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☆その拾壱


「そんな生活が数年続きました。強引に連れて行く意志が無いのが分かったのか、村人に妨害される事は無くなりました。赤ん坊の両親からも話があったみたいです。

 私はいつしか二人や村人の手伝いをしたり赤ん坊の子守りをしたりする様になっていました。

 ある時ふいに、お前さん良い笑顔してるよ、と村人の誰かに言われたりして。自覚は無かったのですがね。その生活が楽しかったのでしょうね」

 聞けば聞く程この男が魔王とは想えなくなってくるなぁ。お茶を一口飲みながら、そう想う。

「あぁ、もう赤ん坊ではなかったですね。その少女は大きな病気や怪我をするでもなく元気に育っていきました。相変わらず強大な魔力も持っています」

 少女と聞いてイリスに視線を向ける。向こうも何か感じたのかこちらを見ていた。

「その件については後程。話の流れで説明しますので」

 視線の意味に気付いたのか、男がそんな事を言う。

「世界も相変わらず魔族と人間は争っていました。そして人間はついにその少女を見つけてしまいました」

 男の声が少し低くなった様に感じた。気のせいだろうか。


「ある時、いつもの様に村を訪れると先客が居るとの事で村人に引き止められました。聞けばこの国のお偉いさんの使いだ、とゆう事でした。あんた的にもそれはまずいだろうともその村人は言っていましたが、確かにそうだったので有難く忠告を受け入れて国の使者が出て行くまで時間を潰しました。

 数刻過ぎたくらいで使者は帰っていきました。私はやっと帰ったか、と少女の家に入りました。

 家には暗い表情をした三人が居ました。

 何事があったのかと問いただしてみれば、魔王を倒すためにこの娘の力が欲しい、とのことでした。国の魔術師がこの少女の力を感知して露見してしまった様でした。

 少女は身に宿る力を隠しきれていません。力の抑え方は教えたのですが、隠す力が強すぎてどうしても抑え切れませんでした。

 二人は使者に断る意志を示したのですが、使者はそれに対してこの村の事がどうなるか話したそうです。

 つまり協力しなければ村を潰す、とね」

「なんだいそれ」

 呆れた様にイリスが呟く。

「あながち間違いではないのですよ。味方にならない強い力は何時自分に向かってくるか分かりませんからね。いっそ味方にならないなら消してしまうのも有りです」

 男は俺が見た限り、初めて忌々しそうな表情をして言葉を紡いだ。

「男性は一家族では答えられないと使者に伝えた所、三日経ったらまた来ると言って帰って行ったそうです。

 二人は私に少女の傍に居てくれと言い、村長の所へ向かいました。少女の表情は暗く俯いたままでした。

 二人とも暫く黙って座っていましたが、少女がぽつりと”あなたとも戦う事になるの?”と言いました。その瞬間背筋を冷たいものが走りました。

 今の今まで忘れていたのです。人間と戦う事はつまりこの少女とも戦う事になるのだと。

 私は答えられませんでした。戦う事に恐れはありませんでしたが、この少女と戦う事がこれ程に恐ろしいとは。失う事を恐れているとは」

 男の組まれた手に力が込められているのが分かる。

「何時の間にか家族になっていたのかもしれませんね。魔族にその様な感情があるのかは、未だに分かりませんが。

 おっと話が逸れましたね。村の意見は国に協力しない方向に決まったそうです。驚く事に、誰一人として反対する人が居なかったそうです。そして三日後に再び現れた使者にそのことを告げると一言、非国民め! と言って帰って行ったそうです。そしてこの村は人によって滅ぼされる事になりました」

 男の表情はよく見えないが、淡々と言葉を綴る。

「人間の大軍がその村に向かって来たのは四日後の事でした。私達も大軍を率いて出陣しました。その村を守る為… ではありませんでしたが、少女を人間側に連れて行かれるのはこちらとしても非常に不味かったのです」

 男はそう言うと空を見上げた。




「私達も軍を連れて一緒に闘うのはどうだ」

「確かにそれは心強いのだがな。だが、おまえ達が一緒に闘えばあの子の居場所は無くなってしまうだろう。この世界では人と魔族が共存していくのは難しいんだよ」

「それは、そうだが…」

「おまえの気持ちは有難いんだ、本当に感謝している」

「なら、俺だけでも」

「駄目だ」

「向こうは数千の軍を引き連れている。こちらは村人せいぜいが二百人程度だろう」

「そうだな」

「なら!」

「…分かってくれ」

「…! …!!」

「……」

「……」

「あぁ、そうだ」

「何だ?」

「おまえ、交渉人だって言ってたけど、あれ嘘だろ」

「!」

「ははっ、やっぱりな」

「どうしてそう想う」

「ん? 何つーかな。持っている力もそうだが、雰囲気がな。さっきも軍を動かすって言ってたから、それなりの地位のヤツなんだろうな、と」

「……」

「おまえに最初逢った時は、あ、俺死んだと想ったよ。なんせ力むき出しだったからな」

「……」

「それがどうだよ。付き合ってみれば何て事はない。人間と同じだった」

「人間と… 同じ?」

「あぁ。おまえにしてみれば人間と同じにするなって言いたいだろうけどな。ま、力を持っている時点で人間とは違うかも知れんが」

「……」

「楽しかったぜ、この数年。あの子が生まれて、おまえが現れて」

「……ろ」

「村の人達とも仲良くなってくれて、畑作るのに切り株抜く時に手伝ってもらったよな。皆感謝してたんだぜ。ありがとう、ってな」

「…めろ」

「あの子の傍に居てくれてありがとう。お陰で大した怪我もなく育ってくれた。何時だったか木から落ちた時も受け止めてくれたな。あの時は助かったよ。そうそう、おまえに目を離すなって怒られたっけ」

「やめろ」

「まぁ、出来ればもう少し見て居たかったけどな」

「やめろ!」

「……」

「……」

「俺が戻らなかったらあの子の事、頼んだぜ。おまえならあの子に倖せを与えてやれるだろうからな」

「おい!」

「じゃあな、親友」


「君もそれで良いのか」

「えぇ。あの人が決めた事ですから」

「しかし!」

「…知っていますか?」

「…え?」

「私達はあなたの事が好きなんですよ」

「……」

「あの人も、私も、もちろんあの子もね」

「……」

「だからあなたに託すのです。私達の未来を」

「それは…君達も居てこその…」

「私達は親ですからね。子供の未来を守るのは当然です」

「なら、俺も」

「いいえ。私達が居なくなったら誰があの子と一緒に居てあげられるのです」

「俺は血の繋がりがある訳じゃない。なおさら君達の方が…」

「あなたは既に私達の家族です」

「かぞ…く…」

「そうです。フフ、知らなかったですか?」

「……」

「だから私もあの人も、安心してあの子を預けられるのです」

「……」

「だからと言って死ぬつもりもありませんよ」

「…ああ」

「だから、あなたもどうかご無事で」

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