表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

文学

思い出のワンピース

作者: 純白米

 幼い頃のことはあまり覚えていない。まるでバラバラのパズルのように、記憶は断片的であった。ある少女とよく遊んだことは覚えている。でも、その少女の名前は知らない。今となっては顔もよく思い出せない。覚えているのは、少女と一緒にパズルで遊んだこと。そして、いつも着ていたワンピースがよく似合っていたことだった。


 その子とは、何日もかけてパズルを一緒に作った記憶があるのだが、完成した記憶はない。あと少しのところで、完成しないまま終わってしまっていた。理由は、私が引っ越しをしてしまい、その少女とは離れ離れになってしまったからである。そのパズルは、私が持って引っ越した。今でも大事にとってあり、ほぼ完成しかけているのだが、1ピースだけ足りていない。どこかに無くしてしまったのだと思う。そのパズルは、永遠に完成することがない。それはまるで、2人の思い出が永遠に戻らないことを表しているようだった。


 少女の連絡先は知らなかった。引っ越しをしてからは一度たりとも連絡をとっていない。再会の約束をするには、幼すぎたのだろう。そこまで頭が回らなかったのだ。心のどこかで少女のことがずっと気になってはいたが、私の記憶もあいまいなものである。きっと、少女も私のことなど、パズルの1ピースほども覚えていないだろう。


 現在、私には妻と1人の子どもがいる。子どもは、ちょうど私がその少女と一緒にパズルをしていたときほど、まだ幼い。私は、自分の思い出を重ねるかのように、子どもにもパズルを買って与えた。

 ある日、妻の『宝物入れ』と名付けられた箱の中を見る機会があった。そこには、妻が昔から大事にしているものが入っている。私が若い頃に妻にプレゼントしたネックレスや結婚指輪、子どもが初めて書いてくれた手紙などである。そこに、私はひとつのパズルのピースのようなものを見つけた。その瞬間、私は昔の記憶が一気によみがえってきた。


 ――そうだった。そういえば、私は少女とひとつの約束をしていたのだった。

「パズルはボクが持っていくけど、このピースは君が大事に持っていて。パズルを完成させるには、そのピースがなきゃだめなんだ。だから、ずっと持っててね。」


そう言って、パズルのひとつのピースを少女に渡したのだった。パズルのピースを渡しておけば、それを完成させるために、また一緒にパズルが出来ると考えたのだろう。

 私は、妻の持っていたパズルのピースを見て、私の記憶のパズルが一つになるのを実感した。


 もう、何十年経ったか分からないけど、今からでも遅くないかな。あのときの続きはさ。

思い出のひとかけら。妻が持っていた1ピース。私の妻は、ワンピースがよく似合う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最高、そのひとことにつきます。なんなんだこの敗北感は……くそう。 もう会えないと思いあきらめていたら、実はものすごくみじかにいた。何年もの時間を経て再開する。ってところがもうね、最高でし…
[良い点] 面白い [気になる点] 特になし [一言] 俺のもぜひ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ