プロローグ「旧友たち」
[緒言に代えて]
「現代の怪談」の、第四話と第五話の間の挿話と考えて頂きたくございます。
オロチ
:ペンスピナー 麻咲イチロウの事件簿Ⅰ〈改〉
西暦二〇一三年五月。京都の某所で、神前式の披露宴が営まれた。
新郎、田中オメガ、三十五歳。
新婦、咲、三十四歳。旧姓は菩薩峠。
新婦が、さる民間の戦闘部隊の隊長であったので、式は大いに盛況した。
その日の夜、新郎が経営する喫茶店「キンメイチク」に、新郎新婦と、新郎の友人一人が集まり、静かな宴会を開き、昔話に花を咲かせた。新郎の友人は、黒の上下に、浅葱色一色のコートに身を包んだ、風変わりな出で立ちである。
「結婚式に、麻咲さんは来られなくて残念だったね」とオメガ。
「ここに呼んでおいたから、もうすぐ来るはずだ」と浅葱色。
そのとき、店に入ってくる者があった。
「よう。遅くなってすまない。神戸で、急な仕事が入ってな」
そう言った彼は、黒の革靴、黒のズボン、前を空けた黒のジャケットに純白のワイシャツ、そして赤いスカーフを巻いた、美男子であった。
「麻咲さん!お久し振りです!」とオメガ。
「久し振りね」と咲。
「あれから七年経ったのに、ちっとも変わらんな。一体いくつになったんだ?」と浅葱色。
「三十二だ。お前はすっかり剣士の風格を身につけたなあ、相浜。それより、田中。菩薩峠。結婚おめでとう」と麻咲。
四人は改めて席に着いた。
「こうして四人揃うと、七年前に戻ったみたいね」
咲がそう言うと、オメガが返した。
「ああ。あの戦いがなければ、俺たちは出会えなかった。元々、俺たちは別々の世界に生きていたみたいなものだったからね。でも、運命なんて、己の意志で変えられる。そう教えてくれたのは、麻咲さん。あなたですよ」
そう言われて、麻咲は、照れて笑いながら、葡萄酒のグラスに口を付け、そして言った。
「苦しい戦いだったが、皆で力を合わせて乗り越えたんだ」
宴のテーブルは、時を超え、七年半の時を遡り、二〇〇五年の晩秋に飛んだ・・・。