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少女とカゲ

掲載日:2026/05/17

小さな町に住んでいる少女がいた。

少女は町の中学校に通っていた。

少女は同級生の輪に入る事が出来なかった。

だから少女は机の上でいつも下を向いてた。

誰かに話しかけられても「あ、、、。あっ、、、。」としか声が出ない。

先生に指をさされて問題を答える時も「あ、、、。あっ、、、。あ、、、。」

周りの皆は次第にこれを面白がるようになった。

「おい、バーカ。」

「おい、やめとけよ。」

「大丈夫だよ。アイツ嫌って言わねぇから。」

「まぁそれもそうだな。おいブース!」

周りの男子が彼女をからかい出した。

それでも少女は下を向いて口を閉じた。

「こら!男子やめなよ!可哀想でしょ。」

周りの女子が口々に言う。

彼女達は少女を少し励ましたら何処かへ行ってしまった。

少女は自分は世界で一人ボッチだと感じていた。

胸が張り裂けそうだった。

こんな毎日をずっと過ごしていた。

少女に対するからかいは次第にエスカレートしていき、誰も少女を励まさなくなった。

ある日、少女は家に帰ると涙が出た。どうして私は生きてるのだろう。

少女は一人で泣き崩れていた。

そこに母と父が来た。

母は言う。「大丈夫。私達が側にいるわ。どんな事があっても私は貴方の味方だから。」

父も言った。「うちは裕福だから、無理をしなくても大丈夫だ。将来は保証する。だから君は好きな方を選びなさい。」

その言葉に安心した少女は言った。

「うん、、、。私、学校辞めるね。」

少女は学校に行かなくなった。勉強も出来ず、夢中になれるものもなかった少女は家に居続けた。

私の家は裕福だからこのままでも将来はきっと大丈夫だろうって。

高校三年生の夏。

その出来事は突然訪れた。

少女の父と母が交通事故で亡くなった。


その後、少女は今住んでる町とは別の町に住んでいる叔父の家に引き取られた。 

少女は叔父とあまり親しくは無かったが、叔父は少女に優しくした。

けれど少女は何も話さず、ずっと暗い顔をしており、その表情が変わる事はなかった。

少女は自分の部屋の窓の外の遠くを見ていた。少女は叔父の家から出た。


少女は丘の上にいた。

空は晴れていた。

涼しい風が吹いている。

丘には誰も居なかった。

見晴らしは良好で、少女の目の前の景色には山々が連なっていた。

その反対方向には小さくなった叔父の住む町が見える。

少女より背が高く黒い人形ひとがたが少女の前に現れた。

「はじめまして。私はカゲと申します。この世界とは別の次元から貴方をずっと見ていました。そして今日私は貴方を励ましに来ました。」

少女は少し驚いたがこの状況をすぐに受け入れてこう言った。

「同情とか要らないから今すぐ私の事を殺して欲しいんだけど。私もう疲れたの。」

「私に人を殺すことは出来ません。私は姿を現す事が出来ても人に干渉する事は出来ないのです。私は貴方に触れることすら出来ません。それに姿を現す事が出来るのも一度だけです。今夜、私は姿を消します。」

「ふーん。まぁ別に良いけど。で、どんな言葉で私を励ましてくれるの?私の事励ましても何も意味ないよ。どんな言葉を言われても今の私には響かないよ。私は一人だから。生きててもただ苦しいだけ。だって私が誰かに愛される事はないからね。」

「貴方の父と母は貴方を愛していました。」

「じゃあ何で私に嘘をついたの?何で私の前から消えるの?どうして私を一人にするの?私には理解できない。でも一つだけ分かる事がある。あの人達は私があの人達の子供だったから私の味方で居てくれただけ。本当に私を愛してくれた訳じゃない。でも当然だよね。容姿だって悪いし、性格もよくない。自分じゃ何も出来ない。将来も何もない。そんな人間を愛する人なんて居るはずがない。」

「貴方が何を言っても、父と母が貴方を愛している事実が変わる事はありません。そして、貴方は誰も傷つけていません。何故なら貴方は性格が良いからです。出来ない事があっても、出来る事をこれから増やしていけば良いのです。」「あっそ。私より良い人間なんて沢山いるでしょ。それに私、本当はね。皆死ねばいいのにって思ってるんだよ。ここ最近ずっとね。いや、もっと前からかな。私は誰かを傷つける勇気がなかった。ただそれだけ。学校で私をバカにしてきた奴も、私を庇う偽善者達も皆苦しめばいいのにって、ずっと思ってた。私が誰かを傷つけないのは報復が怖いから。つまり、自分のためなんだよ。私に力がないだけ。ていうかよく考えたらずっと昔、小学校の頃から私はそうだった。人に嫌われたくない、一人になりたく無いからずっと自分を演じてきた。母も父も私を優しい子だと言ってた。けど、それは私に何も取り柄がなかったという事。私は人に嫌われたくないだけ。一人になりたく無いだけ。だから誰かにとって都合の良い人間を演じてるだけなんだよ。もう何もかも面倒くさいんだよ。一人だと苦痛で生きていけないから誰かと一緒にいないといけない。でも、人間関係が苦痛で仕方がない。出来る事はこれから増やせば良い?私もう高校三年生だよ。勉強とかつまらな過ぎてずっと逃げてきた。今更、間に合うわけがない。熱中できる物も何もないのに、どうしろというの?私はね。中学の勉強すらまともに出来ない。もう今更頑張っても手遅れなんだよ。私はこの先の人生なんて望んでない。だからもう生きていたくない。」

「でも貴方は今生きている。それは生きることを心の何処かで望んでいるからなのでは?」

「死ぬのが怖かった。ただそれだけ。いろんな方法を試してきたよ。でも結果死ねなかった。それは恐れてるから。だから誰かに殺してもらわないと私は死ぬ事が出来ない。私はどうすれば良いと思う。答えを教えて。私はもう答えさえあれば何でも良い。」

「答えを知りたい気持ちは分かります。けれど、この世界に答えはありません。ただ、一つだけ。この世界は相反するものが必ず存在します。今、貴方の心を蝕む苦しみや、悲しみ、不幸が存在するのなら、それとは相反する物もあるという事です。それを探す為にもう少し生きてみるのはどうでしょうか?」

「そんなもの私には訪れない。ずっと訪れた事がない。これからも訪れる訳ない。私は何も出来ない。私は一人だから。何も持ってないから。」「人生は絶えず変化します。不変なんてありえません。この苦しみや悲しみもいつか終わりが来るでしょう。それに貴方は一人じゃない。私が側にいます。私が貴方の側についています。」「今日消えるんでしょ。私の前から。じゃあ意味ないね。結局また私は一人だ。サヨナラ。」

少女の目は相変わらず遠くを見ていた。

しばらく沈黙が流れる。

日差しが彼女らに降り注いでいた。

少女は口を開く。

「どうしていつも私なのだろう。皆私よりずっと遠くにいる。遠くで笑ってる。お前らもこっちに来いよ。何が私の気持ちが分かるだ。誰も私の事なんか理解してない。私を理解できる訳がない。皆友達がいて家族がいて恋人がいて愛されて。私には何もない。皆不幸になれば良い。皆苦しんで死ねば良い。私のもとに来い。焼かれろ。この町ごと燃やして焼き尽くしてくれ。」「・・・」

「カゲ。今のが本当の私だよ。ごめんね。貴方は私を励ましに来てくれたのに。私がこんな人間って知って失望したでしょ。私みたいな人間が誰かから愛される訳ないって分かった?私は器用な人間じゃないから自分の心に嘘がつけないの。だから私は一人で生きてくしかない。だって、誰かと一緒にいたい、愛されたいって思っても私はそれを手に入れる事が出来ないから…。」

少女の目から涙が零れた。

少女の目から涙が溢れ出した。

少女は涙が止まらなかった。

ずっと溢れ出している。

少女より背の高いカゲはただ黙って近くで少女を見つめていた。

風が吹き、太陽は照り、空は青く、少女達の上を雲がゆっくりと通り過ぎて行く。

それよりも素早い速度で鳥は雲の真下を通り過ぎて行った。

少女は泣き続けた。

ずっと泣いていた。


どれほど時間が経ったのだろう。

涼しい風が吹き、空は相変わらず晴れていて青かった。

少女はカゲに問う。

「私は死ぬ勇気なんて無かった。

私はこれからどこへ向かえば良いと思う?

夢中になれるものも、やりたいこともない私はこれからどこへ向かえば良いの?」

「本当にやりたい事が無いのですか?」

「あってもできる訳ないでしょ。才能も無ければ努力もしてこなかった。ずっと家にいただけだよ。家は裕福だから何もしなくても大丈夫って思ってた。ただそれだけだった。まあ自業自得だけどね。もっと早く気づけば良かった。この世は私が思ってるよりも無慈悲だし、神様なんていないって事に。それに早く気づければどんなに苦しい事があっても逃げずに努力出来たのかな?辛くても仕方ないって割り切る事が出来たのかな?まぁ分からないけど。私は子供すぎたんだ。ずっと自分の世界で生きてた。でもそれは間違いだった。この世界は私の意思とは関係なく進んでいく。だから私自身が行動しないとこの世界は私を置いて何処までも進んでいく。父と母を、私の大切な人を私から奪っていく。現実の世界は私よりずっと遠くにある。」

少女は遠くを見つめていた。

山々が広がるその先の地平線を見つめていた。カゲは言う。

「生きて行くと決めたら前を向いて進むしかないでしょう。一歩ずつ確実に進めば良いのです。今死ぬ必要なんてありません。人生にはいずれ終わりが来ます。それまで生きてみれば良いのです。私は貴方を決して見放したりはしません。もう二度と会うことは出来ないけれど。寂しさを感じたら私を思い出して下さい。私は貴方の側にいます。」

少女は目が潤んでいた。

小さな声で「ありがとう。」と呟く。

少女は言う。

「私、あなたの事決して忘れないから。」

風が吹き抜ける。

太陽は相変わらず眩しく、二人を照らす。

カゲは言う。

「決して焦ってはいけません。私が貴方の側にいる事を覚えてて下さい。そして心を落ち着かせて下さい。世界の流れに身を任せるのです。そうすればきっと今より良い場所へ行けるはずです。」

「分かったよ。本当にありがとうね。私のもとに来てくれて。」

カゲは少女の隣に佇んでいた。

少女は目に涙を浮かべて遠くを見ていた。


世界で一人だった。

父も母ももういない。

友達も居ない。

小学校の頃はいたっけ?

でも心を許し合えるような仲じゃ無かった気もする。

世界は私から全てを奪った。

もう何も見たくない。

聞きたくない。

さぁどうやって死のうか。

毎回そうだった。

死のうと思っても直前で諦める。

結果私は生きている。

外は晴れていた。

叔父の住む町には丘がある。

その丘の上から飛び降りたら死ねるだろうか?人間が作る物語はくだらない。

全てはフィクション。

現実なんかじゃない。

世界中で流行ってる恋愛ソングはどれ一つとして私の為の歌ではない。

愛だの恋だの歌いやがって、黙れと思う。

なんであんな物が流行るのか私には理解が出来ない。

あんなものただの幸福自慢にしか聞こえない。私の心を惨めにするだけだ。

まぁ理解出来ないこともないけど。

きっと私以外の人達はその歌に共感して、涙を流したり気持ち良くなっているのだろうか。

世界中で流行ってる漫画や小説の恋愛描写だって見たくも聞きたくもない。

私の青春は全てクソだった。

もう戻ることは出来ない。

そして、努力も何もせずただ家の中で一日中時間を無駄にしたツケをこれから払い続けなければならない。

これは自業自得だ。

そして、私が学校で味わった苦しみは本物だ。他者の私に関する評価も怖かった。

苦しみから逃れるために逃げた。


丘の上に立ち空気を吸った。

風が気持ちいい。

何処までも続く遠くの山々を見ていた。

心がずっと痛かった。

この痛みが何処から来るか分からない。

奥底からくる痛みだった。

今も心臓が痛い。

後ろに何か気配を感じた。

振り返ると黒い人形ひとがたが佇んでいた。

その黒い人形は喋った。「

はじめまして。私はカゲと申します。

この世界とは別の次元から貴方を励ましに来ました。」

少し驚きはしたが、あの時の私はこの世界の全てがどうでも良かったからその状況を考える事もなく受け入れて、彼に自分の事を話した。

私は彼の前なら自分の全てを曝け出す事が出来た。

何故なら彼は人外だったから。


自分の気持ちを彼に全て吐き出した。

彼は私の事を決して否定しなかった。

そんな彼がずっと私の隣にいてくれた。

それが心地よかった。

私は誰からも愛される訳がないと言いいながら、私の目から涙が込み上げて来た。

私は泣いた。

丘の上でカゲに見守られて泣き続けた。


しばらくして涙は枯れた。

その後も私は彼と話をした。

私をカゲが励ましてくれた。

ずっと側にいると言ってくれた。

それが嬉しかった。

やっと泣き止んだのにも関わらず、嬉しさで涙が込み上げてきた。

しかし、その涙は外に出ることはなく、瞳に溜まっていた。

そして私は遠くを見つめた。

風が涼しく、空は青く、山々は遠く、雲は白い。

私はこの景色が好きだった。

この町に最初に来た時に、叔父に連れて行ってもらった場所の一つだった。


家に帰ると叔父の声がした。

「おかえりなさい。」

「うん。ただいま。」

「さあ。風呂に入って飯にするか。」

叔父はそう呟く。

私は叔父の言う通りにお風呂に入って体を洗った後に、食卓で夜ご飯を食べた。

その後布団に入った。

私の布団の横には窓がある。

その窓から黒い人形ひとがたが覗き込んでいる。

私は窓を開けて彼に聞いた。

「あのさ。本当にもう二度と会えないの?」

「はい。私は貴方のもとを離れたらもう二度と私は貴方の前に現れる事はできません。そういう決まりなのです。」

寂しかった。

私の心を全て曝け出す事が出来たカゲにもう会う事ができないから。

カゲは、たった1日で私の大切になっていた。カゲは言う。

「時間を戻したり出来ない事と同じです。貴方はこれから一人で出掛けて行かなければならないのです。でも安心して下さい。貴方が何処にいても貴方は一人ぼっちではありません。」

「だってあなたが私の側に居てくれるんだもんね。」

「その通りです。さて、どうやら別れの時間が来たようです。私はもう行きます。」

「ありがとう。さようなら。」

「こちらこそ。それでは。」

そう言うとカゲは私の目の前で姿を消した。


少女は窓を閉めた。

カーテンを閉めて布団に入り、少女は眠りについた。

カーテンの隙間から少女が住む町の明かりが差し込んでいた。


終わり


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