第十九話~最期~
いよいよ決着です。
ざわざわと、森の木々が揺れている。
龍とジンは、島にある唯一の建物、敵のアジトの前に立っていた。建物の中へと踏み込む。
少し歩くと、龍一郎が立っていた。手には、短剣が握られている。
「ずいぶんとタイミングがいいな。わざわざ殺されにきてくれるとは」
「………」
龍は目を細めた。
「それは、神城さんを刺した………?」
「そうだ」
龍一郎は答える。
「ひとつだけ聞きたい」
龍は淡々と話す。
「神城さんを刺したとき、あなたはなにを思った?」
龍一郎は眉をひそめる。
「なにを?ふん、愚問だな。なにも思うはずがないだろう、我が息子よ」
「………」
ジンが不快そうに眉間に皺を寄せる。
龍はきっぱりと言い捨てた。
「僕はもうあなたの息子じゃない」
その言葉に、龍一郎は怒るどころか、逆に笑った。
「私の方こそ、異能者の息子など、持った覚えはない」
「そう」
龍は懐から折り畳みナイフを取り出す。ジンが持っていたものだ。龍はナイフの切っ先を龍一郎に向けると、いい放つ。
「僕はこの戦争を終わらせる。神崎龍一郎、あなたを殺してっ」
龍は駆け出す。目指すのは、龍一郎の懐だ。
龍一郎は短剣を鞘から抜くと、応戦にかかる。
「………」
ジンは離れた場所でそれを見ていた。龍がそうしてくれと頼んだからだ。ジンは、この戦いに手出しをすることはできない。
龍の繰り出す攻撃を、龍一郎は軽々と避けていた。
しかし、龍は龍一郎の攻撃を避けきれない。
龍の体には、段々と傷が増えていった。そうして、龍はあることに気がつく。
「傷が、治らない………?」
いつもならすぐに治るはずの傷が、治らない。
ジンは息を飲む。龍の体の異変は、離れた場所にいたジンにもわかった。
龍一郎はにやりと笑う。
「この短剣は特別でね。君の不死身体質は、この短剣の前では無効だよ」
「………っ」
ジンは舌打ちした。不死身体質が無効になった龍の戦闘能力はもはや、ただの人間と変わらない。それでは、龍一郎には勝てない。
「おい、神崎」
ジンは声をあげる。
しかし龍は首を横に振った。
「いい」
「だが………」
なおも言い募ろうするジン。しかしその声は、龍の眼光の前に消え失せた。
龍は勝ち目がないないのがわかっている。それでも、諦めていなかった。どうして諦めずにいられるのか、ジンにはわからない。
ジンはもう、なにも口出しできなかった。
龍と龍一郎の攻防は続く。相変わらず、龍の傷は治らない。それに反して、傷の数は増えていった。
龍一郎は、息も乱さずに言う。
「そろそろ、おとなしく殺されてはどうだね?」
「断る」
息を切らせた龍は、それだけを即答した。
「僕は、絶対に、みんなの仇をとる」
「くだらん」
龍一郎は吐き捨てるように言った。
「お前たちのような人間ではないものが、仲間意識を持つなど、実にくだらない」
そして短剣を構える。
「次で最後だ」
「………っ」
龍もナイフを構える。
「………っ」
ジンは息を飲んだ。
ふたりの距離があっという間に縮まる。
短剣とナイフがぶつかり合った、そのとき。
「………っ」
龍がバランスを崩した。
龍一郎はその隙を見逃さない。
「………!」
龍一郎の短剣が、龍の体を貫いた。
龍が目を見開く。
龍一郎はにやりと微笑んだ。
「終わったな」
しかし。
「………っ、まだ………だっ」
微笑んだのは、龍も同じだった。短剣の柄を掴んでいた龍一郎の右手首を、自分の左手でむんずと掴む。そして、至近距離からナイフで龍一郎の胸を刺し貫いた。
「………っ、がっ」
龍一郎の口からうめき声がもれる。
ふたりは同時に倒れた。
龍の体から短剣が抜け、傷口から血があふれでる。
「神崎!?」
ジンが龍のもとへと駆け寄る。龍の上体を抱き起こして、声をかけた。
「神崎っ、おい!」
「………」
龍は閉じていた目を開ける。
ジンはわけもなくほっとした。
しかし、油断はできない。傷口からは、絶え間なく血が流れている。
ジンは傷口をおさえた。
龍が途切れ途切れに言う。
「ねえ、ジン。僕は、ちゃんと、仇、とれたかな………」
「ああ」
ジンは止血を試みながら答える。しかし、血はいっこうに止まらない。
「そっか、よかった………」
龍の顔色がどんどん悪くなっていく。気を抜けば、意識を保っていられなくなりそうな状態だった。
ジンは止血を続けながら、懸命に声をかける。
「おい!神崎!おい!」
龍には死の影が迫っていた。
このときジンは、なぜ龍が絶対勝つと言い切ったのか、わかった気がした。
龍は最初から、死ぬつもりだったのだ。バランスを崩したのはわざと。もとから、自分が刺された直後の一瞬を狙っていた。
ジンの目からぽろぽろと滴が落ちる。ジンは自分でも気づかないうちに、泣いていた。それでも、声をかけるのはやめない。
「神崎っ、お前、勝ったんだぞ………?」
こんなところで死ぬつもりなのか。
ジンの涙が龍の頬に落ちる。
龍は閉じかけていた瞼をゆっくりと開けると、柔らかく微笑んだ。
「なに、泣いてんだよ………。ジン、らしく、ないじゃん………」
「………っ」
ジンは思い出す。雪子も死ぬときに、アスカに言っていた。「らしくない」と。
どうして人間はみんな、死ぬ前に笑うのだろう。
「………っ、そうだな」
ジンは無理をして笑った。ぎこちない笑みだった。笑ったのも泣いたのも、数年ぶりだった。
龍はもう一度笑うと、すっと目を閉じた。激しかった出血が止まる。
「………っ」
ジンは、声を殺して泣き続けた。
次回はエピローグです。




