1 キュウリ・オイシイ
「──今日もきゅうりが美味しい。ご馳走さまでした」
風は窓を通り抜け、爽やかな風を運んだ。
もう、世界には朝陽が満ち溢れ始めている。
その男の食卓には一つのグラス、その中にレモンジュース。
そしてもう一つ、純白のボウルに乗っかった新鮮なきゅうり。テーブルはアジアンな使いふるされたクロスで覆われている。
味としては、今日は最高。
塩の加減も、我ながら天晴れ。
今度は漬け物にでも挑戦してみるか……。
「示ー!「郵便」だぞー!」
ん、あの声……。
ああ、村の子供たちか。
もうそろそろ十年も生きてるってのに、騒々しい……。
そうそう、郵便だったな。
まったく、いつもとは立場が逆だっつーの。
「送られるがわ」ってのも、大変なもんだな……。
今度からは俺も気をつけてみよう。
成長は大事だよ、本当。一人前ってのは遠い。
「まだかー!示!早くしないと、この手紙破くぞ!なんか大事そうな手紙だから、破り甲斐はありそうだなー?」
「行くよ。だから破んな。手紙は大事にしろ」
示、と呼ばれた男は、その声を封じ込めるためにドアの前に向かった。
っていっても、まだ着替えてないし。
まだ一本しか食ってねぇし。
下着一丁じゃ、流石にみんなの前には出れねぇよな……。
男は近くにどんと構えてある樽に手を突っ込んだ。
中身は…………大量のきゅうり。
「ああ、いい。いいぞ、この緑!大好きだ」
そこから何本かきゅうりを取り出して、籠にそれを入れた。
きゅうりには水滴が付いており、如何にも瑞々しい。
その匂いを嗅いで落ち着くと、今度こそ着替え始める。
──さて、どんな手紙だろう。