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マスクマン  作者: 十色市
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最終話〜足跡〜

「どう?みんな来れそうだって?」

揺れる電車の中、僕と智子は隣り同士、吊り革に並んで掴まっている。


「ああ、みんな来れそうだって。進学先がバラバラになっちゃったから不安だったけど、みんな会うのが楽しみだって言ってたよ」

「そっか。それはよかった」

高校時代の仲間達の中で地元に残ったのは僕と智子、大石と池田くらい。

川野が群馬の大学へ、青田は大阪、横山はアメリカと地元を離れて行った人が多かった。

大石は資格を取れればすぐにでも東京で働き、一人暮らしを始めるつもりのようだし、

池田もアメリカ留学を検討しているらしく、来年になると更に離れ離れになりそうだ。


「でも少し驚いたよ。陽一が自分からみんなを呼ぼうって言い出すなんて」

「昔さ、僕の家で鍋パーティーとか餃子パーティーをやったことがあったでしょ?あれを思い出してまたやりたいなって。それで夏休みならみんな大丈夫じゃないかって思ってね」

「ああ、楽しかったね。そういうえば初めて陽一とまともに話したのって、鍋パーティーの帰りだったかも?」

智子とは今でも高校生活からの関係が続いている。

通う大学は別々だし、お互いにバイトだサークルだと忙しく、

なかなか会う機会は少ないけれど、それでもうまくやっていけている。


「それじゃあ私はバイトだからまた後で」

「うん。バイバイ」

駅で智子と別れを告げ、コンビニで夕食を買い終え家の玄関を開ける。


「ただいま」

家に帰り、いつものフレーズを口にする。

3年前と変わらず誰からも返事が返ってこないし、

相変わらず習慣のようにPCに電源を入れる。

3年前との違いは偶に智子が部屋の掃除をしてくれているおかげか、

洋服にせよ、キッチンにせよキレイに片付いていることくらい。

これなら一週間後に控えた鍋パーティーの準備もあまり必要なさそうだ。


"Hello,How are you?"

PCを立ち上げるとアメリカ生活が板についてきた横山から、

メッセンジャーでメッセージが届く。


"英語はやめて普通に日本語でタイピングしてくれ"

僕はすぐに横山にメッセージを返し、

スカイプを利用して彼女とPCごしの会話を始める。


「久しぶりー。そっちは夏真っ盛りで暑いみたいだね。智ちゃんと仲良くやってる?」

「ああ、そっちはどうだい?」

「こっちも暑い暑い。10年に1度の異常気象とかなんとかで暑くてしんどいよ」

そういいながらTシャツをパタパタさせる横山。

思わず視線が胸元にいってしまう。


「そういえば、来週だっけ?石橋の家で同窓会やるって話」

「そうそう、ちゃんと時間空けておけよ。特別ゲストなんだからさ」

「みんなの顔が見れるっていうのは凄く楽しみなんだけど、楽しそうに鍋食べてるのを画面で見ているっていうのはなんだか嫌だなぁ」

「そっちもそっちでアメリカの友達とバーベキューでもやったらどうだい?」

「私の住みかでは狭すぎで無理だよ」

他愛の無い話を暫くしていると、いつの間にか30分近く時間が経っていた。

明日になれば忘れてしまいそうな会話なのに、

不思議と話が盛り上がりついつい時間が過ぎてしまう。


「それじゃあ、大学あるからまたね」

「はいはい。気をつけて」

彼女との通信が途切れ、することがなくなるとネットサーフィンをはじめる。

お決まりの巡回サイトを巡りながら、夕食のコンビニ弁当を口に運ぶ。

これも最近の日課の一つだ。


思えばこんな時、高校時代の僕なら裏サイトを巡って、

誰かの噂話を知るのに躍起になっていた。

今の僕はあの頃と少しだけ違い、巡るサイトは裏サイトでなく、

自身が参加しているサークルのWebサイトの巡回や、

今嵌まっているネット対戦の将棋ゲームが中心。


お決まりコースの散策を終えた後、

お気に入り登録されている大手掲示板サイトを眺めていると、

顔の見えない相手に誹謗中傷を繰り返す人がいたり、

そんな人を相手にまた誹謗中傷を繰り返す。

そんなやりとりが偶々目についた。


一昔前の僕だったら、冴えない奴がやるようなことだと思っていただろう。

今はそんなやりとりを見て、僕は恵まれているんだろうなと思う。

一つ間違えれば僕もネットで犯罪予告をして、

逮捕されるようなことをしていたかもしれない。


些細な事から高校生の頃はまだ何も分からなかったことが、

少しずつ見えるようになってきているのが分かる。

中学生から高校生になった頃は中学生が子供にみえて、

自分は大人になったもんだと思っていた。

そして今、大学生になると、高校生は子供だと気付き、

高校生を見かけると「まだまだ子供だな」なんて思うようになった。

でも、きっと社会人になる頃には今の僕が子供に見えるのだろう。

何が変わっているのかは自分自身でもよく分からない。

だけど、確実に何かが変わっている。

小さい頃の夢がある時期を境に失われるのと同時に新たな現実を知り、

歳を重ねるごとに少しずつぼやけていた自分の先が見えてくる。


僕の場合は高校のときに全ての夢をなくしてしまい、

自分らしさを演じることに躍起になって、本当の自分がなんだか分からなくなった。

だけど、周りの友人のおかげもあって、

自分で自分に言い訳をしていたことに気がついて、

自分のやってきたことを受け入れることが出来るようになったりもした。

人に迷惑を掛けたり、誰かに助けられリ助けたり、そんなこんなで今までやってこれた。


きっとこれから先、何度も行き先に迷って自分を見失ったり、

自分の歩んできた道を後悔したりするんだと思う。

それでも大丈夫。

僕にはアメリカから連絡してくれる人もいる。

大阪に行ってから関西弁が板につき、それに巻き込もうとする人もいるし、

3ヶ月振りに会って早々にドロップキックをしてくる人、

そして、僕の為に部屋を片付けてくれる人もいるから。



一週間後、懐かしい顔が小さなリビングに集まり、季節外れの鍋を囲んだ。


「それじゃあ、再開を祝して乾杯!!」

グラスに入ったビールを飲みながら食べる鍋は、

味はもちろん、皆で思い出を語りながら食べるそれは何よりもおいしくて、楽しかった。


「いやー、それにしても中沢と石橋が付き合うとはね。恋のキューピットの俺に感謝して欲しいな」

僕と智子を冷やかすように川野が言う。

そんな彼は相変わらずのようで、一人暮らしをしても連れ込む女性はいないようだ。

僕らを弄るのは寂しい男の戯言だ。


「大学のサークルメンバーで合コンしたんだが、京都弁はヤバイね。あれは反則だよ反則。京都弁を話すってだけで山田花子が山田優並の可愛さに変わる」

こちらも大学に行って相変わらずプレイボーイの青田。

半年の間に彼女が3人代わったというんだから驚きだ。


「いい加減落ち着いたら?あんたの周りの女に同情するよ」

高校を卒業してから伸びた髪をまたバッサリと切った大石。

彼女は残念ながら去年落ちたインテリアコーディネーターの資格取得に再度挑戦予定だ。


「このカバン可愛いなー。何処で買ったの?」

「これ?これは大学の近くのカバン屋だよ。今度一緒に行こうよ」

大学に進んでから髪を染めてイメチェンした池田と、その横で楽しそうに話す智子。

どうでもいいけど、そのカバンのお金を出したのは僕だぞ智子。


「そうそう、今日はゲストがいるんだ」

僕は適当なタイミングでPCに電源を入れ、横山がいることを確認しスカイプを立ち上げる。

PC画面にアメリカの映像が映ると皆一斉にPCへと視線を向ける。


「みんな、久しぶり。元気にしてる?」

PC画面から見えない通信を通して、

アメリカにいる横山の映像が映し出されて、声が響いた。


「おおー。横山か。石橋とこんな形で連絡をとっているとは驚きだ」

「ちょっと、ちょっと。石橋君、可愛い彼女がいながらこんなことをしてるなんて浮気ものだねー」

アルコールが回り始めたのか、言いたい放題。

浮気もの呼ばれされたのは心外だけど、

確かにもう少し智子に対して気を使うべきだった部分は思い当たる節が沢山ある。

これからはもう少し気をつけよう。


それから僕らは鍋を食べながら、最近買ったばかりのwiiで遊んだり、

高校時代に嵌まったUNOをやりながら、皆の大学生活を語り合ったり。

楽しい時間というのは経つのが早く感じるもので、

気がついたら終電の時間まであと30分という時間になっていた。


「なあ、また近いうちにこういうのやろうな」

ドンチャン騒ぎの帰り際、川野が僕にそう言い自宅へと帰って行く。

皆それぞれ自分の帰るべき家へと足を進め、一人、また一人と後姿が見えなくなっていく。


「どうしたの?」

僕の寂しい気持ちが顔に出ていたのだろうか。

僕の家に残り後片付けをしてくれている智子が僕に言う。


「いや、こうやってみんなで会う機会ってこれからもあるのかなって思ってね」

さっきまでバカ騒ぎをしていて笑い声が耐えなかったこの部屋も今は静かで、

遠くで鳴く虫の声がよく聴こえる。


「大丈夫だよ。離れ離れになっても会おうと思えば今日みたいにいつでも会えるんだから」

高校生の時のように家が近くなくなって、

こうやってみんなで集まって何かをする機会は減っていってしまうだろう。

いや、ひょっとするとみんなで集まれるのは今回が最後かもしれない。

高校から大学に進んで、一緒に歩んできた人がそれぞれの別の道を進む。

社会人になればそれは更に大きな違いとなっていくのだろう。

以前、僕が高校1年に入った頃に小学校の同窓会に参加した時に、

父が羨ましいと言っていたのを僕は覚えている。

今の僕と歳が20歳以上離れる頃には、学友と会うことなんてないのだろう。


だけど僕はほんの少しだけでもいいから、出来た繋がりをなくしたくない。

会いたい気持ちさえあれば、いつだって会えるんだ。


「ちかいうちにまたみんなで集まってやろうな」

「うん。今度は横浜を出た人の家でやったりしても楽しそうだね」

高校時代に出来た友人と思い出。

これから先、大人になっていっても関係が薄れていっても、

自らが消さない限り、完全に消え去ることはないんだから。


読者の皆様へ。


9/8以前のものから、加筆、修正を加えました。

誤字脱字の訂正の他、ストーリーに加えておきたかった部分を追加等を致しました。


繰り返しになりますが、最後まで読んでくださった読者の皆様、

本当にありがとうございました。

もし宜しければ評価、感想をいただけるとうれしいです。

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