第十六話~恋心~
「藤神さん!どこですか!?」
森の中に、龍たちの声が響き渡る。地球に着いた龍たちは、アスカを探していた。
「いたか?」
ジンが敵を倒しながら二人に尋ねる。
大声を出しているので、敵に自分たちの居場所がまるわかりだ。
「いない」
龍は短く答える。
「いません」
咲も答えた。両手からほとばしる炎が、敵を次々になぎ倒していく。
そのとき。
「いました!」
咲が声を張り上げた。そしてそのまま走り出す。
龍とジンも後に続いた。
三人の目指す先には、敵が群がっている。
その中央に、倒れたアスカの姿があった。
三人は、群がる敵を倒しながらアスカのもとへと向かう。
ジンがアスカのそばにしゃがみこむ。アスカは血まみれだった。ジンは彼女を抱えあげると、他の二人に向かって叫ぶ。
「戻るぞ!」
二人がジンに続く。しかし、敵は意外にも素早く追ってくる。
「ちっ」
ジンは舌打ちした。このままだと追いつかれてしまう。
すると。
「先に行ってください」
咲が言った。その場で立ち止まる。
「咲さん!?」
龍が声を上げ、ジンも立ち止まった。
咲は繰り返す。
「私のことは構わずに、早く」
「駄目だ!」
龍が咲の手を掴む。
しかし、咲はその手を優しく振りほどいた。
「ジンくん」
じっと、ジンを見つめる。
ジンは咲の意図がわかったのか、頷いて走り出した。振り返って、龍に叫ぶ。
「早くこい!」
「え、でも………」
「神崎くん」
咲が龍の名前を呼ぶ。
「行ってください。必ず、戻りますから」
そして、龍の背中を押した。
「………」
龍は渋々、ジンの後を追った。
咲は龍を見送ると、目を閉じる。敵の気配がする。それはどんどん近づいてきていた。
目を開けて、後ろを振り返る。
敵は、すぐ目の前にいた。
「ここから先は、通しません」
咲はそう言い放つと、両手を前に出す。手のひらに炎が生まれた。それを、ありったけの力を込めて敵にぶつける。
しかし。
「きりが、ない」
咲は呟く。一人で相手をするには、あまりにも敵が多すぎるのだ。
龍たちが走っていった方を見る。もう、宇宙船に着いただろうか。
咲は懐から爆薬を取り出すと、火をつける。導火線の先が赤くなった。
導火線が、少しずつ短くなっていく。
咲は再び目を閉じた。咲の周りを囲むように、敵が群がっている。
導火線が半分の長さになった。
咲の脳裏を、今までの光景が走馬灯のように流れていく。
龍と話した日々。龍のいなかった学校生活。龍との再会。月での日々。
戦うことを選んで後悔していないと言ったら嘘になる。
けれど。
「龍くん」
咲は目を開ける。
「ずっと、好きでした………」
目に涙を溜めて、呟く。
導火線がなくなるまで、あと少し。
「嘘をついて、ごめんなさい」
最初から、龍たちのところに戻ることは諦めていた。
ただ、龍が無事に帰れたら、それでいい。
「………さようなら」
導火線がなくなる。
大きな炎が、咲とその周りを包み込んで膨らんだ。
「!?」
大きな爆発音がして、龍は立ち止まる。振り返ると、後ろの方で煙が上がっていた。
確か、あそこでは咲が戦っていたのではなかったか。
「咲さん!?」
龍は色を失う。
「ちっ」
龍と一緒に立ち止まっていたジンは、舌打ちをした。
やっぱり。
ジンには咲が、囮になろうとしているのがわかっていた。でもあえて、龍にはそのことを言わなかった。咲も目でジンに、言うなと訴えていたからだ。
ジンは龍を急かす。
「行くぞ」
「でも………」
龍はなかなか前に進まない。咲が戻ってくると、信じているのだ。
そんな龍に、ジンは現実を突きつける。
「神村は死んだ。さっきの爆発が、その証拠だ」
「っ」
龍の瞳がひび割れる。龍は、自分の中でなにかが音をたてて崩れるのを感じた。
「………っ」
龍はのろのろと歩き出す。
ジンはなにも言わなかった。
龍の手には、咲の手の感触が残っていた。
次回、龍の決心、です。




