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地獄戦隊ヘルファイブ  作者: シア・ヨネク
11/12

2ー5 人は闇に溺れる

曇っているはずなのに空を隠す雲が薄いせいか太陽の光に当てられた雲が明るく見える曇天の下で小鳥達は群れを成して飛び回る。

その鳥の群れを見上げてまで見ていた俺は校門へと足を運んでいた。


「綺麗ね、この学校」


校門から見える校舎を藜は褒める。


というのも、ある理由により今日、彼女は俺と同行する形でこの学校に訪れる事になった。


雅斗に真実を伝える為に。


が、その前に俺は藜に違和感を感じる。


訪問者として訪れた藜は凛々しい姿勢を整えている上、清らかなオーラを出しながら、清楚なスーツを着るスタイル抜群な藜から今日に限っていつもとは違う雰囲気を感じる。

何だろう?どう見たっていつもの藜に見えるのに前より明るくなったような………


「あ、これか」


俺は咄嗟に指で藜の前髪を指した。


「どうしたの?」


「何か雰囲気違うなーと思ってたんだ、すぐに気付いたんだけどさ、そのヘアピンどうかしたのか?」


藜の前髪にシンプルなピンクのヘアピンが付いている。

藜は今までヘアピンなんて一度も付けていなかったのだ。


「ああこれね、昨日、閻魔様が私にくれたのよ」

「成子が?なんで?」

「私って緊張しなくてもたまに無意識に険しい顔をする事があって、それに気付いた閻魔様が「これで印象が良くなる」って私の為に買ってくれたのよ」

「あー、確かにやりそうだよな藜って」

「なにか行った?」

「いえ、なんでもありません」


藜が今、怖い顔をしたので彼女から目を反らした。でも考えて見ると藜は元から少し厳ついような顔をしている。見た目だけだと結構厳しい奴だと見えてしまうから藜にヘアピンをあげた成子は自分を支える部下の為にありがたいプレゼントをしたに違いない。


とはいえ、俺と藜はこれから雅斗に真実を伝えなくてはならない。


例え雅斗が否定したくても、これ以上死人を出さない為に雅斗には覚悟を決めなくてはならないからだ。
















「借金を抱えていた!?」




事は30分前に遡る。


告白された女子に断りにいく為、いつもより早めに登校しようとしたその矢先、電話で成子から閻魔室に来るようにと伝えられた。

そこで土良さんから中島組を狙う業魔の正体に繋がる重要な情報を報告するとの事だった。


この時、土良さんは中島組関係者を狙った連続殺人事件の捜査で忙しく、閻魔堂に来れないのでテレビ電話でその情報を伝える事になった。

そして、その情報の一つとしてあの小須部親子に多額の借金を抱えていた事を知る。


『調査の過程で被害者の務め先に、小須部 勤が所属していた部署を訪ねたんだ。借金の事はその被害者と仲の良かったその部長から聞いた』

「その借金というのは?」

「被害者が所持していた株だよ、しかも運悪くあの『ハッピリーズ』のな」

「ハッピリーズ…って、あの?」


土良さんが今、口にした『ハッピリーズ』とやらに紺は何か知っているような素振りを見せる。


「ハッピリーズって?」

「ファミレスの業界で知らない者はいないと言われる程有名な企業です。全国で1000店舗以上のチェーン店を構える大手企業………だったんですけど…」

「どうかしたのか?」

「あの企業の本社が異常、名前に反してブラック企業だったんですよ、労働時間なんて月に100時間以上、上司が社員を奴隷のようにこき使うとかで、その中身は厚生省のベテランですら真っ青になるくらい残酷な物だったんですよ」

『そう、紺の言うとおりだ。ハッピリーズがその体制を貫いたせいで、後に十数名の社員が一斉自殺をしてな、この事件で本社の労働実態か明るみに出た。これに対し社長は緊急会見を開きその上で謝罪をしたものの、その社長が賄賂や違法賭博をしていた事すら明るみに出て更に批判が殺到しちゃって、結果的に本社が倒産寸前にまで追いやられその影響で株価が急落しちまったわけだ』

「つまりそれで借金をしたのか、なら被害者はどうして株なんか買おうとしたんだよ?」

『部長から聞いた話によれば難病を抱えた奥さんの為に買ったらしい、治療代を払える金が無かった時に、当時、買えば絶対儲かると噂されたハッピリーズの株を知り、救いたい一心で賭けとして買ったつもりが失敗に終わったとの事だ』

「……治療代、か………」


土良さんが口にした真実の一つ聞いて俺は雅斗の話を振り替える。

あの時、「あの親子は金に困っている」と彼から聞いていたが、そういう事だったのか。

多分、雅斗も知らないだろう。借金を抱えているんじゃなく、ただ経済的に金に困っている、日香からそう聞いていた雅斗には借金を抱えていたなんて知るよしもないだろう。


「でも、それだけじゃ、被害者が殺される理由になりませんよ。小須部 勤が亡き者にされた理由は他にもあるのでは?」

『それなら問題ない、この話にはまだ続きがある。実はこの前、中島組の組員に会ったんだ』

「え!?どういう事ですか!?」


土良さんが今口にした事に対し成子が仰天した表情を隠さずに反応した。


『まぁあれだ、今中島組を指揮る若頭から手がかりや犯人に繋がりそうな情報を聞き出す為、中島組の事務所、というより被害者の一人である中島泰平の自宅に訪問しに行ったらその組員に会ってな、そいつに「若頭と話がしたい、会わせてくれないか」って頼んだが今それどころじゃないと断られてな、だが「よろしければ自分でもどうでしょうか」と彼が聴取に応えてくれた。その組員は既に手がかりになれる物を掴んでいたんだ』

「そうだったんですか、でもその組員、よく話を受け入れてくれましたよね?」

『まぁ話を受け入れたっていうか協力してくれたっていうか………本当の事を言うとあの組員、泣き寝入りしてたんだよ。組内で組長殺しの犯人の事で皆疑心暗鬼になっちゃって、一人一人が「コイツが犯人だ」「アイツが犯人だ」って勝手に決め付けて大騒ぎ、証拠すら無いのに誰もが疑い合って内部分裂寸前にまで至っちゃって、自分までも疑われるはめになってどうしようも出来なかった時に偶然訪れた刑事の俺に助けを求めたんだよね』

「ああ、そういう事か………」


この時、俺はその組員の心中を察した。

というよりもこの部屋にいる全員が察していることだろう。

自分達のトップが何者かに殺され、その犯人探しの為に決定的な確証の無い心当たりで同類を疑い初め、それまで親しかった仲間達が牙を剥き、互いを睨み合い険悪なプレッシャーを放つ、正に内部崩壊の前兆。

それを目にし土良さんに情報提供という形で助けを求めた組員の悲痛な心境をこの場にいる全員を既に察していた。


『さて、本題を戻そう、で、その組員から手がかりになる話を聞けた、それでだ真無君、君は借金取りとやらを知っているか?』

「借金取り?確かドラマに出で来るめちゃくちゃ怖そうなオッサンで人の家のドア叩いて「金返せ!」って言う人?」

『正解だが、それに関係する職業と言ったら?』

「えっ?職………?何か関係する職業ってあったっけ?」

『あーやっぱり真無君には分かんないかぁ、ヤクザだよ、最近じゃあ取り締まりが厳しくて今はどこもやってないんだな』

「ヤクザ…………か、そんな仕事もあったのか」

「あくまでも一環の業務に過ぎないからね、私達が生まれる数十年前までは珍しい事でもなかったのよ、あれ?それってつまり………」

『………そう、中島組はまだやっていた、今回の対象は小須部親子だったんだ』

「!」


つまり、まとめると、ヤクザならではの古い習慣を中島組は裏で、時代が変わった今でも実行していた。そして、今回、金融で一世一代の賭けをした小須部 勤と娘の日香がその餌食になってしまったという事になる。


『どっかの金融からの依頼だった。勤の自宅に押し掛け、借金の返済を強要し、有り金全部持って来させれば百万以上の報酬金を渡す約束をしていた。ああ見えて中島組は強欲な所があったんだな。そして、依頼を受けた泰平から有り金全部持って来いと命令された亮平は数人の部下を連れて小須部宅に向かったとの事だ』

「じゃあ、亮平はその後で行方不明に?そんな事より息子に任せるより自分が行けば良かったんじゃね?」

『組内から見て亮平は後継者にふさわしい位、頭が良かったんだ。これは事実であり、組長の父親も確実に認めている。自分より口の上手い息子に任せた方が良いと思ったんじゃないか?』

「…ということは、そいつが犯人ね。業魔の能力隠し持ってて、小須部親子を襲った。その後で行方不明になったのは、警察と私達の手から逃げ続ける為」

『それは違う、亮平じゃなかったんだ』

「えっ?」

「どういう事ですが?」


成子の読みが外れ皆が疑問を浮かぶ。


『勤の爪に肉片が付いてた、司法解剖の前に担当医が気付いたんだ、恐らく勤が最期の足掻きに被疑者の首か肩を掴んだのだろう』

「それだと、変身者は業魔にならずに勤を殺したのか?」

『そうなる、変身しなくてもある程度の力は使える、そして、変身しないで能力使って殺害した事も考え分析したら、どうもその肉片の主が()()() ()()だという結果が出た』

「………は?」


日香、確かに土良さんは彼女の名を告げた。

いや、日香?

小須部 日香がこの事件の業魔だというのか?

雅斗曰く「笑顔が取り柄の少女」だぞ?

それだと、日香が組員殺しの業魔と同一人物だということになる。

唐突な事実に何を言えば良いのかわからなくなる。


「それはおかしいんじゃないですか?」


紺が誰よりも先に疑問を口にする、そのまま紺は立て続けに話を続ける。


「それが事実なら日香さんは中島組の組員のみならず、自分の父親を殺した事になりますよ、本当に彼女が殺ったとでも?」

『そう言われても、最新の分析装置が割り出した結果だ。間違いない』


そう言われた紺が困惑し、口を閉ざす。

皆が口を開かず少し重く感じる空気が閻魔室に漂う


「……………本当…なのか、それ」

「………嘘じゃないですよね?」

『……………』

「まさか………そんな………」


即ち、業魔=小須部 日香の目的は金の関係で魔の手を伸ばす中島組から平穏な生活を壊さない為に彼女は中島組をその力で跡形も無く潰す事。


だが、それなら、彼女がその為に守ろうとした父、勤をどうして殺したのか。

愛する父に一体何の為に手をかけたのか…………


「………でも……そうだとしたら………」


そんな中で共に真実に驚愕した成子はそう言った後、蚊の鳴くような声でぶつぶつと一人言を始める。


「……閻魔様?」


藜の心配をよそに、小声で聞き取れない一人言を早口で呟き続ける。

約一分間もぶつぶつ言い続けた後、一人言を止め、俺達の前で顔を上げた時には成子は冷や汗を頬に垂れ流しながら深刻な顔を浮かべる。


「真夏君」

「な、なんだ?」

「日香って子、その人になんか特徴がある?」

「笑顔が取り柄…だそうだ、友人は曰く」

「………その友人、この事実を知っていないよね?」

「……かもな、嘘を付くような奴じゃなかったし」

「……………ヤバくない?その子」

「は?」


突然、成子が変な事を言い出す。

「ヤバい」というのはどういう意味なのか。

俺は成子に側に近付く。


「一ヶ月前に私が言った事、覚えてる?「心の中にある葛藤や憂いといった負の感情を解放し欲望を暴走させ人間を邪道に導いてしまう」って」

「確かにそう言った。業魔の能力の副作用的なもんだよな……………副作用?」


そう言えば、変身者が業魔になった際に、人格が悪化するような所を見ていない、

見ていないから、俺はその詳細を知らない。

だが、今のでわかった気がする。

たとえ犯罪者の正体が絶対にちゃんとした悪人とは限らないように、業魔に変身者も必ずしも悪人とは限らない。

それはつまり悪人には見えない人でも業魔になりうるということ。

負の感情を解放し欲望を暴走させるそれは人を悪魔に変える力、それが、業魔の本質。


「つまり業魔とは、邪道に導かれた人の成れの果て、悪魔と化した人間そのものなの」


なら、

それに手を染めた日香も悪魔になってしまっているのか?

借金の問題を解決する為に既に悪魔になってしまっているなら………


「二人が危ない!」


雅斗とその友人はこの事を知らない。

既に日香が業魔の力に溺れるようになっているなら尚更危険だ。


すぐさま魔具を取り出し、付け加えられた音声入力を用いた転送機能を起動する。


「ちょっと待ちなさい」


そこに藜が呼び止める。


「私も行く、もしかすると今日に限って小須部日香が学校に現れるかもしれないから念のため」

「それはかまわないが日香は亮平を狙っているから学校にいるとは…彼、別の学校の生徒だぞ」

『そんな事はないぞ』

「え?どういう事?」

『失踪してから一週間が立つ、そろそろ所持金が尽く頃だ、亮平がどれくらい金持ってるか知らないが最低ネットカフェで寝泊まりしたってそう長くない。だから安全な場所を求めてさまよい続ける、もしかしたら彼は既に、君の潜入先の学校にいるかも知れないぞ?』

「なるほど、あり得るか」

『それじゃ俺はここで失礼する、何かあったらすぐ連絡してくれ』


こうして藜と共に学校に登校し今に至る。

あの2人、どうにか無事でいるか心配になってくる。

本当に無事だと良いんだが………


「………ん?あの人溜まり何かしら?」

「え?………なんだあれ?」


校庭で人が密集している所を見つける。

何やら騒いでいるようだ。







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