☆その拾参
「少女は時の魔術師だったのです」
やはりそうなのか。
「本来”時”とゆう称号は、時の魔法を使える魔術師に与えられるものですが、永い時間が経つにつれ、本来の意味が転じて力を持つ者とゆう意味合いになっていったのだと想います」
「成る程ね~」
「実際魔力の暴走による物ではありますが、力の一端は顕現していますので、対外的にもそれが受け入れられていったのでしょう」
「勇者ここにあり! みたいな感じかな」
「そうですね。”時の魔術師”は力の象徴でもありますから、他国に対しての牽制にもなったのでしょう」
「嫌な話だ」
「ははは。よくある事です」
男は口の両端を上げて微笑んでいる。権力争いとかそうゆう話は聞いていて嫌になってくる。
「話に戻りましょう。何とか生きて戻れた私ですが、何分重症でしたので暫く療養せざるを得ませんでした。
時間だけは沢山あったので、その時に料理などを憶えましてね。そうやって日々を過ごしていました」
「ちょっといいか」
少し気になる所があったので聞いてみることにした。
「はい、何でしょう?」
「その女の子は自分が人間だって知ってるんだろう? よく一緒に住めたな」
「あぁ、それですか」
ふむ、と小さく頷いて、男は答えた。
「憶えていないのですよ」
「…憶えていない?」
「はい。正確に言えば、封印されている。想い出せない、と言った所でしょうか」
「…どうゆう事だ?」
何故そんな事態になってしまったのだ?
「魔力を封印した、と先程言いましたね? その時に一緒に封印してしまいました」
「何でそんな… いや、その方が良かったのか?」
どちらが良いのか俺には分からなかったが。
「だがそのお陰であの娘が居られるんだものな。良かったんだろう」
「お? シグも気付いたんだね~」
「? 何の話だ?」
眉根を寄せてイリスを見る。
「何の話、って… あぁ、そうゆう事か~。分かってなかったか」
そうかそうか、と何度か頷くイリス。意味が分からない。
「人と暮らしていた記憶が無かったから魔族と住めて、その子孫のあの娘が生まれたんだろう?」
「違うよ、シグ」
「えぇ、そうですね。違いますね」
イリスと男の顔を交互に見る。
イリスの顔には笑顔は無かった。男は笑顔ではあったがそれは作られた様な表情だった。
「何がちが… ん? 記憶が無い… 封印した?」
記憶を封印。最近聞いたはずだ。どこだったか。本当に最近……
「まさか……」
「やっと分かったかい?」
イリスはこちらを見ずに男の方を見たままそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! この話は四百年前の話だって、魔王、お前は言ったよな!?」
「言いましたね」
「それが本当ならこの娘が四百歳だってのか!? お前にはそう見えるのか!?」
「全く見えませんね」
ニコリ、と男は笑顔を見せる。
「だろう? 俺だってそうだ。だから話の女の子がこの娘な訳がない!!」
「ところがそれが嘘じゃないんですよねぇ。ハッハッハ」
「笑い事じゃねえだろ!!」
想わず怒鳴ってテーブルを叩いてしまった。
「おやおや、すみませんねぇ。怒らせるつもりではなかったのですが」
やれやれ、といった風に男は嘆息すると、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干した。
「これはね、呪いなんですよ」
空になったティーカップに温かいお茶を注ぐ。
「…呪い?」
「えぇ。正確には違いますが、呪いみたいなものです。
魔力を封印した… と言いましたが、実際には常にある魔法を使用している状態ではあるのです。それに大半の魔力を使っている為に、対外的に感じられる魔力がほぼ無くなっているのです」
「魔王並みの魔力をほぼ感じさせないって… どんな魔法だよ」
「先程”時の魔術師”の話をしましたね。時の魔術師だけが使える魔法が有ると。つまりはそれです。物に流れる時間を止める、とゆう魔法です」
「物の… 時間?」
「はい。例えば木の実にその魔法を掛ければ永久に腐らず現状のまま存在する、とゆう感じですね」
「そんな魔法聞いた事ないな~。本当にあるの? そんな魔法」
イリスが訝しげに尋ねる。
「さぁ、どうなんでしょうね」
男は入れ直したお茶を一口飲み込む。
「どうなんでしょう、ってのはどうゆう事?」
「その魔法が存在するのか私には分からないのですよ。これまでの時の魔術師達ですらその魔法を使えた者は居ないのですから」
「そうなのか? じゃぁ、あの娘に掛かっている魔法は…」
「あれは物に流れる時間を遅くする魔法です。止まっている訳ではないのですよ。
その証拠に身体は成長しています。あれでも随分身長は伸びたんですよ?」
男は嬉しそうにそんな事を語っている。
「魔力を封印した時って幾つだったんだ?」
「確か十歳でしたかね。大まかにですが、百年掛けて一つ歳を取る感じですかね」
「百年掛けて一歳分かよ」
「最初はもう少し早かったんですけれどもね。時間が経つにつれて少しづつ遅くなっているみたいです。魔力がさらに高まっているのか、魔力の制御が出来てきたのか、その両方かもしれませんが」
物に流れる時間を遅らせる、か。確かに時間を止めるよりも劣る魔法ではあるかもしれないが、これだって相当な魔法であるのは間違いないだろう。魔法に詳しくない俺にだってそれくらい分かる。
「まぁ、その魔法にほぼ全ての魔力を使っているので普段使いの魔法は初級の基本魔法くらいしか使えないのですがね」
ハッハッハと男は笑っている。
「もしかしたら、以前に存在した時の魔術師はわざと時を止める魔法を使わなかったのかもしれませんね」
「ん? あぁ、そうゆう事か」
「えぇ、そうゆう事です」
何となくだがこれは分かった。
つまり、折角自分に流れる時を止めても使える力がほぼ無きに等しくなってしまうのでは意味が無いとゆう事だろう。
しかも魔王並みの力でも流れを遅くする魔法で空っぽになるんだ。これが完全に流れを止めるのだとしたら、一体どれ程の魔力を必要とするのだろう。
「何はともあれ、そうして今日に至ります」




