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☆その拾七


「まったく! こんな時にどこをほっつき歩いてるんだか!」

 薄暗い廊下を足早に歩くと、廊下には自分一人の足音が響く。

「人間との争いが本格化しそうだってゆうこの時期に…」

 額に手を当ててため息を吐く。

 進んだ先、扉の横に武器を持った影が二つ見えた。

「魔王様を見なかったか?」

「いえ、我々は見ていませんが」

 もう一人に目を向けて首を横に振ったのを確認して男は答えた。

「そうか…」

「あの、またですか?」

「ああ、まただ…」

 額に皺が寄るのが自分でも判る。

「どうしてこう、あの方は突然居なくなるのやら。自分の立場を理解しておられるのか…」

「お疲れ様でございます」

 警備の苦笑いしている顔を見つつその場から離れる。

 本当に何処へ行ったのやら、まったく見当がつかない。せめて言伝でもしてくれれば良かったものを。

 いつもの事ながら万が一を考えなくてはならない自分の立場は、どうにも気苦労が絶えない。

 そんな事を考えていると後ろから声を掛けられた。

「あ、居た! カンマ様、魔王様が戻られましたー!」

 その言葉を聞き振り返る。

「分かった。で、今はどちらに?」

 歩きながら伝えに来た警備の兵士へ聞く。

「今は自室へ向かっていらっしゃいます」

「了解した。ご苦労」

「はっ!」

 兵士は答えると元の持ち場へと帰っていく。

 私はそれを視界の端に見つつ魔王様の自室へと足早に進む。

「毎度毎度あの方は…」

 自分の口から呪詛にも似た言葉が溢れてくるのが抑えられえない。

 そうこうしている内に魔王様の自室へと到着すると、勢い良く扉を開ける。

「魔王様! 戻られていますか!!」

 部屋に入ると、本棚の前で本を開いているエンドがこちらへ顔を向ける。

「ん、カンマか。どうした?」

「どうしたもこうしたもあるかー!」

 ドスドスと音を立てて近付いていく。

「勝手に居なくなるなとあれ程言っただろーがぁ!」

「あぁ、すまないな。忘れていた」

 涼しい顔でさらっとそう呟く。

 もう怒りを通り越して溜め息しか出てこない。

「んでどこ行ってた…… ってかお嬢はどーした?」

「あぁ、その事なんだが…」

 その時後ろで扉が開く音がした。振り返ると、宰相のテイルが部屋に入ってくる所だった。

「魔王様がお戻りになられたと聞き参りました」

「テイルか。どうした? こちらに来るとは珍しいな」

 開いていた本を閉じ、エンドがテイルに向き直る。

「いえ、本日の会議で魔王様が言われた事を確認したいと想いまして」

 そうそれだ。私もそれを確認したかった。まったく、勝手に先走りやがって。

「テイル様。魔王様はお帰りになったばかりです。また改めて…」

「カンマか。私は魔王様に聞いているのだ。口を挟むな」

「し、しかし」

「下がれ」

 冷たい視線がこちらを射抜く。

「…はっ」

 一歩下がり片膝を着く。

 テイルは改めて視線をエンドに向けて問う。

「改めてお聞きします、魔王様」

「何だ?」

「本日の会議で次期魔王に魔王様の娘を選んだとゆうのは本当ですか?」

 そう、それだ。私もそれを確認したかったのだ。

 会議が終わるとすぐに姿を消してしまって本人に聞くこともできなかった。

「あぁ、言ったな」

「そうですか」

 やれやれ、とテイルは溜め息を吐く。

「御自分の言っている事が分かっておいでですか? まだまだ幼いあの娘に魔王の大役が務まるはずが無い」

「流石に今直ぐに継承する訳ではないさ。それに長老連中にも同じ様な理由で反対された」

「当たり前です。そんな事が分からない魔王様でもないでしょうに」

「まぁな」

 表には出せないが大きな溜め息を吐く。

 そしてふと想い出す。そのお嬢はどこに居るんだ? いつもエンドの傍を離れずに居るのに。

「? そういえばあの娘はどうされたのですか? いつも傍に居るのに」

「預けてきた」

「預けてきた? 何処に?」

「勇者の所に」

 空気が凍り付くとはこの事を言うのだろうか。部屋の空気が変った。

「魔王様言っている意味がよく分かりませんが」

「ん、お前も耳が遠くなったのか? 勇者と言い、お前と言いそんな歳だったか?」

「……私の聞き間違いでなければ、娘を勇者に預けてきた、と聞こえたのですが?」

「あぁ、そう言った」

 呆れて声が出ない。そんな顔をしたテイルを見たのは初めてだった。あの宰相テイルがそんな顔をしている。分かる、分かるよテイル。私も同じ気持ちだ。いつもは敵同士だがこればっかりは同意する。だから私が代わりに言ってやる。この馬鹿魔王に。

「何をしてるんですかこの馬鹿魔王!! 我々が誰と戦争しているか分かっているんですか!?」

「人間だろ?」

 何を分かりきった事を… みたいな目でこちらを見る。いや、ふざけんなって。

「人間だろ? じゃないです! 敵に預けてどうするんですか!!」

「ん~、まぁ大丈夫だろうよ」

「何なんですかそれは。楽観にも程があります!」

 変な事をする魔王だとは想っていたが、まさかここまでとはね。

「わざわざ敵に弱味を見せるなど愚の骨頂です」

 冷静さを取り戻したテイルが静かに言う。

「やはり貴方に魔族は任せられません」

 冷たい視線でエンドを睨む。エンドはその目に怯みもせずにこう答えた。

「世の中を見てもらおうと想ってな」

「…何ですと?」

「そのままだよ。世の中を見て、そして自分で判断してほしかったから預けたんだ。それが勇者だったのは、その方が安全だと想ったからさ」

 人間だとて勇者ならばそう簡単に負けないだろう? とエンドは続けた。

「自分で見て、判断する。それ以上でも以下でもない。その時に魔王になる力が付いていれば、なお良い」

 エンドとテイルの視線が交差する。正直ここに居たくない。

「…成る程。会議の発言を取り消すつもりは無い、と?」

「そんな事言った憶え無いしな」

「分かりました」

 そう言ってテイルは一礼して静かに部屋を出て行く。それを見るとエンドは再び本を開く。

「よし、これにするか」

 本を閉じ、本棚に仕舞うとこちらを向いた。

「カンマ、椅子を四つとテーブルを用意してくれ」

「椅子とテーブル? 何に使うのですか?」

「ちょっと勇者と飯を喰ってくる。食材はこちらで用意するからお前はいいぞ」

「・・・何をするって?」

 部屋を出ようとするエンドに想わず問いかける。

「お前も耳が遠くなったか。もう一回言うか?」

「いえ、結構です」

 今度は隠さずに大きく溜め息を吐く。エンドはかまわず部屋を出て食料庫へと歩いていく。

「まったく、何を考えているんだ?」


 倉庫からテーブルと椅子を四つ選び食料庫へと運ぶ。そこには食材を選んでいるエンドの姿があった。

「魔王様、椅子とテーブルお持ちしました」

「あぁ。そこに置いておいてくれ」

 こちらも見ずにそう告げた。

「何をしているんですか?」

「うん? 肉をな。豚にするか牛にするか・・・」

「どちらでもいいじゃないですか」

 呆れた様な視線にも目を向けず黙々と選んでいる。

「そうでもないぞ。風味や食感も違ってくるしな。うーん、今回は牛にするか」

 そう言って奥から肉の塊を引っ張り出す。

「調味料も持っていかないとな。何があるだろう。…きっとないよなぁ」

 今度は手前の棚から何やら数種類の調味料の入った入れ物を持ち出す。


 暫くすると、エンドが椅子に座っている私の所へ歩いて来た。

「材料は選び終わったから、ちょっと出掛けてくる」

「…はい。もしかしなくても… 勇者の所ですね」

「もちろん」

 口の端を上げて、にぃっと笑う。

「もう止めはしませんがね。…お嬢の事、本当に大丈夫なのですか?」

「心配なら来るか?」

「付いていって良いんですか?」

「別に構わんよ。ただ、お前の分の飯は無いけどな」

「無くて結構です」

「そうか。なら木の陰にでも隠れていてくれ」

「そうさせて頂きます」

「よし、それじゃぁ行こうか」

 食料庫の近くに居る警備兵に外出する事をエンドの自室を警備している者へ伝令させる。

 そうしてエンドの言っている場所を思い浮かべながら魔力を開放する。この感覚はいつもながら慣れない。

 一瞬の暗転の後、視界に木々が生い茂る映像が映る。

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