「あのー、すいません……この右から2番目にある『夢』っていくらで買えますか?」
「私にはどうしても叶えたい『夢』ってものが無くて……。
毎日をただ淡々と過ごしているんです。」
薄紫色のガラス瓶に入った透明な液体。
それを指差しながら痩せた若い女性は言った。
店主「ああ、それならあなたの『厄』と引き換えにお渡ししましょう。」
「『厄』は3日後に頂戴しに参ります。」
女性はそっとガラス瓶を受け取ると嬉しそうに帰っていった。
【12月21日】
「あのー、すいません……この左端にある『厄』っておいくらですか?」
「どうしても振りかけたいヤツがいるんです。」
ねずみ色の壺に入った黒い粉。
それを指差しながら背の高い中年の男性は言った。
店主「ああ、それならあなたの『命』と引き換えにお渡ししましょう。」
「『命』は2日後に頂戴しに参ります。」
男性はおそるおそる壺を受け取ると決心したように帰っていった。
【12月22日】
「あのー、すいませんが……この『命』っていくらでしょう?」
「娘が……娘が余命宣告を受けたんです。もってあと半年って。」
青緑色のツヤのある小箱。
それを指差しながら高齢のご婦人は言った。
店主「ああ、それならあなたの『絆』と引き換えにお渡ししましょう。」
「「絆』は明日頂戴しに参ります。」
ご婦人は大事そうに小箱を受け取ると幸せそうに帰っていった。
【12月23日】
今日は店の定休日。
シャッターは閉められ外から中の様子を伺うことは出来ない。
店主は店の中で先程手に入れた『厄』『命』『絆』を1つずつ丁寧に磨いていた。
それをショーウィンドウに並べるのではなく懐にしまった。
そして床に転がっていた『嘘』を拾うと、こねくり回して新しい商品を作った。
【12月24日】
「あのー、すみません……この『絆』っていくらでしょうか?」
仲睦まじい様子のカップルが指差しながら言った。