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☆その拾弐


「どうしたんだ?」

「あぁ、いや。歳を取ると駄目ですねぇ。昔の事が色々想い出される」

 空へ向けていた視線をこちらに下ろして男は続けた。

「ええと、何処まで話しましたかね」

「村が全滅した所、かな」

「あぁ、そうだった。それでは話の続きです」



「私も魔族の軍を連れて村の近くまでやって来ていたのですが、国軍の進撃は想ったよりも速く、結局間に合いませんでした。

 私は指揮を部下に任せると村の周りを探し始めました。どれくらい経ったか分かりませんが、村人が倒れているのを見つけました。その人が言うには少女が何人かに追われている事、何人か一緒に逃げているが追っ手が手強く追い付かれそうだった事を言うと息絶えました。

 私はそれを聞いてすぐに追いかけました。生まれた時にはある程度だった魔力も、数年経った当時にはすでに私と同程度のものになっていましたし、それを全て隠す事は出来ていませんでしたから見付けるのは簡単だったはずでした。

 しかし、いつもならすぐに分かるはずのその力の場所が、魔術師達の妨害でぼやけてしまっていたのです。

 やっと見付けて追いついたと想ったその時でした。少女と一緒に居た女性に剣が突き立ったのです」

 影になっていて男の表情は見えないが、その語気には怒りが篭っている様に感じられた。気のせいだろうか。

「その時でした。突き立った剣を少女が見た時、まるで頭上から重りを乗せられているような感覚に陥りました。その異変は私だけではなく少女の周辺でも起こっているようでした。

 次の瞬間少女の周りに居た兵士達が弾かれる様に吹き飛びました。何が起こったのか分かりませんでしたが、改めて少女を見るとはっきりと確信できました。

 少女は魔力を暴走させていたのです」

 顔を上げる事無く、淡々と男は話している。

「魔力の暴走…?」

「えぇ。魔力を制御出来ない魔術師に成り立ての方にはよくある事です。しかしこの場合は規模が違います。

 普段は不完全でも抑えていたものが、女性の死を切っ掛けに出来なくなってしまったのでしょう」

「その女性って…」

「さぁ、話の続きです」

 俺の問い掛けが聞こえなかったのか、男は話を続けた。

「うずくまる少女に近づいて声を掛けますが何も聞えていないようでした。そして少女の魔力もどんどんと膨れていくのが分かりました。

 私は少女の魔力を封印することにしました。触媒が必要だったので、私が掛けていた片眼鏡を使用しました」

「ん、その片眼鏡って、あの娘が付けてるヤツかな?」

「その辺のお話も後で出てきますのでもう少しお待ちを」

「ふむふむ」

「さて、続きです。片眼鏡を少女に掛けるとそこへ魔力を注いでいきます。少女の魔力は私をも超えそうな勢いで増大していました。実際超えていたのでしょう。

 結果として封印には成功しましたが、魔力の暴走の余波で辺り一面が跡形も無く吹き飛びました」

「うわっ」

「一面って… どれくらいだったんだ?」

「そうですね… 少女の村を含めて山一つ分位は無くなっていましたね。後で見た時には」

「そんなにか!」

「はい」

 男は口調も変えずに淡々と続ける。

「そんな惨事が起きたくらいです。もちろん人間、魔族共に被害は甚大でした。

 私も魔力の大半を封印に使ってしまったのと、爆心地に居た影響で重症を負って動けませんでした」

「山を消す爆発の中心に居て重症で済んだのか。どうなってんだ」

「フフ、身体は丈夫でしたから」

「丈夫で済む問題なのか」

 想わず呆れた声が出てしまった。男は軽く笑っていた。

「そうは言ってもひどい状態でした。そのままであれば死んでもおかしくは無かったですね。

 意識を取り戻した私は辺りを見回すと少女が倒れているのを見つけました。何とか近づき様子を伺うと、怪我などはしていなかった様でした。

 私は少女を連れてすぐにその場を離れる事にしました。とゆうのも人間の生き残りが近づいてくるのが分かったからです。

 私は近くに来ていた魔族を私の身代わりにしてその場を脱出しました」

「身代わりは必要だったのか?」

「仕方ありませんでした。私が来ている事は人間側に知られていましたし、こちらに向かっていたのも見られていましたから。あの爆発で死んでいれば良し、そうでなければ討ち取る機会であるのは明白でした」

「あぁ、確かに。敵の大将が前線に出てるんだものな。しかも負傷している可能性もある。好機だね」

 イリスがうんうん、と頷いている。確かにそうだろう。

「それでいて人間側も戦力を残していたらしく、ある程度以上の力を持った人間がまだ残っていたのです。

 普段は歯牙にも掛けない相手でもこの状態では致命的でした。

 その判断は正しく、身代わりにした魔族は倒されてしまいました。上位の強さを持った魔族だったのですがね。あのままでしたら私は確実に殺されていた事でしょう」

「そんな精鋭が居たのか」

「えぇ。むしろ魔王討伐の戦力で村を潰しに来ていたようです。抑えられていたとはいえ、少女の魔力は上級魔術師が束になっても超えられない位にはなっていましたから」

「成る程な。本気だった、とゆう訳か」

「はい」

 男は静かに頷く。

「そして私を討ち取ったとした人間達は王都へ戻ると勇者として讃えられる様になりました。その人々が後に”時の勇者”と呼ばれるようになったのです」

「それがあの御伽噺の…」

「はい。真相です」

 男は顔を上げ話を続けた。

「私は拠点へ少女を連れて戻りましたが暫くの間動くことが出来ませんでしたので、魔族を動かすことが出来ませんでした。

 しかし魔王討伐を隠れ蓑にすることで時間を稼ぐことに成功しました」

「それで復活できた、と」

「はい」

「その女の子はどうしたの? 元々その娘が目的で軍が出てきたんでしょう?」

 イリスが変わらず頭の後ろに手を組んで、視線だけ男に向けて質問する。

「運が良かったのか。いや、良かったんでしょう。私が魔力を封印したことで少女の魔力を感知出来なくなった人間達は、少女も爆発に巻き込まれて死んでしまったものとしました。

 その後、現地に調査は何度か着ていたみたいですが何も成果が得られなかった様で、そう結論付けたみたいですね」

「そうだったんだ」

「えぇ。助かりました」

 男がにこりと笑う。

「少し気になったんだが」

「はい、何でしょう」

 男がこちらに視線を移す。

「何で”時の”勇者と呼ばれるんだ?」

「ふむ、そうですね」

 男は顎に手をやって、少し考え込む。

「まぁ良いでしょう。お二人は時の魔術師とゆう存在を知っていますか?」

「時の… 魔術師?」

 イリスに視線を向ける。首を横に振ってイリスが答える。

「いや、知らないな」

「そうですか。では説明しましょう。

 魔術師が使う魔法と呼ばれるものには幾つかの系統があるのはご存知ですね?」

 二人して小さく頷く。

「はい。火や水や風、治癒などでしょうか。所謂属性といったものですね。

 では、時は何かと言いますと」

「時間を操る…?」

 そんな魔術師など聞いたこともなかった。

「字面を見るとそうなんですけれど。実際には空間を操る、と言った方が近いのです。例えば身体の能力を一時的に強化したりですとか、物を浮かせたりするとか」

「それは…」

 それだけ聞くとそんなに強力には聞えないのだけれど。確かに身体能力を強化出来れば戦闘には有利だが。

「そうです。そういった効果は多少の違いは有れど、どの属性にも似た物が存在します。

 しかし問題なのはこの種の魔法を使える者がほぼ居ないこと、そして使えるものはすべからく強大な魔力を有している事なのです」

 強大な魔力… だと? まさか。

「まさか…」

「ええ。少女は時の魔術師だったのです」

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