奥州焼石戦線
唐突にドライブしようと友人に誘われ、二つ返事で了承。スマホのゲームアプリのログボを回収しつつ、迎えに来るのを待つ。
『着きましたぜ』とものの数分で連絡が入り、外を見てみると友人はいた。
友人の車の運転技術は自分より遥かに上。もっと上はいるだろうが、同い年なら友人が一番ではなかろうか? そんなことを考えながら、親兄弟に何も言わずに外へ出る。
最近、友人と話すのがとても楽しい。
「おいっす〜。おはよう」
「おっす! ハジメさん。調子はどうだい?」
「うーんとね、死にたい」
「ありゃ、わしと同じだ。わっはっは」
友人の名は藤崎タダイチ。ただ今絶賛鬱病治療中。医者からは躁鬱と言われてるらしいが、本人曰く「ADHDと気分変調症のセット!」らしい。友人は誰よりも働いていて、俺によくしてくれて……そして、誰よりも虐められていた。
クソ忙しいのに見栄張ってメシ奢って貰ったり「わし、馬鹿だからわからんけど、発狂を3回したら人生捨てるかも」と言って本当に発狂した馬鹿だ。
それなのに何故友人を続けているのか?
答えは簡単、友達が居ないからだ。正しくは仲の良い友人はタダイチ1人だけだ。
俺は小中、学校に行くのが嫌だった。理由は単純、兄と比べられるからだ。兄は頭がいい。勉強ができない俺と違って。兄は野球ができた。俺も野球をやらされた。何も楽しくなかった。楽しんでいたのは親と兄だけだった。
タダイチもそうだった。フィリピン人とのハーフってだけで虐められていた。特に女子に。田舎ってそうだよな。毛色が合わなきゃ捨てられる。
目立ちたくないのに無理矢理スポットライトへと押し込む風習が何より嫌だった。
「中高で失敗しない部活ってなんだろうね?」
「あー、なんだろ?」
ドライブ中、こんな話をしだした。
「俺、運動も文化も嫌だぜ?」
「えっ? まだ文化部の方良くない?」
「ほら、なんか賞とか出すじゃん。なんちゃら文学とか」
「あー……そっか。じゃあさ、生まれ変わったなら一緒の運動部入ろうよ」
「中総体とか、ダルくない!?」
「中総体、久しぶりに聞いたわ。おもろ」
「俺ら野球部、全員ヘタクソだから見てられなかったぞ」
「そうだったんだ」
「できれば吹奏楽やりたかったな……」
「吹奏楽ねー……女子の圧やばかったな」
「担当の小前田嫌いだし、女子はブスばっかだし……」
「そんなかに底辺男子入れたところでーだもんな」
「ロクな部活無かったな、中学!」
「運動部辞めた先が美術部とかいう墓場だったもんな」
「美術部は雰囲気が終わってたもんな。美術部ガチは怒っていいよ、アレは」
「そもそも『運動部は勝ち組』みたいな空気だったもんな、ひでーよ全く……」
「──山だ」
「山?」
「えーっと、なんだっけ……? 山岳部! 山岳部が良いわ。生まれ変わったら」
「山岳部? どうしてさ?」
「一番良くね? 基礎体力つくし、達成感あるしさ。就活のデバフにならんやろ」
「あー確かに。20kgのリュック背負って、学校の一階から三階へ登って降って……練習でも達成感あるね。」
「すぐ近くに焼石? とかあるじゃん? 岩手山もあるし」
「いーじゃん山岳部! 夢あるわー」
そんな話をしているなか、農免道路をスラスラ進む。
「ところで、どこ行くん?」
「胆沢ダム。そーいや、行ったことなかったなぁ?って思って」
「何かあるんか?」
「なんもない」
一旦会話が終わってしまった。
「あっ! ここにカフェなんかできとるわ。帰りに寄る?」
「コーヒー嫌いだからいいや」
「あっ、そうですかー」
珍しいもの好きの藤崎に合わせると、たまにハズレを引くから適当に流すのが主流だ。
車で約25分、胆沢ダムに着いた。
「雪はないけど、風が強くて寒いわねぇ〜」
「すごっ! こんなところあるんか。このど田舎に」
自分は少しテンションが上がった。
「絶対ここで自殺する人おるでしょ? ここなら確実に死ねるわ」
「夜、封鎖されてるから自殺は無理でしょ──いや、止めますぞ、ハジメさん! わしの目の前で死ぬな」
「冗談だよ──そういえば、最近誰か死ななかったっけ?」
「ゴキブリだよゴキブリ」
「ゴキブリ?」
「そう、ゴキブリにみたいなやつ」
ゴキブリと言われて思い出すのは、同じ部活動の野球ヘタクソで見栄っ張りで、クラスの上位に立とうと必死だったやつ。
「──あぁ! アイツかぁ〜。そっか死んだかー。どこで死んでたん?」
「仕事場で首吊りだってよ。迷惑だよなぁ? 飲食店だぜ?」
「ふーん、自殺かぁ〜。奥州なん?」
「いいや、前沢だってよ。駅前の」
「うわっ、まじ最悪じゃん。常連さん困ってそー」
「それがね、姉情報だが死んでせいせいしたって言われてるらしいよ? 借金、客からもしてたらしいし」
「借金? なにでよ?」
「ギャンブル」
「ばっかでー!!!」
『あっはっはっはっ!』
周りを気にせず、大きい声で笑ってしまった。
それにしても高さはどれくらいあるのだろうか? 最近、こういう所には行かなかったので新鮮味を感じる。
「ロボットでも埋まってそうだな」
「何だそりゃ? ここからマジンゴー! でもするんか?」
「物の例えだよ!」
「……帰るか。見れそうなところ歩いて見たし」
「トンネルの向こうは?」
俺は観測台へ向かうトンネルを指差した。
「無理やろ。関係者以外立ち入り禁止なんだから」
「なんとかしろ藤崎」
「できるかー」
その日昔話に花が咲いて同級生のいる店に茶々を入れたあと競馬しに行って負けた。
10年後
4月15日 11:00
初めての防衛戦が始まる。
「高雄型弍番艦愛宕、今のところ問題ない」
「高雄型参番艦若柳、異常ありません」
「高雄型肆番艦南都田、問題なく起動しています」
俺たち3機は問題なく大地へ立つ。
「改めて今回の作戦を藤崎、説明を」
「りょーかい。ひとひとひとまるにぃ〜……やっぱ、普通に言うわ。11:10に戦車部隊が金ヶ崎平野にいる巨大ワーム型に攻撃。出産ぽんぽんワームをひめかゆ側に来させないように迎撃──こんな感じ?」
「まぁ、いいだろう」
「真面目にやってください、藤崎少尉」
「遂に実戦だねぇ、ハジメさん」
呆れているカエデを無視して俺に話しかける藤崎。
「……あぁ」
「まさか赤紙が来て5年でこんなことになるなんてね、運命ってのはよくわかんねーな」
「……」
何も言わなくても喋り続ける藤崎。
「そんでも、失ったもんはお互いデカすぎたな。身体の一部とか」
「それでこそ『持っていかれた』か?」
「うわぁ!! 平成ネタすぎるぅ〜!!!」
「お二人とも! そろそろ作戦開始時間ですよ!!」
「へいへーい。キミノテデー、キリサイテーっと」
「歌はアゲインの方が好きだな」
まもなく照明弾が光り、敵との対決が始まる。俺は通信機を切った。
今日で死ねる──長官からの最終命令を忘れるところだった。危ない危ない。死にたがりは今も昔もおんなじだな。
オレンジの照明が光り、砲台音が山を響かせた。
「来る」
ジャックス高雄型は主に遠距離武器が常備されてる機体だ。ある程度の近接攻撃は可能だが、やらない方がいい。
俺の機体にはグレネードウェポンとダブルマシンガンが装備されている。弾が無くなれば、近くの補給拠点で供給できる。
「グォオオオオオオ!」
敵ワーム型のお出ましだ。
「撃てぇい!!!」
俺はダブルマシンガンで迎撃する。他二機も各々の銃装備で迎撃した。
「うぉおおおお!」
弾1発1発の重みが身体を揺らす。ジェットコースターは好きだったが、この重みははっきり言って気が失いそうだ。
カエデから通信が入る。
「第一波、ほぼ壊滅しました」
「油断するなよ。そろそろ羽化する頃合いだ」
ワーム型は出産されたのちに羽化する。本来は土に潜ってから羽化するのだが無理矢理出産させた場合、一定時間暴れたあとに強制的に羽化してしまう。我々はこれをホウトウと呼ぶ。
「弾薬節約なんて言ってられないなぁ、こりゃあ」
「肩のステルスマインまで使いきるなよ!」
ダブルマシンガンを一旦仕舞い、グレネードウェポンを構える。
「第二波ホウトウ、来る!」
ビィィィィンと嫌な羽音を鳴らして襲いかかってくるホウトウ。
「キシャアアア!!!」
「くっ!?」
びびってしまったが、慌てずにグレネードウェポンを放つ。
「キシャアアア!!?」
「ひとつ撃破!」
「死にやがれトランセル野郎!! スピアー先輩見習ってどうぞ!」
この状況下でも余裕をみせる藤崎。
「スピアーってそんなカッコよかったか!?」
「いいじゃんよ虫タイプ! 何が好きなんだよポケモン」
「……ガブリアス」
「厨ポケじゃねーか!」
冗談を言いながらも丁寧にホウトウたちを撃破していく。
「おい、氷見はどうした? 通信に割って入ってこねーぞ」
「氷見少尉、応答しろ!」
本部から通信が入る。
「氷見少尉、パニック状態です!」
「なんだと!? 今更びびってる場合かよ!」
愛宕が南都田に近づき、機体を揺らした。
「おい! 聞こえてんだろ? 聞こえてんなら俺の指示に従って深呼吸しろ! 3回しろよ、3回!」
「第三波、まもなく来ます!」
「わかってる! 藤崎ぃ!」
「しょーがない。いっちょ、カぁッコつけますかぁ!!」
カエデの盾となって藤崎は武器を構えた。
ここからはホウトウだけではなく成虫型も混ざってくるので油断大敵だ。
「藤崎! なんか歌って氷見少尉をなごませろ!」
「突然の無茶振り!? いいぜ、やってやるぜ!!」
冗談で言ったのだが、急に歌いはじめた。
「歌い始めた頃のー、鼓動揺さぶる想い、何故かいつかー、どこかに置き忘れていたー。ナマヌルい毎日に、ここでサヨナラ言うのさ、そうさ誰もー、オレの熱い想い止められなーい〜」
「ヤックデカルチャー」
「だ、ぶっふ! 唐突にゼントラン語話すなよ」
「マクロスだからつい……」
「今度のカラオケはワルキューレ歌うかぁなっと!!」
一度だけの恋もしたことない俺たちはカエデを護りながら敵を迎撃する。
「ハジメさん? そろそろ弾切れじゃねーの? 補給拠点に行った方がいんじゃね?」
「それはおまえもだろ?」
「こっちは気合いのヒートソードがあるし、ステルスマインもある。平気だって、行ってこい!! 本部! まだ四波は来ないんだな?」
「はい! 余裕があります」
「だってよ!」
「すまん、行ってくる」
俺は補給拠点へ移動した。
長官からの命令はこうだった。
「もし、藤崎タダイチが暴走するなら自爆させろ」
「は?」
「奴の機体に自爆装置を付けた。この装置を起動すれば爆発する」
と言われ、起爆スイッチを渡される。
「奴もジャックスの狂気に呑まれるかもしれん。頼んだぞ」
肩を叩かれた。
ジャックスに乗るための条件はひとつ、精神疾患なこと。理由は詳しくは知らない。流されるまま、ここまで来てしまった。
俺は友人を殺せるのか?
本部から通信が入り、目が覚める。
「愛宕大破! 南都田苦戦、至急迎撃に迎え!」
「補給切る! 待ってろ、二人とも!!」
まだ死ぬな。
まだ殺されるな。
俺の知ってる人物がこの世から消えるな。
俺の友人を殺すな。
「タダイチ!!! カエデ!!!」
そこには脚部が破壊された南都田機が残ってた。
「高原、中尉……」
「氷見少尉! 脱出できるか!?」
「……ザー……ザー……ザー……」
通信機が壊れてしまったのか、声が聞こえない。それでも声をかけ続ける。
「氷見少尉! 脱出して逃げるんだ!!」
「────にげて」
その声が聞こえた時には遅かった。南都田機のコックピットが爆発してしまった。
司令部
「南都田機、撃破されました」
誰もが悔やむなか、長官だけは違った。
「ロクなパイロットではなかったな」
長官は自爆装置のスイッチを押したのだった。これ以上使えないと思い、処分した。
「若柳機、未だ沈黙!」
「どうしたのだ高原? なぜ動こうとしない?」
「巨大ワームに襲われた愛宕機から伝達! モールス信号のようです!」
「なにぃ?」
大破した愛宕機の自爆装置も持っていればと悔やみつつ、伝達を聞く。
「なんと言っている?」
「えっ! あの……『ブービートラップを知ってるか?』だそうです」
(しまっ──)
司令部は爆破された。
高原は藤崎タダイチに長官の命令を喋っていた。
「それなら、氷見カエデも危ないかもな」
「どうしてだよ?」
「自爆装置ひとつなわけないだろ〜? 絶対もうひとつあるって!」
「そう……なのか?」
「よしっ! ここはわしに任してくんしゃい!! オモロイことしてやるよ」
「そうか、任せた──バレるなよ」
「バレたらわしは先に死ぬよ」
現在
「オ゛ぉおい、生きてるが、ハジメざぁん?」
「生きてたのか、藤崎?」
「な゛ーんが、ジャックスど融合しだみたい゛」
「……なんだよ、それ」
「この゛声だど、今までの゛美声は無理だなぁ゛〜」
「何歌うんだよ?」
「……ライオン」
「ヤックデカルチャー」




