夢
家に駆け込み、息を整えながらオレは懸命に考える。
魔導士ってなんだよ。…何なんだアレは。
いや…何か引っかかる。どこかで感じたことあるような…。
暗い底なし沼に引きずり込まれそうなあの感覚…。
「ちょっと。あんたそんなとこで何やってんの?ただいまも言わないで。早く入りなさい。」
母さんの声でハッと我に帰る。
「あ、ああ、ただいま」
母さんは訝しそうに「ご飯出来てるわよ」と言いながらリビングに戻っていった。
夕飯を食べている間もさっきのことが頭から離れない。
母さんが声をかける。
「ソラ?あんたどうしたの?具合でも悪いの?」
「学校で変なもん拾い食いしたんじゃないのか。」
父さんが呑気に言う。
さっきのこと話してみるか?…いや、言っても信じてくれないだろう。
「何でもない。疲れたからもう寝る。」
それだけ言って立ち上がる。
「あらやだ。ついに反抗期かしら?」
「あれは絶対変なもん食ったんだ。」
背後から2人の声が聞こえてくる。
食ってねーよ、と心の中で突っ込みながら自分の部屋へ向かった。
ベッドに横になり、再び考える。
オレは知っている。どこで?どこかでアレに会っている。どこだ?
思い出そうとしても頭にモヤがかかっているようでハッキリしない。
目を閉じて記憶を辿りながらいつの間にか深い闇の中に堕ちていった。
オレは暗闇をさまよっている。
どこかから声が聞こえる。声のするほうを振り向くと、丸い光がゆっくりとこちらへ向かってくる。だんだんと大きくなり、まばゆい光に包まれる。
目を凝らすと人影が近づいてくるのが見えた。
目の前に現れたのは、エメラルドグリーンの瞳をし長い黒髪を後ろに束ねた優しそうな男性だった。
「魔導士ソラ。覚醒する時が近づいている。もう既に2人は完成した。お前が来るのを大魔導士様と共に待っている。歪みが広がりつつあるのだ。食い止めておけるのも時間の問題だ。」
…覚醒?………オレはこの男を知っている。そう…はるか昔から…。
オレの心が読めたのか男は優しく笑う。
「覚醒すれば全て思い出す。近くまた会うことになるだろう。私が来るまでくれぐれも気をつけるのだ。お前の存在が魔に嗅ぎつけられている。」
それだけ言うと男はまた光の奥へ消えていき、まばゆく照らしていた光も少しずつ小さくなっていった。
ハッと飛び起きるとそこはいつもと変わらないオレの部屋だ。
夢?夢にしてはハッキリ覚えている。
それに…オレはあの男に会ったことがある。どことなく懐かしいあの感じ…。
覚醒すれば全て思い出すと言っていた。
覚醒ってなんだ?
魔に嗅ぎつけられている…くれぐれも気をつけろ…
昨日のアレが魔か?そうなのかもしれない。それなら納得がいく。
「ソラー!」
ガチャッ!
「ソ…あら?あんたもう起きてんの?めずらしい。それなら早く支度しなさい!ユイちゃん来ちゃうわよ。」
母さんの声で現実に引き戻される。
「あ、うん。わかった。」
「あんた昨日からなんか変よ?やっぱりどこか悪いんじゃない?」
心配そうにオレの顔を覗き込む。
「どこも悪くないよ。」
そう言いながらオレはわざとアクビをする。
「それならいいけど…あんたが静かだと調子狂うわ。」
と笑いながら母さんはリビングへ降りていった。
とにかく思い出せないことを考えてても仕方ない。ただの夢かもしれないし。
…よく考えれば現実ありえないよな。
あーやめたやめた!そもそも考えるのは苦手なんだ。
オレは振り切るように思い切り伸びをした。
昨日夕飯をあまり食べてないオレは山盛りのコメをかっこんでいた。
「なんだ、腹はもう治ったのか?」
「もほもほほはひへへーほ(元々壊してねーよ)」
「食べるかじゃべるかどっちかにしなさいよ!」
いつもの朝だ。
「おはようー!」
…うるさいヤツが来た。
「うわっ!ソラが起きてる!おばさん、傘持ってかなくて平気かな?」
「折りたたみ傘持っていったほうがいいかもねー」
…失礼な奴らだ。
オレはコメを飲み込み叫ぶ。
「安心しろ!今日は思いっきり快晴だ!」