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Dirct Infomation

     文夫は墓石の側面を確認しようかどうか迷った。奈緒さんが描いた

    とおりここに確かに(綾瀬家之墓)はある。しかし、それだけでは十分では

    ない。やはり確認することにした。陳腐な事だが例え1/10000でも自

    分に逃げ道を残すわけにはいかない。

     と考え方は勇ましいのだが実際には情けないほど文夫は小心者だった。

    墓石の正面より少し右よりから覗いて見る。その文字が確認できそうになる

    と慌てて墓石の正面に戻る。それを何度か繰り返した。しかし、何度目だ

    ったろう。見えた。見えてしまった。

     俗名、逸美・・享年23才  平成24年2月18日

    文夫は墓石の正面にまわった。逸美の文字を指でなぞった。自分でも驚くほ

    ど穏やかな気持になった。もう逃げられない、逃げなくていい。受け入れざ

    るをえない現実が今目の前にあった。記述に間違いはなかった。そう、これ

    を確認しに来たのだ。

    

     ネックレスをどうしよう。墓石の上に小石を置いてネックレスを垂らして

    みた。いくらなんでもあかんやろ。水入れの窪みに入れた。

    「まあ、こういうのは気持ちの問題やからな」

    「それでも、それは、あかんやろ」

    「????」

    綾瀬の声が聞こえた気がした。まさか

    「綾瀬・・さん・・・い・・る・・・・の?」

    「2月20日からずーーっとここにいるよ!」

    「・・・・」

    また涙が込み上げてきた。自分は気が振れたのではないか、それでもかまわ

    ない。この会話を続けたい

    「おそなってごめんな」

    「ほんまやで・おそすぎ、・・まあうちが奥さんに言わんといてって言うた

     からけどな」

    綾瀬が墓石の前に姿を現した。白いブラウスにオフグリーンのジャンパース

    カート、アロームのユニホーム姿だった。

    「やっぱり最後はこの格好かな」

    「ずっとここで待ってたん?・・ていうか僕が来るようにっ仕向けた?・・

     (Again)も(ジャック)も綾瀬さんが描くように仕向けた?」

    「あれは、うちが描いたようなもんや実際うちが著者になってるやん・・・

     あ・・印税入ったらお酒いっぱい持ってきてな」

    「懲りん人やな肝硬変やったんやろ」

    「せやから最後、全然飲まれへんかったんが心残りで、どうせ死ぬんやった

     ら最後は浴びる程飲みたかったわ」

    「お盆に墓参り来た時もここに居たんや・・何も知らんかった」

    「マスターのご実家の墓・・立派やなー・・あ・駐車場のとこに文夫って書

     いてる墓ってマスターの墓なん?」

    「そうや、昔はうちの墓あそこにあってんけど今の場所に移ってん300年

     家系が続いた事がはっきりしてないとあの形の墓にできんそうや、まあ、

     300年続いても金が無かったら造れんけどな・・で空いた場所に、僕と

     弟の仮の墓ができたという事」

    「ほんだらマスター死んだらあそこに入るんや、もうすぐやな楽しみに待っ

     てるわ」

    「・・・なんか意味深やな、奈緒さんはあそこには入らんって言うてるけど」

    「奥さんはまだまだですよ」

    「何かえらいリアルやな、そんなん分かるん?」

    「規定に触れるおそれがあるので、お答え出来ません」

    「えーーーーー!!!」

    「嘘やって。そんなん、うちも分からん」

    綾瀬は文夫に右手を差し出した

    「さわってみて下さい」

    文夫は恐る恐る右手で綾瀬の手に握手する様に触れてみた。怖かった。

    今、確かに見えている彼女の手を自分のてがすり抜けていくのではないかとい

    う気がした。

    文夫は綾瀬の手を握った。小さくて冷たく柔らかい。そして美しい彼女の手が

    確かにそこにあった。左手も添えて彼女の手を包み込む。その上に彼女も左手

    を添え二人は手を取り合う形になった。

    「あ・・・・」

    文夫の中にある感覚が鮮明に蘇った。バレンタインのあの夜の感覚だった。

    「そうです、あの夜の感覚を今、マスターの脳から記憶を引き出したんです。

     今、ここにうちは実在しないんですよ。マスターが見てるうちの姿も聞いてる

     声もマスターの脳に直接うちが情報を送ってるんです」


    「うちな・・・思うねん・・・マスターって・・・めっちゃ・・・・・・・・  

     ・・いけてないって」

    「何それ溜めといてそれはないんちゃうのん」

    「まず、顔がいけてないやん歯並びも悪いし身長も収入も学歴も低いその上

     仮性・・」

    「あ・・あれはフィクションやて奈緒さんも後書きに・・・」

     (キンコン・カンコーン・・キンコンカンコーン)

     どこかの学校のものであろう下校を促すチャイムが遠くから聞こえてきた

    綾瀬の掌が文夫の口を塞いだ、そして満面の笑顔になった。軽く顎をあげ文夫の

    背後を示した

    「道、空けんと通られへんで」

    小学校低学年位の女の子を連れた夫婦が見てはいけない物を見てしまったかの    

    ごとく目を丸くして固まっていた」

    「す・すいません、どうぞ・・」

    30cmしか幅の無い狭い通路を譲る為、文夫は墓石の台の上に上がった。ここ

    ではこれしかしかたない。文夫の前を夫婦は視線を合わさぬ様ひたすら下を向

    いて通り過ぎた

    「まだまだ暑いですねー」

    気まずさをごまかすように婦人が小声で言った。

    「ママ、このおっちゃん何で泣いて・」

    「シッ・・・そっち向いたらあかん」

    一刻も早くこの場を離れたいのだろう。子供を引きずる様にして夫婦は去った。

    文夫は口を覆った綾瀬の手に両手を軽く添えた彼女の手の冷たさや柔らかさを

    彼は口元と頬に感じた。目を閉じて彼女の手を感じる事に集中した。

    「もっといろんな情報送って欲しいな」

    「だめですよ変に思われますよ」

    その瞬間に彼女の手の感覚は消えてしまった自由自在という訳か。

    「自分の脳に自由に情報を送れる彼女に嘘など何の役に立つのだろうかと文夫は

     思った・・・・ですよね」

    綾瀬はそう言って文夫に微笑んだ。

    「参りました」


  


















































    

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