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I,ll be back

     千尋から預かったUSBのロックを解いた時、文夫は自分と綾瀬しか知らない

    であろうキーワードですっかりUSBの送り主が綾瀬であると信じ込んだが、今

    思うと(Again第9部)には綾瀬が知っているはずのない文夫の職場の事情が

    多く描かれていた。勿論それは奈緒さんが描いていたからなのだが、文夫は

    その事になんの疑問も抱かなかった。


     自分は奈緒さんが(第10部)で描いた通り、この世にはもういない綾瀬の

    意志で(Againをジャックを投稿していたのかもしれない。だとしたら、綾瀬

    の狙いは何だろう。自分はこの物語をどう締めくくればいいのだろう。

    とにかく今はこのネックレスを彼女の元に届けよう

     それでも文夫には未だに疑念があった。いや、墓なんかあって欲しくないと

    いう望みとも言えた。彼が望まない答えがまっている墓地に向かって、何時し

    か足は速まっていた。まずい、お決まりのパターンというやつではないか、叫

    びながら走るとでもいうのか青春ドラマじゃあるまいし。しかし思いとうらは

    らに彼の足は前へ前へと速度を速め、セッタ(サンダル)では少しきついのだ

    が、もはや小走りと言ってもよかった。

    「墓なんかないんや・・墓なんかないんや」

    と呟きながら、文夫は顔をクシャクシャにして号泣していた。

     

     墓地の麓のコンビニを残暑の強い西日が微かにオレンジ色に染めていた。

    「墓なんかないんや」

    大声で叫ぶ文夫にコンビニの駐車場で商品の搬入をしていた店員が気付いた時

    彼は完全に走っていた。交差点をショートカットする様に駐車場に斜めに入っ

    て来た。

     叫びながら走って来た文夫は駐車場で左足を挫いて転倒した。両手を前にバ

    タンと倒れこんだ拍子に左手のネックレスがとんだ。

     ネックレスを拾い立ち上がろうとした文夫の左足に激痛が走った。

    「あっ・・・」

    しまった骨折している。すぐに分かった。今年の初めジョギング中に挫いて全

    く同じ所を彼は骨折していたのだ。その時と同じ様な痛みを左足に感じていた。

    体重を左足にかける事ができず片足立っている文夫の状況を察したのか

    心配そうに近づいてきたコンビニの店員が

    「大丈夫ですか・・・?・・救急車呼びましょうか?」

    と携帯を出した

    腕と膝も擦り剥いて出血していた。

    「大丈夫です・・おかまいなく」

    文夫は慌てて手を上げて店員を制した病院など行っているどころではない。

    しかし片足跳びで去ろうとする文夫を店員もほおってはおけないようだった。

    「無理ですよ救急車呼びますよ」

    「お願いします、行かせて下さい、急ぎなんです」

    文夫の必死の形相に店員も圧倒されたようだ。

    「分かりました、用事が済んだらここに寄って下さい。救急車呼びますから」

    「ありがとうございます。そうさせて頂きます」

    礼を言って再び墓地を目指した。片足跳びで少しずつ進む

    「必ず帰って来て下さいよ」

    そう声をかける店員に向かって文夫は真直ぐ彼を見つめ真顔で左手の親指を立

    てて突き出した。

    「????」

    店員は何のことか分からず首を傾げていた。

    しまった、ダダ滑りだ。シュワルツネッガーのつもりだったのに、慣れない

    事はするものではない。恥ずかしくなって何事も無かった様にまた墓地を目

    指した。

    

     墓地までの一本道は車がぎりぎりすれ違うことが出来る程度の狭い道幅だ

    コンビニのある麓辺りは住宅街だが、50mも行くと道の両側は佛花の畑だ

    狭い道にガードレールも無く50cm程の段差があり畑より高い位置に道が

    あった。

     片足跳びで道を上がって行くと。ロードサービスのレッカー車が留まって

    いた。見ると道の左側の畑に軽自動車が引っ繰り返っていた。

    おそらく脱輪した拍子に下の畑に引っ繰り返ったのだろう。レッカー車の作

    業員らしきツナギの男性がドライバーらしき中年女性と話しをしていた。

    ドライバーに怪我は無いようだ。

     えらい事になっているようだが自分の出る幕では無さそうだ、彼に任せて

    おこう。彼等の横を片足跳びで墓地を目指した。

     

     大丈夫、日が沈むまでには下りてこれるだろう。片足跳びとはいえ墓地ま

    では、さほど時間が掛からなかった。しかし、そこからが大変だった。狭い

    石段の通路を片足跳びでは上がれない。約50mの狭い通路を尻餅を付いて

    一段一段後ろ向きになって上がっていった。

    「墓なんかない」と言い続けてきた文夫だが、ここまで来ると流石に観念し

    ていた。(第10部)を読み、奈緒さんの手紙を読みここまで来たのだ、墓

    はあるのだろう。涙がまた溢れ出た。とにかく綾瀬さんにネックレスを渡す

    その後の事は分からなかった。奈緒さんが(第10部)で描いた文夫の親戚

    の墓より5段上まで来た。腕の疲労は限界に近かったが急な斜面に通路が狭

    い、今の文夫には立つ事は危険だった。這う様にして8番目の墓にたどり着

    いた。

            

         綾瀬家之墓


    は確かにそこにあった。強い西日を浴びオレンジ色に染まっていた。


    





























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