺が割り込む
「実は真無君の世界の神話や伝説は空想ではないんです、なぜならギリシャ神話の英雄ヘラクレスやエジプト神話の太陽神ラー等の神々は実在したのですから」
「神様って本当にいたのか!?」
「はい、その証拠として第二世界の人々はその神々の末裔である事は確実なのですから」
もうわけがわからない、神が本当に存在したとか生物が初めて陸に上がった頃に人類が生まれたとか、いろいろありすぎて頭がおかしくなりそうだ。
「で、話を戻すけど恐竜があらゆる生物の食物連鎖の頂点になった時に人類は国を創立出来るレベルまでに進化していった。この時1つだったこの世界は神々が治める世界『天層』と恐竜が支配する世界『地層』の2つで構成していた。しかしこの世界でとんでもない事が起きた」
「とんでもない事?」
「天層のとある種族が神々に反旗を翻したの。人類、鬼に続いて共存共栄をしてきた種族『魔族』にね」
「魔族?」
「真無君の世界で言うところの悪魔です。ルシファーとかサタンとかの悪魔。その魔族と神々の戦争が勃発して天層と地層の両方に甚大な被害が及んだのです。
あれで恐竜が絶滅したのも事実ですから」
「そうそう、戦争当時の魔族のトップが神々の陣営を壊滅しようとして月と同じ大きさを持つ火球を飛ばしたのね、それを神々の陣営は総力で弾き飛ばしたんだけどその火球が地層そのものに激突しちゃって、結果として地震起きたり火山噴火したりで恐竜があっという間に滅んじゃったのね~」
「恐竜絶滅の原因ってその戦争によるものだったのか!?」
なんという事実だ。まさしくそれは、汗水垂らして考察し、いろんな解明を導き出した科学者達の努力を一蹴でパアにしてしまう程。
「その後、神々の陣営がこの戦争に勝利したのだけど、その影響で天層は第二世界に、地層は第一世界となってこの2つの世界に分離した。その時第一世界には生命体が存在しなくなっちゃったので神々は新たに生物を生み出してその世界に解き放った」
「その生物が俺の世界の動物達、いや、第一世界の全ての生命体なんだな」
この問に藜が答える
「そう、第一世界に再び生命が現れてから第二世界の神々、及びその子孫である我々が貴方の世界を見守り続けた。人々が文明を構築したり、戦争を起こしたりと時代を歩み続けるこの世界を」
俺の世界にそんな真実があったとは。
信じがたいこの事実に俺は目から鱗が落ちていた。
「そんな世界で今重大な出来事が起きているの。選ばれし戦士が必要な重大事項を」
「!その話を待っていた、早く俺に教えてくれ」
「まあまあ教えるからそんな焦らないで、紺、アレを」
成子の言うとおり俺は少々急ぎすぎている、でもしかたがないのだ、こんな俺に戦士として選ばれるその理由を俺は知りたがっていた。
そんな中、紺が手のひらより大きいタブレットを持ち出しそれを操作した上で俺に見せる。
「…これは…!?」
そのタブレットにはある動画が映し出されていた。ヨーロッパ諸国と思わしき美しい街並みで人々が何かから逃げようとしていた。
『きゃあああああああああ!!』
『く、来るなああああああ!!』
『助けてくれええええええ!!』
恐怖により混乱しながら群れをなして逃げ惑う人々、その後ろに狼の姿をした化け物が映っていた。2本足でよりリアルでおぞましいプレッシャーを放つ狼の怪物が人々を襲っていた。
『嫌だ!死にたくない!!』
金髪のイケメン顔の青年がその怪物に運悪く捕まってしまう。青年は必死に助けを求めるが、怪物は容赦なく巨大な鉤爪と化したその手を振り落とし青年の首を撥ね飛ばす。
「何なんだこれは…!?」
「業魔よ。フリー・ジャスティスから変身能力を与えられた人間が業魔に変身して人々を襲っているの」
「フリー…ジャスティス?」
「第一世界に暗躍する組織です。あらゆる人間に変身能力を与え、好き勝手に暴走させています。ただ『変身能力を得る代わりに政治家を殺害する』という依頼を受け、それを成功させた者しか与えませんが」
「その組織がこんなことを…ちょっと待て変身能力を手に入れるのになんでわざわざ政治家を殺さなくちゃならないんだ?」
「私達にもその根拠はわからないけどフリー・ジャスティスは政治家の暗殺を第一目標としている、紺の見せた映像は1ヶ月前にイタリアで起きた業魔による事件で青年1人が犠牲になった。容疑者は事件を起こす前に業魔の能力を手にいれたいがためにフリー・ジャスティスから依頼を受けて政治家を暗殺していた」
「でもこの事件が起きているなら『怪物が人を襲った事件』として長く記事に取り上げられるんじゃ」
「それなら大丈夫。第一世界に第二世界と関わりにある団体が被害者全員に業魔と関係する記憶を消去してあるし、ただの『無差別殺人事件』として表向きに地元のテレビやネットニュースに流してあるから」
「それはそれで物騒だな、ていうか団体というのは?」
「はい、対業魔特殊機関『ECLESIA』という組織があります。第一世界に突如現れた業魔の破壊行為の阻止、及び変身者の逮捕等業魔から人々を守る第一世界公認の組織です」
「へぇ~…え?第一世界公認?」
「実はねこの第二世界にも国際連合というのがが存在していて第一世界の国際連合とは互いに連絡を取り合ったり、情報を共有したりして100年近く前から交友関係を結んでいるの。ちなみに私は第二世界の国連の主要幹部の1人にしてこの国『黄泉』の代表。いわゆる総理大臣」
「総理大臣!?成子さんってそんなにお偉いさんだったの!?」
「そうだよ~えへへ」
お偉いさんと言われたせいか少し嬉しがる成子。
大体成子がものすごいお偉いさんだったという事実より俺は業魔という化け物が人々を襲っているという事実に驚愕した
まさか俺の世界にあんな事が起きていたとは…
「そして真無君、あなたには業魔を打ち倒せる力がある業魔と同じ力『大いなる闇』を」
「『大いなる闇』?それが俺を戦士に選らんだ理由?」
「ええ、第一世界の人類、その中で1億人に1人持つとされる不思議な力、誰よりも強大な闇を心に抱くか度重なる果てのない絶望を身をもって受け続けることで覚醒する深淵の闇にして強大な力、それを貴方と業魔に変身する人間が持ち合わせている」
「俺と業魔に変身する人間だけが持つ能力…逆にその能力を持ってない奴は業魔になれないってことか」
「具体的にそうね、実際業魔になれる人間はその力を持つ者しかなれない、『大いなる闇』は業魔の原動力になるからね。だからフリー・ジャスティスの幹部達はそれを知ってる上でその適性の人間にしか業魔にさせないから」
大いなる闇
絶望により得る強大な力
人間に害を与え続ける業魔はそれを身に宿している
同時に俺もその力を無意識に既にこの身に宿していた
だとすれば俺は
「つまり俺は戦士としてあの化け物に戦えるだけの力がある。そういうことなんだな?」
「そう、大いなる闇を持つ業魔に対抗できるのは同じ力を持つ戦士だけ、それに貴方は選ばれた。真無君、貴方には普通の人間にはない力を持っている、弱き者を救う特別な力を貴方は持っているの」
そう言うと成子はそっと目を閉じる。
「だから単刀直入に言う」
その瞬間、成子の目がパッと開く
「あなたは地獄の戦士として正義の闇と戦うを事を誓いますか?」
俺は問われる
戦士になるかならないか
だがもう答えは決めている
迷いもなく成子にすぐに返答する
「誓う、誓うよ神に誓って。俺はお前らの望む戦士になってあの化け物と戦う」
迷いもなくきっぱりと俺は決意をした。
予想外だったのか俺の決意に紺、藜、成子の3人は困惑していた。
「えっ」
「『えっ』って言われても俺はガチ言ったよ」
「そ、それならそれで良いんだけどまさかあっさりOKを出すとは思ってなかったから」
本当に予想外な返答をされたがために成子は少々焦っている。
その隣に藜は少し心配をしていた。
「真無君、それで良いの?一度戦士になってしまえばその使命を果たすまで元の世界には戻れないのよ?」
「そうなのか?まあ今の俺ならどうってことないや」
「どういう事です?」
「…俺は今記憶を失っている」
俺の抱える事実、その一片を口にした時、俺を除く3人は少し驚愕した。
せっかくだからその3人の前に事実をありのままに話すとしよう。
「紺が俺の目の前に現れる前、俺は自殺をしたくてしょうがなかった。飛び降り自殺をしたくてボロい廃墟にやって来てさ。けど気がついたら俺の持てる記憶全てが無くなった、残っていたのは『真無 現』という俺の名と死にたいと思い続けながら道を歩いた記憶だけ」
「僕が真無君に合う前にそんな事が…」
「ああ、正直俺もびっくりしている、なんせ死にたいと思い続けて死に場所を決めてそっから死のうとしてたのに急にそれどころじゃなくなったからな。自殺の動機どころかそれ以前に家族とか夢とか無くしてはいけない物を急に無くしてしまった。でもそんな時に紺に会えて良かったかもしれない」
「僕?」
「そうお前だ、お前が目の前に現れてなけりゃ俺は路頭に迷い続けていたかもしれない、もしかしたら途中でくたばっていたかもな。でもお前に会えたおかげで新たな道を歩める事が出来る」
「新たな道を歩むって…真無君は記憶を取り戻したいんじゃないの?」
「取り戻したいっちゃあ取り戻したいがどうやって記憶を取り戻すかは分からねぇ。だから戦士になって業魔を倒してながら時間かけて記憶を戻したい。」
それに、あんな映像を見せられたら無視するわけにも行かない。
俺好き勝手に暴れる業魔を許せないと思ったのだから。
もし俺が戦士になることで人々を救えるのであれば…
「だから俺は戦士とやらになりたい、それで人を救えるのならたとえ記憶を全て取り戻しても戦士として戦い続ける」
心の底から俺は言う
「戦う覚悟はもう出来ている」
「…分かった、真無 現君、君を戦士に任命します」
「良いのですか!?閻魔様!?」
「良いも何も覚悟を決めている人間に文句は無い、とりあえず戦士の就任祝いをあげなくちゃね」
成子が右腕を俺に向け握りしめていた拳をパッと解く。
その瞬間俺の体の肉が変化し始めた。
「体が…痩せていく?」
自分の体にまとわりついてた贅肉が固くなりしぼんていく。
顔だけじゃなく腕、腰、腹、それに足の肉が筋肉と化した。
そして気がつけば俺はデブから小柄の少年に変わっていた。
「メタボのまんまじゃ戦いずらいから戦いやすい体にしといたよ」
「悪いな、望んで無いのに太っちょの望む体型にしてくれて」
そもそも怪人相手に体型が太ったまま戦うのはあまりにも無謀、スタイリッシュな体型で戦うほうがマシか。
そう納得した時突然アラームが鳴り響く。
この部屋全体、いや閻魔堂全体が人々を不安にさせる鋭い警告音で満たされていた。
『東京都品川区にて業魔が出現しました。繰り返します、東京都品川区にて業魔が出現しました』
「また現れたのね」
このアラームに俺は少し戸惑う中、藜と紺、そして成子は慌てることなく冷静さを保っていた。
「また?業魔って何度も出現することがあるのか?」
「日常茶飯事的に出現するのよ。週に3回のペースで。3日前に一個体倒したばかりなのに」
「紺!ECLESIAから連絡は!?」
「もう受信しています!」
紺は既にタブレットで何かしら操作を行っていた。
どうやらECLESIAという協力先の組織からのメールを受信したようだ
「出現場所は品川区にある三橋銀行の店内、個体数は1体のみ。」
あんなに面倒くさがり屋だった紺は見違える程に状況を説明していた。
初めて会った時とは大違いだ。
「被害状況は?」
「今のところは無しです」
「店内で変身した割には暴れていない…強盗だけを目的にしているのか?……紺、行くわよ!私達で業魔を」
「必要ないわ、せっかく良い機会だしここは初戦として真無君に戦わせましょう」
大変な状況の最中今もなお落ち着いていた成子はとんでもないことを言い出す。
「何を言っているんですか!?彼はまだ戦士になったばかりですよ!?」
「だからこそよ。シュミレーションで演習するよりも本物と戦ったほうがより経験を積める。藜は万が一に備えて真無君に付き添って現場に出撃して」
「ですが_」
それでも藜は反論をし続ける。
無理もない、戦士の初心者にすぐに初陣しろだなんて言ってるようなものだ
だが
「俺は成子の考えに同感だ」
「真無君!?あなたまで何を言っているの!?業魔との戦闘に危険は付き物、ヘタをすれば死ぬかもしれないのよ!?
「それは分かっているしその上で覚悟はとっくに決めている。それに成子言うとおりちゃんとした実戦じゃなきゃこの先強くはなれない、だから成子に同意する」
「…君はどうしてそう言える?わざわざ危険を犯す行為だとしてもそれをなぜ受け入れる?」
「_成子の判断に徳と見なしたから、それが最善の策ならたとえどんな内容だろうと従うまでだ」
成子は本気で最善の策を講じていた。それを俺は見抜いていたから同意出来た。
とはいえ、どうやら俺には人の感情を通常人以上に読み取れる事が出来るようだ。
そして藜は顔をしかめながらこれ以上反論する事を諦めた。
「…分かりました、その代わり不味い状況に陥った場合には強制的に戦闘を中断させます。良いですね」
「ええ、ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」
「付き合うだなんて…そう言えば忘れてましたね、あなたはそういう性格の持ち主であることを」
「まあね、さて、紺、転送の準備を」
「もう既に出来ています」
藜からは「やれば出来る奴」と言われていたが本当に、というか思った以上に紺は仕事出来る鬼なんだなと感心した。
今までの面倒くさがり屋な性格が嘘のように。
「真無君、初戦とはいえ気をつけて下さい、相手は一体どんな能力を持っているか分かりませんから」
「ああ、じゃ行ってくる」
「お気を付けて、ご武運を」
紺が片手に持つタブレットに人差し指でタップした時、突如俺の周りに光が円を描き俺を包み込む。
第二世界に飛ばされた時と同じだったがあの時とは違い目に優しい輝きを放っていた。