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悪役令嬢の誤算

悪役令嬢は、聖女を孤立させたい

作者: おかゆ
掲載日:2026/07/21

悪役令嬢の誤算シリーズ6

「ベル。」


「はい、お嬢様!」



午後のティータイム。

セレスティアは優雅に紅茶を一口飲み、静かに言った。



「聖女ソフィアを、孤立させてきなさい。」



ベルは勢いよく立ち上がる。



「ついに仲間外れですね!」


「ええ。」


「では教室に閉じ込めます!」


「却下です。」


「机を一つだけ離します!」


「却下。」


「お弁当を一人で食べさせます!」


「相変わらず、発想が浅いですわね。」



ベルは肩を落とした。



「孤立って難しいですね……。」



セレスティアは静かにティーカップを置く。



「明日は学園の集団演習。」


「はい。」


「班ごとに森へ入り、薬草採取を行うそうです。」


「そうですね。」



セレスティアは扇子で口元を隠した。



「その最中、聖女だけを班から離れた場所へ誘導しなさい。」



ベルは目を丸くする。



「確かに、一人ぼっちになりますね!」


「ええ。」


「仲間と協力もできず、成果も上げられない!」


「聖女の単独行動に、周りも迷惑するでしょう。」


「さすがお嬢様!」



その時だった。



「お役に立てそうですね!」



白い翼を揺らしながら、ルミエルが現れる。



「……また、盗み聞きをしていましたね。」


「はい!」


「それなら、分かっていますね。」


「もちろんです!」



ルミエルは胸を張った。



「聖女様が、お一人で頑張れるようにしてきます!」


「……。」



確実に、意図が正しく伝わっていない、

しっかりと訂正しなければ。



「任せてください!」



ところが、セレスティアが声をかける間もなく、

光の早さでルミエルは飛び去っていく。

ベルが小さく呟く。



「お嬢様。」


「......ええ。」


「行ってしまいましたね。」


「......間に合わなかったわ。」




**




翌日。

学園の演習場。

生徒たちは班ごとに森へ入り、薬草採取を始めていた。



「これは回復草ですね。」


「こっちは薬にはならないな。」



ソフィアも籠を手に歩いている。

その時。

ふわり、と一筋の柔らかな光が森の奥に現れた。



「……?」



ソフィアは立ち止まる。



「何かしら?」



光は、まるで導くようにゆっくりと進んでいく。

ソフィアは少し迷った後、その光を追いかけた。

気付けば、班員の姿はすっかり見えなくなっていた。



「少し迷ってしまったかしら……。」



不安そうに周囲を見る。

けれど、すぐに足元へ視線を落とした。



「あら?」



そこには、木漏れ日の中で静かに輝く銀色の花が咲いていた。



「綺麗……。」



ソフィアはしゃがみ込み、そっと観察する。



「この花……薬草図鑑で見たような……。」



記憶を辿る。



「まさか……月雫草?」



驚きながらも、慎重に一輪だけ摘み取った。



「これが本物なら、大切に扱わないと。」



その様子を、離れた木の上で見ていたルミエルは、満足そうに頷く。



(流石ですね。)



再び光が現れ、今度は来た道へ向かうように、ゆっくりと進んでいく。



「帰り道まで教えてくれるなんて……。」



ソフィアは安心したように微笑み、光の後を追った。



しばらく歩くと、



「ソフィアさん!」


「いたぞ!」



先生と班の仲間たちが駆け寄ってきた。



「心配しましたよ!」


「ご、ごめんなさい。」


「綺麗な光が見えて……。」



教師は安堵したように息を吐く。



「気をつけて下さいね、でも無事で何よりです。」



その時。

教師の視線が、籠の中の花に止まった。



「……その花は?」


「途中で見つけました。」



教師は目を見開く。



「まさか……!」



花を手に取り、震える声で呟いた。



「《月雫草》だ……!」



周囲がざわつく。



「幻の薬草!?」


「文献にしか載っていないはずでは!」



教師は興奮した様子でソフィアを見る。



「見つけた場所へ案内できますか?」


「すみません、道は覚えていなくて。」


「そ、そうですか。」



教師は残念そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。



「......ですが、この一輪だけでも十分な価値があります。一輪から大量の薬を精製できると伝えられている薬草ですから。」


「歴史的大発見だ!」


「今年の演習で最大の成果ですよ!」



班の生徒たちからも歓声が上がる。



「さすが聖女様!」


「すごい!」


「おかげで私たちの班も最高評価だ!」



ソフィアは慌てて首を振る。



「私は、本当にたまたま見つけただけで……。」



その謙虚な姿に、生徒たちからの尊敬の念が、さらに深まったのだった。




**




少し離れた場所。

ルミエルは満足そうに頷いた。



「成功しました!」


「……。」



セレスティアは静かに尋ねる。


「何がです。」


「ちゃんとお一人になっていただきました!」


「それで?」


「そして誰にも頼らず、聖女様ご自身のお力で素晴らしい成果を出されました!」



視線の先では。

教師も生徒もソフィアを囲み、次々と賞賛の言葉を贈っている。



「王立研究所にも報告しましょう!」


「素晴らしい功績です!」


「……。」



セレスティアはゆっくり目を閉じた。



「確かに。」


「はい!」


「一時的には、孤立していました。」


「ですよね!」


「ですが。」



セレスティアは冷たく言い放つ。



「戻ってきた頃には、誰よりも人に囲まれています。」



ルミエルは不思議そうに首をかしげた。



「皆さん、とても嬉しそうですよ?」


「それが一番問題なのです。」




**




その夜。

公爵家の自室。

セレスティアは机に向かい、革張りの手帳を慎重に開く。

羽ペンを手に取り、今日の記録を書き込んだ。



作戦6

結果:失敗



さらさらと、敗因を書き記す。



敗因:天使と聖女



ぱたん、と手帳を閉じる。



「……次、こそは。」



その決意とは裏腹に。

廊下の向こうから、ルミエルの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。



「明日もお役に立てるよう頑張ります!」



セレスティアは静かに額へ手を当てた。



「……また、計画を練り直しですわ。」





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