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0 プロジェクト・レター

 とある世界の、国王在住、首都圏間際のとある町。


 この世界では、だいたい二つ、人々に欠かせない物がある。

 魔法と、手紙である。


 この時代の人々は皆、手紙で文字のやり取りをしていた。インターネットやスマートフォンが普及していない、むしろ科学など全く発達していない、そしてその概念がない、この世界。


 果物屋は「フロウ」で品物を籠に積み、大工は「パワード」で釘を打ち、狩人は「アロースナイプ」で獣を狩る。


 それだけ、この世界では魔法という魔法が発達していた。というか、魔法しか発達していなかった。


 子供らは小さい頃、両親に聞いたり、歴史書などで見たりしてこんなことを必ず知る。


 ──「魔法」は魔人族が全滅した頃、「魔力素」として人類に伝えられ、その後「レター」という人物が応用を成功させた。そして、「魔法」は瞬く間に人類に広まっていった。


 この事柄は、もう数百年以上前の話になる。


 魔法は何でも応用が利く。


 これも全て、レターなる偉人がやってのけたことらしい。

 レター、なんていう人物は実は存在しかった、なんて説も囁かれているが、子供らはそれを絶対に信じない。


「魔法って凄いの!何でもできちゃう、夢の方法なの!」


 これが、普通の子供の意見である。中には否定的な意見を出す子供もいるが、大概は強がり。


 だから、この世界の人類は必ず一度は「レター」に憧れを抱くのだ。そして、誰もがレターの様な魔法の伝導者になりたいと一度は夢を持つ。


 だが、そんなレターでも出来なかった偉業が一つ存在する。


 この世界では、「運送」と「遠隔操作」の魔法が存在しなかった。

 手紙を間違いなく、確実に、早く遠くの誰かに届けるには、絶対に必要になる魔法である。


 人類は魔法が使えるようになる前から、ずっと手紙を書くことが生き甲斐の者も多かった。

 手書きの手紙は家族の間で頻繁に回され、たまに国境すらも越えた。


 レターは沢山の魔法を全人類に伝えられるだけ伝えきった。


 だが、レターは最後の魔法「オペレーション」を伝える寸前に、一つだけ在る命を落としたらしい。これも、子供ならば誰もが知っていることである。


 レターの唯一の失敗はこれである。

 レターの伝記には、こんな事があったと紹介されていることが多い。


 ──「最後の魔法はとっておき…………これが世に出たら、人類は革命的に発展する!その名も「オペレーション」!遠隔操作とか、物を別の所に届けられるワープとかも応用すれば使えちゃうんだ!」


 ──以上の言葉は、24歳のレターが病院のベッドで発言したものである。元々体の弱かったレターはその一週間後、「オペレーション」を伝えることのないまま、その命を落とす。


「間抜けだなぁ…………」


 この世界の大人は、みんな揃いも揃ってそんなことばかり言う。レターは笑い者にされ、「ずっと笑っているとレターになるぞ」という標語すら生まれた。


 それでもみんな、レターのことをこよなく愛していた。


 みんなレターが大好きで、憧れていた。社会的には謙遜されがちだが、それでも、みんなレターを目指して仕事を頑張り、誰かに向けて手紙を書く。

 さっきの標語も、レターが愛されている結果生まれたものでもある。


 そんなこの国では、度々レターの事を語ったり、生涯を記録した伝記が作られた。


 もちろん、レターが伝えた魔法も星の数ほど出回っていた。人は素質と努力、知識、そして「マジックツール」さえあれば誰でも魔法が使えるとされた。


 人々の中には、趣味として魔法を覚えることに専念する者もいた。さらに魔法によるゲームや対人法、狩猟法等も確率され、手紙と同じく断固とした立場を守っている。


 だが、それでも誰も「オペレーション」を使えなかった。


 魔法に頼りきっていた人類に、何かを効率よく運ぶ、長時間移動するなんてことが出来るはずもなく、やがて「オペレーション」は伝説の魔法とされた。


 人々は何とかして「オペレーション」を再現できないか、と伝えられた魔法を中心とした魔法陣を魔術師たちが作成した。


 しかし、「オペレーション」は幾多の魔法の中でもトップクラスに独立した仕組みらしく、それを解読するのは不可能に近い、という結果に至ってしまった。


 その事実は世間に公表され、その夢を語るのは子供だけとなってしまった。

 大人はその現実を受け入れ、レターが死んだことを心から惜しんだ。


「オペレーションがあれば…………凄いのにな」


 誰もがこんなことを口にした。

 誰もが、諦めかけていたのだ。





 誰かがある時、「郵便配達員」なる、謎の職業を名乗ったのだ。

 これまで職業といえば、「冒険者」だったり、「料理人」だったり、「狩人」だったりしたものだ。


 この運送というものが廃れたこの時代に、配達を仕事とする人物が現れたのである。


 その郵便配達員は、国境なんて関係なく、国内でも確実に目的の人のもとへ手紙を届けると言い切った。


 そして、あの「オペレーション」を実現させることも目標とする、とも言った。


 最初はその意味不明な服装や帽子、仕草などからみんな疑い、怪しんだものだ。そもそも、「郵便」とは何か、ということを誰もが知りたがった。


 しかし、ある一件があっという間に解決すれば、人々の緊張は一瞬で解けた。

 仕事が仕事を呼び、その郵便配達員は休む間も惜しまずに仕事に励んだ。


 ある時、郵便配達員はこんなことを語った。


「レターは凄いよ、本当に。でも、そんな凄い人の足りない部分を補うっていうの、なんかこっちも凄くない?」


 その言葉を聞いた者は、我先にと「郵便配達員」になりたがった。

 しかし、郵便配達員になるにはハードルが高すぎた。こんなに、必要なんて。


 なりたくても、誰も郵便配達員になれなかった。

 その、たった一人の郵便配達員は感謝され、次第に尊厳の対象となっていった。


 しかし、その郵便配達員が死んでしまった後、その職業になる物が少数ながら突如現れたのだ。

 最初の郵便配達員は、死ぬ間際、自身の子に極意を伝え、これを国中に公表するように頼んだらしい。


 どこかあの「レター」に似ていた最後だったが、レターと違って郵便配達員は「方法」を子供に伝えることに成功したのだ。


 それでも「郵便配達員」を名乗るには壁が高く、挫折し、自殺してしまった者も多数いたという。


 だが、それを乗り越え、やっとのことで「郵便配達員」になった者が全人類からほんの一握り、現れた。


 郵便配達員となった者には若く、誰からも一目置かれる存在が多かった。


 その者達は「手紙の世代」と呼ばれ、その役目もそれぞれに受け継がれた後、レターには劣るものの伝説となった。



 その中の一人に、ある青年がいた。


 赤口示(せきぐちしめす)


 名前の珍しさがあってからかわれる事が多いこの青年は、人々に尊敬される生活に若干不慣れな、「手紙の世代」の中では中の下くらいの立場にあった。


 だが、まだ誰も知らないのだ。


 この青年(せきぐち)が手紙と世界を巻き込む戦いに足を踏み入れるなんて、まだ、それこそ誰もそんなこと手紙には書けなかったし、予想もしなかったのである。

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