1―1 急に記憶が消えた
「ここは…どこだ?」
今にも雨が降りだしそうな薄くも重く感じさせる灰色の雲空の下、気が付けば俺は見知らぬ町の見知らぬ廃墟の屋上にいた。
その廃墟はコンクリートで出来たビルそのものであり、高さ的には高層ビル程ではないが階数で言えば5階分の高さを持っていた。そんな廃墟の真上で俺はそこから広がる景色を見ながら何かを思い出そうとしていた。
「何しに…ここに来たんだっけ」
ここに来た理由を思い出すべく両目を瞬きせず頭の中の奥底から『今、自分のやるべきこと』を掘り起こそうとした、そして…
「そうだ…死ぬためにここに来たんだ…ここから飛び降りて…あれ?」
やっと自分のやるべきことを思い出した…がその瞬間に突如あることに気付く。「なぜなんだ」「どうしてなんだ」と呟きながら自分自身に問い続け、左腕だけで頭を抱え上半身を少し斜め傾けた。
俺は今重大なことに気付いた。誰しもこの先体験するかもしれないであろう状況に俺は陥っていた。今の俺には自分の名前しか思い出せない。
そう俺は、
自分の名前を除く全ての記憶を失っていた。
「こんにちは」
急に真後ろから人の声がした。それに驚いてすぐに後ろを振り向いた。そこには黒いスーツを着た紺色の髪の青年がいた。その青年は頭に2本角を持ち、その素顔は誠実さに満ちていた。
「自己紹介するのめんどくさいのでとりあえずあなたを第二世界に飛ばします」
「なんでや」
前言撤回。その青年は頭に2本角を持ち、誠実な人間の皮を被っためんどくさがりやだった。
青年の思わぬ発言に俺はお笑い芸人のツッコミ担当のようにすぐに突っ込んでしまった。というよりそもそも俺はあの青年に違和感を感じていた。『あの頭の角はアクセサリーなのか』ということよりも俺からしてあの青年に『存在自体が人間じゃない』とそう感じていたからだ。
「お前人間じゃないだろ」
恐る恐る青年に問い出す。すると青年は少し驚きを見せた。
「凄いですね。どうして分かったんですか?」
どうしてなのか、それは……
「あんまり人間には見えなかったなのかな?
俺にも分からないが、人間じゃない、気がした」
途切れ途切れでそう言い切った。少し驚愕した青年の素顔が誠実さの顔に戻った瞬間俺は次の質問を出した。
「…どうして俺を第二世界に飛ばす?そもそも『第二世界』とはなんだ?お前はいったい何なんだ?」
この問いを聞いた青年は何も言わず黒いズボンの右ポケットからトランシーバーのような物を取り出した。それを右手に持ち、閉じていた口が開く。
「あなたが“選ばれし者”だから」
そう言ってトランシーバーのような物に付いていたスイッチを左手の人差し指で押した瞬間、急に凄まじい光が俺の視界を包み込む。
「!?」
あまりにも強烈な光にすぐに両目を閉じ、無意識に体を両腕で守ろうとした。その閃光はまぶたを閉じても強く感じる程凄まじかった。
しかしその強烈な閃光は徐々に弱まっていくのを感じやがてまぶたを閉じてもはっきり分かっていたあの光はあっという間に無くなった。
そう感じた俺は恐る恐るゆっくりと両目を開ける。目を開いたその先にはたくさんの人や車が行き来する渋谷らしき都会の街並みが広がっていた。
「ここは…渋谷!?さっきまであの廃墟にいたはずなのに」
突然の出来事に対応出来ずあちらこちらを見渡す。その時、俺は気付いた。
この街、いやこの世界が現実世界とは違う事を。なぜなら見渡しをしている時今すれ違っている人々の中に頭上に天使の光輪がある人間を見たから。これは飾りかと思い間近で歩いていた別の天使の光輪を持つ人間をすぐに見たが頭と輪をつなぐであろう物は一切無かった。
「マジか………んあ!?空が!?」
更にそれだけじゃない。上に違和感を感じ見上げたら、空の色が青ではなく黄色でだった。
そんな摩訶不思議な世界を夢かと思いつつ、左腕をつねるものの痛覚を感じる。
これでようやく分かった。
今俺が立っているこの世界は現実世界じゃない、アニメや漫画でよくある異世界やパラレルワールド、その世界に俺は飛ばされ、ここにいるんだと。
そして青年の言う『第二世界』はこの世界なんだと理解したのだ。
初めまして、シア・ヨネクです
初心者なので誤字脱字があるかもしれませんが、それでもこの小説を読んでくれたら僕は嬉しいです。
尚、この小説は不定期で更新して行こうと思います。
どうぞよろしくお願いします。