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☆その弐拾


「そこから離れろぉぉおお!!」

 裂帛の気合と共に戦士がエンドめがけて突進して来る。そして振り上げていた大剣を水平に、エンドの頭を正確に狙って薙ぐ。

 大抵の魔物であればその一撃で絶命していたであろう斬撃は、あろう事かエンデに片手で受け止められていた。

「意外と速かったですね」

 戦士の顔が驚きの表情に変わる。おそらく彼自身、渾身の一撃だったのだろう。それを片手で防がれたのだ。驚かないはずがない。

「ぐっ!」

「先程の攻撃、中々の物でしたよ? 私には届かなかっただけで」

「アンタに言われても嬉しくないね」

「そうですか? 残念残念」

 愉快そうにエンドが笑っている。

「何をするつもりだ?」

「もう少しで終わりますから、待っていて下さい」

 勇者の頬に当てている手に、魔力が集中していく。

「何をするつもりだと聞いている!」

「…封印をね、するんですよ」

「封印、だと?」

「えぇ」

 ヤレヤレといった風にエンドが答える。

 そしてゆっくりと顔を勇者に近付けていく。

「おい、やめろ!」

「フフフ」

 勇者を光が包んでいく。その光はだんだんと強くなっている。

「うああああああ!」

 勇者の絶叫が森に響く。

「やめろー!!!」

 戦士の咆哮と共に、勇者に宿っていた光が拡散していく。

 光が完全に消えたその場所には、エンドと横たわる勇者が居た。

「はい、封印終了」

 ふう、っとエンドが息を漏らす。

「おい、イリス。おい!」

 戦士が勇者に駆け寄り、上半身を起こしながら声を掛けていた。

「ん… シグ、か?」

「! 気が付いたか。大事無いか?」

 戦士は勇者の身体を心配している様だが、何やら様子がおかしい。

「なん、だ、これ?」

「どうした?」

「身体が、動かな、い」

「何? ってお前、眼が紅くなって…!?」

 よくよく見てみれば、勇者の瞳が燃える様な紅い色に染まっていた。

「身体の傷は私が治しておきました。多少の回復魔法は使えるのでね」

 二人を見下ろしながら言葉を続ける。

「瞳の色が変ったのは、私が貴女に封印を施したからです」

「さっきも言っていたな。何を封印した?」

 戦士がエンドを睨みつけながら言う。

「以前にも話しましたがね。封印とゆうよりも、呪い、ですかね」

「呪い、だと?」

「はい」

 表情を変えずに笑顔で頷く。

「貴女はまだまだ強くなりそうですからね。ちょっとした試練の様なものですよ」

「試練だと?」

「ええ。何かしらの行動に対して通常の四倍の負荷が掛かるようにしたのです」

「四、倍の… 負荷…?」

 勇者が首を少しだけ傾けて、苦しそうに呟く。

「手を動かすだとか、走るだとか、そういった身体を動かす事はもちろんですが、魔法を使う際にもそれは適用されます。瞳の色が変ったのは、封印の証みたいなものです」

「くっ」

 エンドの言葉を聴いた勇者が身体を動かそうとしたが、上手く動かせないらしい。片手を上げることすら儘ならない様だ。

「傷は治しましたが体力までは元通りにはなっていないはずです。まだ安静にしていた方がいいですよ」

 勇者に笑顔を向けて話す。

「さて、今度こそは終わりですね。失礼しましょうか」

「はい」

 戦士が驚いた様にこちらを見る。どうやら私に気付いていなかったらしい。

「貴方もこの者に気付かない様ではまだまだですよ? 勇者殿は気付いていたみたいですけれど」

 エンドがこちらを見たまま告げる。戦士の顔には悔しさが滲み出ていた。

「戦士殿にも期待しているのですよ?」

 そう言って一歩、勇者達から遠ざかる。

「まて」

 去ろうとする私達に戦士が声を掛けてきた。

「何でしょうか?」

 振り返りもせずに聞き返す。

「何故殺さない? 俺達はお前に剣を抜いた。今敵わなくてもいずれはお前の首を取りに行くのだぞ」

「今殺してしまってはあの娘を誰が世話してくれるのですか? また別の者を探せと? 嫌ですよ、面倒臭い」

 やれやれ、といった表情で溜め息を吐く。

「それに勇者殿の成長が楽しみになってしまいましたのでね。暇潰しでもあります」

 そう言うと片手を空へとかざした。

「では、御機嫌よう」

 私達はその場から離脱した。今度こそ用事は全て終わった様だ。


「あれで良かったのですか?」

 勇者達との戦闘を終え、私達は本拠に戻った。今はエンドの自室に向かって歩いている所だ。

「ん?」

 歩みを止めずに顔だけこちらに向けて問い返してきた。

「戦士が言っていた様に殺してしまわなくて良かったのですか?」

「戦士殿にも言ったけどな。ただの暇潰しだよ」

「暇潰しにしては酷いですね。この先生きていけますかね」

「あの二人なら大丈夫だろう。そもそもあれ位でダメな様なら元から娘を預けたりしない」

「まぁ、そうですよね」

「あとは… そうだな」

 前に向き直り続けた。

「娘を預ける人間をまた探すのが面倒だからだよ」

 本当にそうなのだろうか。ふとそんな事を考えていてある事に思い当たる。

「……あの二人、似ていましたね」

 急にエンドが歩みを止めた。

「うわっ?」

 想わずぶつかりそうになったが寸での所で立ち止まれた。

「魔王様?」

「あの二人が… 似ている? …そうか? …そうか」

 そう呟くとこちらに向き直る。

「カンマよ。あの二人は…」

「はい?」

「…いや、何でもない」

 そして前に向き直り、再び歩き出す。

「?」

 何事もなかった様に再び歩き出す。


 カンマはあの二人が似ていると言った。あの勇者と戦士の事を言ったのか、それともあの娘の親の事を言ったのか。それは分からないが…

 確かに似ているかもしれないな。想い出してしまったよ。あの、四百年前の日々を。私にとって忘れられない日々の事を。

 だからこそ、あの娘には無事に生きてもらわなくてはいけない。この世界で。

「私は私の出来得る限りの事をして、あの娘に倖せを与えるだけだ。その障害になるものはすべて破壊する」



「魔王が戻りましたか」

「はい」

「やはり娘は一緒ではない様ですね」

「その様ですな」

「やはり勇者と一緒に居るのでしょう。中々信じられない話ではありますが」

「はい」

「早速勇者の居場所を探しなさい」

「はっ」

「居場所が確認できたらアレを向かわせますので、待機しているように伝えなさい」

「了解しました。…それでは」

「ええ、行きなさい」

「はっ!」

「魔王よ。貴方に絶望を与えましょう」

 とりあえずの一区切り。また少し書き溜められたら更新していく予定です。

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