☆その四
騎士団長からの指令から二日後、私達は魔王討伐に出発する事になった。
団長から受け取った指令書には、簡単に言えば”魔王を倒してこい”とゆう様な事が書かれていただけだった。
「情報も何も無しとはね」
「仕方ないのかも知れん。魔王が復活したとは言うが、誰もその姿を見てはいないしな。何処に居るのかも判らんのだろ?」
「そうなんだよねぇ」
頭を掻きつつ街道を歩く。
「王都で聞いてみた感じだと、東より西、それも北西の方が怪しいみたい」
「ふむ。その根拠は?」
「根拠、とゆう程のもんじゃないけどね。魔物の数が以前に比べて明らかに増えているそうだよ」
「成程。それなら無闇に進むより北西を目指した方が良いかもな」
隣りを歩くシグが小さく頷く。
「そうゆう事。とりあえずこの大陸の端まで行くつもりで進もうか」
「ん~。そうゆう事になるか。あまり気乗りはしないが」
「期限を決められている訳じゃないからね。早い方が良いとは思うけれど」
「そうだな」
そんな事を話しつつ街道を西へ向かって進んでいく。
「…ねぇ」
「…うむ」
二人して顔を見合わせる。
「美味くないな」
「…だよねぇ」
陽も落ちて、暗くなった空には星が輝きだす頃。
「やっぱりそのままじゃダメか~」
地上では焚火を囲んでシグと私、二人で夕食を食べていた。
まぁ、夕食とは言ってもそこら辺で捕まえた猪だか鹿だかを捌いて焼いただけなのだが。これが何と言うか。
「調味料も使ってないしな」
「せめて塩くらい持ってくれば良かったかね」
「出発の時はそこまで気が回らなかったからなぁ」
やれやれといった表情のシグがため息を吐く。
王都を出発してから二週間。初めの数日は持ってきた干し肉なんかを食べたりもしていたのだけれど、そんなに量がある訳でもなく。十日を過ぎる頃には携帯していた食料は無くなっていた。
「やっぱり干し肉は取っておくべきだったかな」
「もう食べてしまったんだから仕方ないだろう」
道中小さな村に寄る事ができたが、食料はあまり手に入れられず。かと言ってこの先何時まで続くか分からない旅の始めにお金を使うのも気が引けた。
「次の街まであとどれくらいで着くのかね」
ため息交じりに呟く。
「先日の村で聞いた話だと二週間位は掛るって言っていたな」
「うへぇ~…」
渋い顔をしつつ近くで採ってきた木の実を口に放り込む。
「材料は採れるんだがな」
「うん。散々騎士団で仕込まれたからね」
騎士団では、遠征先で食料が尽きた場合を想定してそんな訓練もしていた。お陰で食べられるもの、食べられないもの位は判る様にはなった。
「でも、料理できないんじゃあな」
「そうだよね~…」
そう、騎士団ではそこまで習わなかった。正確に言えば習っていたのだけれど、二人ともそちらの才能は無かったようだった。
「まぁ、街に着いたら何かしら調味料を買っておこう」
「そうだね」
「それまでは… 我慢だな」
「我慢だねぇ」
そんな事を話しつつ、焼いた肉を綺麗に食べつくす。勿体ないしね。
「とりあえず腹は膨れたな」
「ん~。もう入んないな」
焚火を囲んで一息吐く。
「さて。イリス、ちょっといいか?」
「ん、何だい?」
「腹ごなしに稽古付き合ってくれ」
「ほいほい」
荷物の横に置いてある木刀に手を伸ばし、立ち上がる。
「じゃぁいくよ」
「うむ」
一歩踏み出し上段から振り下ろす。それを私の物より一回り大きい木刀で軽々と受け流すと、そのまま横薙ぎに剣を振う。
「うっわ」
慌てて後ろに下がり剣を避ける。
「身体が大きいのにその速さは反則でしょ」
「実戦に反則もなにも無いだろう」
そう言いつつ、払った剣をすでに中段に構え直している。さすがにこれくらいじゃ乱れてはくれないか。
「それなら… これでっ!」
シグに向かって歩き出し、段々と加速していく。
「む!」
目の前で急停止して右に飛ぶ。
「やあっ!」
下段から切り上げるが、ギリギリの所で避けられた。
「まだ終わらないよ!」
シグの動きに合わせて間合いを詰め、上段から斬りつける。
「あまい!」
身体を捻り剣を避ける。そこへ横薙ぎに剣を合わせた。
「むぅ!」
ガコン! と木がぶつかったとは思えない音が辺りに響く。
「つーかまーえたっ」
「何て嫌な笑顔だ」
「嫌な笑顔とか… 傷付くなぁ」
「そんな事、想っても無いくせに」
「バレたか」
舌を出しておどけて見せる。
「まったく… 今度はこちらから!」
合わせた剣に力が込められ、弾き飛ばされる。
「何っつー馬鹿力っ!」
「いくぞ!」
離れた間合いが一気に縮み、シグの間合いに入る。
「おらぁっ!」
気合いと共に上段から大剣が振り下ろされるがそれを見切って左へ避ける。
「んっ」
剣が止まらずこちらへ跳ねる。大剣の長さも相まってこれは避けられそうもない。
「しからばっ」
剣で受け、勢いを殺さずに受け流す。
「あっぶないなぁ。その身体でその速さは反則だって言ってるじゃない」
「実戦に反則なんてないと言っているだろう」
お互いに口元が緩む。やれやれ、今日も永くなりそうだ。