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サワの仕事(10)

 どうにかこうにか、サワは城で働くことが決まった。

 侍女見習いということなので正式雇用ではないけれど、それでも、サワはやっと自分にもなにか出来そうだということに胸を弾ませている。

 感情を表に出すことが滅多にない彼女であるが、珍しくウキウキしながら廊下を歩いていた。

「今日はどんな鳥が来てるかなぁ」

 口元を綻ばせ、足取りも軽く進んでゆく。

 ミーティアから仕事着の採寸をするという話をされたが、侍女長の彼女はこれから昼前までは忙しいのである。

 それまで時間を潰すために、サワはお気に入りの裏庭に向かって城の廊下を歩いていたのだった。


 朝食と違って、光帝陛下をはじめとする王族たちは個々の部屋で昼食を済ませることが多い。

 それぞれに与えられた職務があるため、仕事の進み具合によっては昼食の時間に間に合わないこともあるからだ。

 夕食も時間が合った者同士が大食堂に集まるといった程度で、朝食程には厳密な招集命令が出ていない。この国の王族たちは、一様に仕事熱心な者が多いらしい。

 ちなみに、陛下たち夫婦は同じ部屋で昼食を摂ることが常である。

 妃陛下が自ら進んであれこれと世話を焼くため、侍女たちは部屋に食事を運び、その後、空いた皿を下げるといった程度の仕事で済む。

 とはいえ、この国で一番身分の高い存在の部屋に入るのだ。仕事ができることはもちろん、かなり信用のおける人物が宛がわれる。

 数年前までは、ミーティアが両陛下の昼食の場に立ち会っていた。

 しかし後進の教育ということもあり、今ではミーティアの跡を継ぐとされているグリーナという女性が、二人の侍女を連れて陛下の部屋で仲睦まじい昼食が滞りなく進むようにと気を配っている。

 もちろん、お役御免となったミーティアが暇を持て余すはずもなく。

 サフィルイアが妙齢を迎えた女性たちの目を引く年齢になったこともあり、カルストと共に彼の昼食を給仕することになったのである。

 彼らの昼食が始まるまでに午前中の仕事を終えなくてはならないし、昼食のための準備もあれこれとある。

 王族付きの侍女たちは、他の侍女たちに比べて仕事内容が格段に大変なものであるが、それこそが彼女たちの誇りでもあったので、不平を漏らす者は一人もいなかった。


 さて。

 一人で裏庭にやってきたサワは、大きな木の幹にもたれかかり、茂った葉の間からキラキラと零れる木漏れ日を浴びていた。

「この世界に初めてきた時も、こうやって寄りかかってたんだよね」

 十六年の人生を終え、家族と別れを告げ。そして、次に目を覚ましたら見たこともない世界に来ていた。

 誰に頼ることも、なにに縋ることも出来ず。たった一人きりで、大樹に背を預けていた。

 だけどあの時と違うのは、見守ってくれる人たちがいるということだ。

 城に勤める者たちは皆、サワに優しい。

 彼女が偉大なる存在ということで委縮してしまう部分もあるが、一線引いた態度がサワを傷つけると知り、周囲から見咎めらない程度には親しく接してくれている。

「陛下も妃陛下も、ジル様もアミィ様も、本当に優しいし」

 ジル、アミィとは、ジルコーイヤとアメーディスのことである。

 彼らは少しでもサワとの距離を縮めようと、市井の子供たちのように略称で自分たちを呼ばせよとうとしてきた。

 当初は「様」をつけることすら気に入らなかったようだが、その部分だけはサワが譲らなかったので、今ではジル様、アミィ様という呼称で双方が落ち着いている。

「もちろん、あの人も優しいよね」

 そう言って、クスリと笑うサワが脳裏に思い描いたのは……。

「でも、カルストお父さんって、ちょっと過保護すぎるかも」

 ディアンド光帝国の宰相であった。

 憐れ、サフィルイア。

 ガクリと膝をつくサフィルイアと、その様子を見て心の中で高笑いを響かせるカルストという構図が浮かぶようだ。

 しかし。

「一番優しいのは、やっぱりサフィルさんかな」

 足元にいる野鳥に内緒話をするかのように、サワははにかんだ笑顔でコソリと漏らす。

 鍵の役割を見つけられずに不安に押しつぶされそうになっていた時、忙しい職務の合間を縫ってそばにいてくれたこと。

 自分の命を顧みず、マスタードラゴンに戦いを挑んで助け出そうとしてくれたこと。

 他にも、なにかにつけて、サフィルイアはサワに声をかけていたのだ。

 もちろん「氷の仮面」はそう簡単に外れるものではなかったし、言葉も巧みなものではなかった。

 それでもサフィルイアに救われていた部分が多かったと、サワは感じていたのである。

 サフィルイア、逆転大ホームランか?


 だが、サワはやはりサワであった。


「お兄ちゃんを思い出すなぁ。年の差も同じだしね」

 懐いている野鳥の頭を撫でながら、サワは嬉しそうに言う。

 サフィルイアの懸念通り、想いはまったく通じていなかった。

 


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