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☆その拾九


「もう四百年も経つんですよ、兄さん」

 ふと昔の事を思い出して呟いた。

「…さて、と。おっと」

 視線を戻すと、話は終わったらしくエンドが森に向かって歩いている。どうやら先程到着した所に向かっている様だ。

「私も戻らないとな」

 森の中を通り元の場所へと戻ると、すでにエンドが待っていた。

「御無事ですか、魔王様」

「あぁ。 …しっかしお前は隠れるのがヘタだなぁ、カンマ」

「そうですか? そんな事を言うのは魔王様位ですが」

 気配を消すのは苦手ではない。魔王クラスでもなければ見破られない自身はあるつもりだ。だからエンドに言われても仕方ないとは想うのだが。

「そうか?」

「ええ」

「勇者にバレていたぞ」

「えぇ?」

 まさか、と想う。しかし思い当たる節はあった。あの時だろうか?

 一瞬視線を感じたが、すぐにその感じも無くなってしまったので気にしていなかったが…

 あの勇者、それ程の手合いだとゆう事か? 馬鹿な。魔王クラスだなどと在り得ない。首を振って否定する。

「とにかく。用事は済んだのでしょう? なら早く戻りましょう」

「いや、まだだな。もう少し掛かる」

「え? 何かやり残した事でも?」

「どうやらそうらしい」

 エンドはそう言って歩いてきた森の闇の中を見つめる。

「? ……!!」

 ややあって、その闇の中から人影が浮かび上がる。

「あ、まだ居てくれたんだね。良かった、もう帰っちゃったかと想ったよ」

 そしてその人影は、ゆっくりと前へ進みながら続けた。

「それとも…… 待っていてくれたのかな?」

 月明かりに照らされた人影は、先程見かけた勇者の姿を映し出していた。

「お前…… 勇者!?」

「ん? あぁ、そっちは森の中に居た魔族だね。お勤めご苦労様?」

 まさか、と想う。完全にバレていただと!? 人間程度が魔王と同等の力を持っているとでも!?

 いや、しかし。考えてみればお嬢だって人間の身でありながら、エンドに匹敵する魔力を内包しているのだ。在り得ない話ではないのか?

「あれま、黙っちゃった。あんまり喋らない人なのかな?」

「…人ではないがな。話すのが好き、とゆう訳でもないが」

「ふぅん、そっか」

 たいして興味が在る様でもなく、勇者はそう答えた。

「それで何の用だ?」

「うん? あぁ、貴方には用事は無いんだ。そっちの魔王さんに、ちょっとね」

 先程から互いに視線を外す事無く見つめている。私と話している時ですら、それは続いていた。

「私に用事ですか? さて、何でしょうね」

 想わず噴出しそうになったが、何とか堪えた。

 あのエンドが他人と話すのに丁寧な言葉を使っている? 初めて聞いたぞ。

「うん。せっかく遠路はるばる来てくれたのだから、お土産位持っていってほしくてね」

「お土産ですか。そんな気を使わなくて結構ですよ?」

「まあまあ。そんな事言わないでさぁ」

「! 魔王様!」

 勇者から感じられる闘気が膨らんでいく!

「もう少し遊んで行きなよ!!」

 言うが早いか。勇者は鞘から素早く剣を抜き去ると、下段に構えて走り出す。

 段々と速度を上げ、エンドにあと数歩とゆう所でその姿が掻き消えた。

「!? …!!」

 実際に消えた訳ではなかったが、そう錯覚する様な加速でエンドの目前まで瞬間的に移動していた。

 そしてそのままの勢いで下段から剣を切り上げる。

 ヒュンっと空気を切る音が薄暗い空間から聞こえてきた。

 エンドは下段からの切り上げを一歩下がって避けていた。しかしこれで終わりではなかった。

 勇者はさらに距離を詰め、上段から剣を振り下ろす。

 エンドがそれを右へ避けると、剣が途中で止まらずにエンドの方へと跳ねる。

 当たる! と想われたその白刃はエンドが冷静に手で受け流し距離を取る為か後ろへ跳ねようとする。が、様子がおかしい。

 一瞬の硬直。そこへ剣が走る。

「魔王様!」

 想わず声が出てしまった。勇者とエンドの距離は先程より離れている。

 安堵したのも束の間、よく見ればエンドの左腕から一筋の血が流れていた。

「決めるつもりで打ち込んだんだけれどもね。避けられちゃったか」

 エンドから視線を移さずに勇者が静かに呟いた。

「風…ですか。厄介ですね」

「あれま。やっぱり分かっちゃう?」

「ええ。まぁ、詳細には判りかねますけれど」

 剣を構えつつ、口の端を吊り上げながら勇者は続けた。

「実戦で使うのは初めてなんだけどね~。うまくいってるのかな?」

「それは終わってみないと分かりませんよ?」

「うん。それもそうだ」

 エンデも口の端を吊り上げながら答える。

 二人の会話から、どうやら勇者が風の魔法を使ったとゆう事は分かったが、どの様に使っているかまでは分からなかった。エンデは分かっているのだろうか。

 そんな事を考えていると、開いた距離を再び詰める為に勇者が走り始める。

「いやぁぁあああ!」

 段々と加速していき、先程と同じ様に突然姿が消失した。風の魔法を使ったのだろうか!?

「甘い!」

 声と共に左手を薙ぐと、エンドの前方が炎に包まれた。

 先程と同じ様に突っ込んでいたならこれは避けられまい。

 しかし、炎の壁の中に勇者の残骸は見えなかった。

「むぅ? …!」

 咄嗟に両手を交差させて魔力を集中させると頭上へ掲げた。そこへ間髪入れずに剣が振り下ろされた。

 辺りに金属同士がぶつかり合う様な乾いた音が響いた。

「くぅっ! これもダメかぁ~!」

 後ろに下がりながら勇者は呟く。

「いや、危なかったですよ。ギリギリでしたからね」

「うっそだぁ~。防いでたじゃない」

「いえいえ。これでも必死なんですよ?」

 そんな冗談じみた会話が交わされる。

 まさかここまでエンドと戦えるとは想わなかった。予想以上に勇者の力は高いらしい。

「でもね、次で終わりにしましょうか。あまり時間も無い事ですし」

「…あぁ」

 そして三度勇者は駆け出す。

 それと同時に今度はエンドも走り出す。

「!!」

 走りながら両手に魔力を集めているのが分かる。

 そして勇者の姿が消えるその時だった。

「ここです!」

 それと同時に両手を眼前で勢い良く合わせる。

「うわっ!」

 一瞬の出来事だった。エンドを中心に10メートル四方が爆炎に包まれ、辺りに突風が巻き起こる。

「見えましたよ!」

 空中の勇者目掛けてエンドが跳躍した。


 一体何が起こったのか。すぐに理解はできなかった。

 魔王に向けて走り出したら向こうも距離を詰めてきた。

 風の魔法を使って一気に加速。魔王の背後へ回り込もうとする。

 魔王から魔力の放出を確認。上空へ跳躍し、風を使ってさらに移動。 …しようとしたのだが、うまく身体が動かなかった。

「何だっ!?」

「風を使うのならば風を制御できなくすればよいのです」

 耳元でそんな言葉を聞いた。振り返るとそこには魔王の姿があった。

「熟練していればこの程度の風でも制御できたのでしょうがね。まぁ、経験不足… と言った所でしょうか」

「爆風でこちらの風を遮った…?」

「察しが良いですね。その通りですよ」

 魔王が笑顔で答える。そして腹部に痛みが走る。

「けほっ!」

 痛みで身体が、くの字に曲がる。そして背中から強い衝撃。

 驚く速さで地面が近付いてくる。


 エンドがゆっくりと勇者に近付いていく。すぐ傍まで来ているが勇者は起き上がれない。そりゃあれだけ魔力を込めた拳で殴られたらなぁ。

 勇者の脇にしゃがみ込んで片手を軽く頬に添えている。

 私は戦闘は終了したと想い、エンドに近付く。

「魔王様、今度こそ終わりですよね」

「残念。まだ終わっちゃいない」

「まだですか…」

「まぁ、これで終わりかもしれんが… それでは期待外れなんだよ」

「何ですかそれは…」

「こちらの話さ」

 やれやれ、と溜め息を一つ吐くと、森の中を移動する力を感じた。

「これは…」

「来たか。カンマ、少し下がれ」

「は、はい」

 その場から少し下がって様子を見る。その時だった。


「そこから離れろぉぉおお!!」

 物凄い勢いで森の中から人間が飛び出してきた。それは先程焚き火の傍に居た戦士だった。

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