表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

9話 評価と笑顔

遅くなりました……

短くてごめんなさい

 約半刻後。

 石窯からは甘くて良い香りが漂っていた。

 焼き色も良い具合だ。

 実はやや不安だったのだが、どうやら成功したようである。

「もう大丈夫みたいです。出してもらえますか? 熱いので気をつけてくださいね」

「はい」

 石窯から生地を乗せた鉄板を引き出してもらうと、周囲にふわりと匂いが拡散する。

 イアンもサーシャも、目を丸くして鉄板の上を凝視していた。

「これは……すごく良い匂いですね」

「焼く前も甘い匂いがしていたけど、ここまではしてなかったのに……不思議だわ」

「ただ甘いパンとも違うようですし……どうして……」

 思わずといった呟きがもれる。


 未知なるモノへの興味。

 良い傾向である。


「とりあえずは、これで完成ですね」

 私が言うと、どこからともなく歓声と拍手が沸き起こる。

 驚いて振り返ったら、裏庭にほぼすべての使用人たちが集まってきていた。

 いつの間に……。

 そこには母やパルドの顔まであった。

 ……仕事はどうしたんだろう。

 いや、私が心配せずとも有能な彼らのことだから、問題はないのだろうけど。

「おめでとうございます、お嬢さま」

「美味しそうですね!」

「良い匂いー」

 皆、口々に祝福の言葉をくれた。

 だが、その目は焼き菓子に集中しているのが一目瞭然だった。

 母も例外ではなく、興味津々といった様子でこちらに歩いてくる。

「シェリーナちゃん、あなたの作りたかったものっていうのはそれなの?」

「そうです、お母さま。砂糖をふんだんに使った甘いお菓子です。冷めてからのほうが美味しいかもしれませんが、今回は焼きたてを試食してみますか? もちろん、みなさんで」

 その一言で周囲の使用人たちが嬉しそうに声をあげる。

「えっ、わたしたちもよろしいんですか?」

「うわー、お嬢さまの手作りが食べられるなんて感激です」

「さすが、お嬢さま!」

「皆さんには材料集めや、石窯作りも手伝っていただきましたし。それに、これは試作品なので、いろんなひとの意見を聞いてみたいですから」

 お礼の意味もあるが、実は試食してもらうほうが重要だったりする。

 材料は前世であったものとほぼ同じとはいえ、まったく同一の食材であるとは限らない。

 一応、使用前に食材の味見はしてみたが、見た目と味が違っているものもいくつかあって、そのときは少し混乱した。

 例えば、リンゴのような色・形なのに、なぜかレモンの味がする果物とか……。

 かと思えば、まるっきり同じもの……イチゴがそうだった……もあったり。

 穀物類や塩・砂糖などはどうやら前世との違いはなさそうだったので、そのまま料理でも使用できそうだった。

「じゃあ、みんなでお茶にしましょう。サーシャ、お茶の準備をしてもらえるかしら」

「はい、奥さま。すぐにご用意します」

 かくして、ゼルフォード家のささやかなお茶会の開催が決まった。




 中庭でのお茶会という名の立食会。

 すぐさま簡易の机が用意され、そこに熱々のお茶と先ほど作ったばかりの焼き菓子が置いてある。

 一回目に焼いた量では足りなかったので、再度焼いている最中だ。

 焼くのは、どうやらコツというか、焼き具合を理解したらしいイアンに任せた。

 さすがは本職なだけあって料理に対する熱意は人一倍あるらしく、さっきも成り行きで手伝わされていたにもかかわらず、途中からは焼き加減について私を質問攻めにしたくらいだ。

 私が前世から引き継いでいる感覚を説明するのには少しだけ苦労したが、一言一句もらさず聞こうという姿勢は尊敬に値する。


 ということで、手の空いた私は母と一緒にお茶を楽しんでいた。

 そわそわしながら。

 母と私が居るのは使用人たちが輪を作っている机から少し離れたところに用意された専用席。

 気を使ってくれたのか、自分たちが気を抜きたかったからなのか……まあ、どちらでも構わないが。

「いただきますね、シェリーナちゃん」

「は、はいっ」

 母が焼き菓子を口に運ぶ。

 数度租借し、その顔には驚きの表情が広がっていく。

「あの……いかがでしょう、お母さま」

 ドキドキしながら訊いてみる。

 うかがうような視線を向けていると、母はにっこりと微笑んだ。

「とっても美味しいわ、シェリーナちゃん」

「あ、ありがとうございますっ」

 気に入ってもらえたらしい。

 うん、これは、思っていた以上に嬉しいかもしれない。

 ジャムは冷やしてからのほうが断然美味しいので、次はそれも一緒に食してもらおう。


 さて、他の人たちはと振り返ると、そこにあったのは母と同じく、驚きと笑みだった。

「このサクサクした感じがいいですね!」

「甘ぁい」

「おいひぃですー」


 どうやら使用人のみんなにも好評のようで、私はほっと息を吐いた。

 これなら、ゼルフォード家の外に広めていくのも問題なさそうだ。

 残る課題は、どうやって、ということなのだが……。

 まあ、追々考えていくとしよう。

 まずは再誕祭へ向けての更なる改良に専念するのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ